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ホラー短編傑作選 兇〈弐〉

ホラー短編傑作選 兇〈弐〉


発行: キリック
シリーズ: ホラー短編傑作選 兇
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆14
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解説

 街じゅうのいたるところで〈他人には見えない死体〉を見るようになった北村は、ある日、あきらかに自分と同じモノを見て怯えている小百合と出会う。だが、それはありえないことだった。なぜなら北村に見えている死体は、交通事故で負った〈高次脳機能障害による幻覚〉だと医師に診断されていたからだ。果たして、二人に見えている死体の正体とは……『死者のいる風景』著:梅津裕一
 自称パチプロでニートの孝一に、ある日、届いた一通のメール。そこには『来店不要。ネットで簡単手続き。どんな方にも百パーセントお貸しいたします』と書かれていた。あまりにうまい話でかえって怪しかったが、すでに借金で首が回らなくなっていた孝一は、渡りに船とばかりにそのメールに飛びついた……『不良債権』著:青山祐
 僕ガ君ヲ救ウ、予言者トーマ──公園のトイレでそんな落書きを見つけた葉南は、なぜかそれが自分への伝言のように感じられ、その隣にあるメッセージを残した。後日、返事を期待して訪れると、そこには「死ス」という言葉を含む暗号のような文章が。そして、その予言のとおりに葉南のクラスメイトが死ぬ。それからもトーマの不吉な落書きは続き……『喪 ─875─(死ナバ、葬〜現代都市伝説奇譚〜より)』
 自分だけの安心できる空間が欲しい。それまで会社の寮に住んでいた伊郷だったが、あることをきっかけにマイホームの購入を決意する。そして、思案に思案を重ねて手に入れたそれは、こじんまりとしながらも理想に近いほぼ完璧な家だった。近所の住人たちが彼に干渉しはじめるまでは……『マイホーム』著:狂気太郎

 凶悪、至極。気鋭のホラー作家四人が贈る電子限定、最恐ホラーアンソロジー第二弾!!

目次

 『死者のいる風景』著:梅津裕一
 『不良債権』著:青山祐
 『喪 ─875─(死ナバ、葬〜現代都市伝説奇譚〜より)』著:小鶴
 『マイホーム』著:狂気太郎

抄録

 いつものように、電車のなかには死臭が漂っていた。
 やはりタクシーにするべきだったか、と思う。
 満員というほどではないが、車内はそこそこ混雑している。死体はシートに腰掛けるようにして放置されていた。
 すでに死後、一週間は経過しているだろう。腐汁があふれ、肌は体内にたまったガスのせいでふくらんでいる。背広姿から男性だとわかるが、そうでなければ性別を判断するのも難しかったはずだ。年齢は、見当もつかない。
 うつろな眼窩《がんか》には大量の蝿がたかっている。さらには蛆が歯茎のあたりでうようよと蠢いていた。こうした光景にはすでに慣れたとはいえ、決して気分のいいものではない。
 だが、ほかの乗客たちには、死体を気にした様子がなかった。
 内輪話で盛り上がっているのか、女子高生たちが派手な笑い声をたてている。帽子をかぶった老人が、目を閉じてうつらうつらしていた。ごく当たり前の、電車内の光景だ。
 そのなかに「異物」として、死体が存在している。にもかかわらず、誰も反応を示さない。
 悪臭を放ち、蝿のたかる死体を無視するなど、並みの人間の神経では不可能だ。ということは、やはり医者の言っていたことが正しいのだろう。
 すなわち、この死体は俺の脳が生み出した、一種の幻影なのだ。
 数週間ほど前に、俺の運命は変わった。
 もともとクルマ好きだった俺は、その日も純粋にドライブを愉しんでいた。個人的な嗜好もあり、少し調子に乗って、峠道のスリルに酔っていた。
 気がつくと、ガードレールを突き破っていた。
 事故の記憶はほとんど残っていない。人間というのはよくしたもので、本当におそろしかった記憶は忘れてしまうのだという。
 自慢の愛車は大破していた。病院にかつぎ込まれた俺を診て、医者や看護師は奇跡だと言った。俺の怪我が、ごくわずかな打撲だけだったからだ。
 少なくとも、表向きは。
 昔から俺には、いろいろな意味で、ツキがあった。
 実家からして、ビルをいくつも所有している資産家である。両親の愛情をたっぷりうけて、この歳までなに不自由なく育ってきた。頭も悪くはないほうだと思う。一流と呼ばれる大学に大して受験勉強もせず一発で合格できるくらいには。スポーツも得意で、高校のころはサッカーをやっていた。女にもモテた、といっていいだろう。自分でいうのは気恥ずかしいが、顔も悪くはないほうらしい。
 俺はあまりにも恵まれすぎていた。ときおり怖くなったほどだ。
 しかし、運命の女神というのは性悪らしい。それまでの恵まれた境遇を、事故で一気にひっくり返してくれた。
 一通りの検査を終え、あっさりと退院できた俺を待ち受けていたのが、街のあちこちに転がる死体だった。
 路地裏に、あるいはゴミ捨て場に、何人もの死体が転がっていた。
 当然のことながら、俺はパニックに陥った。
 あわてて周囲の連中に「死体が転がっている」と叫んだが、誰もが頭のおかしい人間を見るような目で、俺のことを見た。一一〇番通報をしたら、警察官にこっぴどく叱られた。
 死体などどこにもない、というのだ。たちの悪いいたずらはやめてくれ、と。
 俺の目には、はっきりと死体が見えている。おまけに蝿もたかり、凄まじい悪臭も放っている。
 なのに、みなが口を揃えて「そんなものはない」という。
 悪い夢でも見ているようだった。世界が発狂したか、あるいは、おかしくなったのは自分の頭のほうなのか。
 交通事故にあった直後の俺としては、残念ながら後者の可能性が高いと考えるのが自然だった。
 だが再検査の結果、異状は見つからなかった。俺の脳をさまざまな方法で調べた医者は説明した。
 (検査では発見できませんでしたが、あなたは高次脳機能障害の可能性があります)
 そんな病名は聞いたことがなかった。
 (交通事故などで脳を損傷した場合、脳の認知機能に異常が起こることがあるんです。症状はさまざまですが……人間の顔を認識しづらくなったり、空間知覚能力がおかしくなったりします。あなたはかなり特殊な症例のようですが……)
 と、言われたところで、むろん納得などできるはずもない。だが、医者はあくまで冷徹だった。
 (ただ、人間の脳というものは、実は簡単に幻覚を見るものなんです。たとえば、目から入ってきた光を、人間は脳の視覚野というところで処理します。しかし、その視覚を『どのように認識するか』は、脳のまた別の部分にゆだねられます。つまり、いまの現象はあなたの脳が『なにもない場所に存在しない死体を認識している』だけなのです)
 それが医者の診断だった。
 どうすれば、こんなグロテスクな現実から逃れられるのかという問いに、医者は困惑したように答えた。
 (正直……わかりません。ある日、いきなり治る可能性もありますし、一生、この症状が続くかもしれません。こればかりは、現代医学の限界としか……)
 かくして、俺は年がら年じゅう、実在しない死体とつきあう羽目になった。(梅津裕一『死者のいる風景』より)

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