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著者プロフィール
眉村 卓(まゆむら たく)
1934年、大阪生まれ。大阪大学経済学部卒。サラリーマン生活のかたわら同人誌「宇宙塵」に参加し、61年「下級アイデアマン」でデビュー。63年には「燃える傾斜」を発表し、日本で二番めの長編SF作家となった。以後、「幻影の構成」「EXPO'87」といった長編と共に、ショートショート、「ねらわれた学園」などの学園SFも多数執筆している。「消滅の光輪」で第七回泉鏡花文学賞を受賞。
1934年、大阪生まれ。大阪大学経済学部卒。サラリーマン生活のかたわら同人誌「宇宙塵」に参加し、61年「下級アイデアマン」でデビュー。63年には「燃える傾斜」を発表し、日本で二番めの長編SF作家となった。以後、「幻影の構成」「EXPO'87」といった長編と共に、ショートショート、「ねらわれた学園」などの学園SFも多数執筆している。「消滅の光輪」で第七回泉鏡花文学賞を受賞。
解説
ある日、エリート・サラリーマンの井場の前に、学校時代の落ちこぼれだった級友が経営するアイデア会社が出現した。それは正規の教育体系にもとづかない“裏学校”出身者ばかりで構成され、実に自由で活発な創意と行動力にあふれていた。井場の心は揺れ動いた……。
人間にとって理想の社会とは? 未来社会に問題を投げかける社会SF他、秀作SF全6編。
人間にとって理想の社会とは? 未来社会に問題を投げかける社会SF他、秀作SF全6編。
目次
鳳凰傘下(ほうおうさんか)
月光のさす場所
暁(あかつき)の前
オーディション
霧に還(かえ)る
剥落(はくらく)の冬
月光のさす場所
暁(あかつき)の前
オーディション
霧に還(かえ)る
剥落(はくらく)の冬
抄録
二十名たらずの幹部の前に引かれた幕が、この時静かにあがりはじめていた。スポットライトが、さっと中央の物体に向けられた。
「うむ」
社長がうなり、一同は軽い吐息をつく。
ロボットだった。等身大の、精巧な奉仕ロボット……。
やさしい表情と、やや背をまげた誠意と卑屈をいっしょにしたポーズ。
だが、滝はしっかりと、椅子(いす)の肱(ひじ)をにぎりしめていた。馬鹿な! こんな馬鹿な……こんなことが、あってよいものか!
「仕事をさせろ」
社長が叫んでいた。「みごとだぞ。こき使うには、もって来いだ」
ロボットは、動きはじめた。中老の、愚鈍な顔つきをこちらにむけた。「何かご用がございますか……」
く、くっと滝の口から声が洩(も)れた。
お父さん!
似ていた。そっくりだった。声も、動作までも……。やめろ、やめてくれ……。
落ち着くんだ、と、もうひとつの心が制止していた。これは人形なんだぞ。会社の商品なんだぞ。
「どうした?」
社長の問いに、滝は一瞬、完全に自己を制御してから答えていた。「……別に……どうですか?」
「なかなかいい」
社長は言った。「人間に使われるためのあらゆるイメージの総合的成果というやつかな。いいよ、実際、これなら誰にだって軽蔑されながら働く感じだ」
「……そうですか」
「あとは費用面だけだが。きみ、おい、どうしたんだ」
「ちょっと、失礼します」
滝は声が割れそうになるのを抑え、やっとのことで立ちあがると、部屋を出た。
あれが、あれが、自分の出したデータの実現されたものなのか……すべての科学的成果が、なぜ父でなければならないのだ。
あり得ることだ……そう、彼の父は最初から、人につかえるための存在だった。人間に奴隷のようにつかえるための鼻の形、眼(め)のかたち、表情、それら無数のデータの集積が、父そのものに近づいて行ったのだった。
あれが、量産されて、誰もが所有し、寿命の尽きるまで酷使される? 家畜以下の権利しかない便利な機械として、広く行きわたるのだと?
叫びたかった。自分の父を軽蔑するのは、自分ひとりで沢山だ。他(ほか)の奴(やつ)らに、同じことをしてもらいたくはない。
いま、彼の心の中では、いっさいの時間が逆流していた。何という偶然、何という復讐(ふくしゅう)……。ああ、自分は二十数年かかって父を作りだすために、父を捨てたのか。そのために父を放り出して学校生活を送り、その死にも会わなかったのか。死ぬとき、きっと父は何か自分に言いたかっただろう。だがそんなものは聞く必要がないと思っていたのだ。
彼は、廊下の壁に手をついて、唇をふるわせていた。それからおもむろに膝(ひざ)をつくと、泣いた。大声で、泣き叫んだ。
(「霧に還(かえ)る」より)
「うむ」
社長がうなり、一同は軽い吐息をつく。
ロボットだった。等身大の、精巧な奉仕ロボット……。
やさしい表情と、やや背をまげた誠意と卑屈をいっしょにしたポーズ。
だが、滝はしっかりと、椅子(いす)の肱(ひじ)をにぎりしめていた。馬鹿な! こんな馬鹿な……こんなことが、あってよいものか!
「仕事をさせろ」
社長が叫んでいた。「みごとだぞ。こき使うには、もって来いだ」
ロボットは、動きはじめた。中老の、愚鈍な顔つきをこちらにむけた。「何かご用がございますか……」
く、くっと滝の口から声が洩(も)れた。
お父さん!
似ていた。そっくりだった。声も、動作までも……。やめろ、やめてくれ……。
落ち着くんだ、と、もうひとつの心が制止していた。これは人形なんだぞ。会社の商品なんだぞ。
「どうした?」
社長の問いに、滝は一瞬、完全に自己を制御してから答えていた。「……別に……どうですか?」
「なかなかいい」
社長は言った。「人間に使われるためのあらゆるイメージの総合的成果というやつかな。いいよ、実際、これなら誰にだって軽蔑されながら働く感じだ」
「……そうですか」
「あとは費用面だけだが。きみ、おい、どうしたんだ」
「ちょっと、失礼します」
滝は声が割れそうになるのを抑え、やっとのことで立ちあがると、部屋を出た。
あれが、あれが、自分の出したデータの実現されたものなのか……すべての科学的成果が、なぜ父でなければならないのだ。
あり得ることだ……そう、彼の父は最初から、人につかえるための存在だった。人間に奴隷のようにつかえるための鼻の形、眼(め)のかたち、表情、それら無数のデータの集積が、父そのものに近づいて行ったのだった。
あれが、量産されて、誰もが所有し、寿命の尽きるまで酷使される? 家畜以下の権利しかない便利な機械として、広く行きわたるのだと?
叫びたかった。自分の父を軽蔑するのは、自分ひとりで沢山だ。他(ほか)の奴(やつ)らに、同じことをしてもらいたくはない。
いま、彼の心の中では、いっさいの時間が逆流していた。何という偶然、何という復讐(ふくしゅう)……。ああ、自分は二十数年かかって父を作りだすために、父を捨てたのか。そのために父を放り出して学校生活を送り、その死にも会わなかったのか。死ぬとき、きっと父は何か自分に言いたかっただろう。だがそんなものは聞く必要がないと思っていたのだ。
彼は、廊下の壁に手をついて、唇をふるわせていた。それからおもむろに膝(ひざ)をつくと、泣いた。大声で、泣き叫んだ。
(「霧に還(かえ)る」より)
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