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和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>白衣
春原 いずみ(すのはら いずみ) 6月7日生まれ 双子座 A型。新潟県出身・在住。現在、某法人病院に、診療放射線技師として勤務。93年、ムービックのアンソロジーにてデビュー。二足のわらじをはきつつ、現在に至る。最近のモットーは「先々の予定より、目の前の〆切」。自転車操業的な人生を送っている。
病院で医療事務の仕事をする郁(かおる)は、可憐で美しくおまけに働き者。医師や看護婦のアイドルだ。だが、その笑顔の裏で恐ろしい過去の記憶に苦しんでいた……。そんな郁が、密かに想いを寄せるのは新任の外科医・水沢。水沢もまた、穏やかに包み込むような優しさをもった郁に、次第にひかれていく。 「お前の重荷を一緒に背負わせてくれないか?」 痛みを知れば知るほど深まっていく愛! 美しくも切ない、禁断のラブストーリー。
WITH YOU
「礪波先生は……閉所恐怖症の一種だろうとおっしゃいました。僕は暗いところがだめなんです。一人で真っ暗なところに放り出されるとどうしようもなく恐くなる。自分ではどうなるかわからないんですが、姉の話では半狂乱……いいえ……本当に僕の気が狂ったと思ったんだそうです。泣き叫びながら暴れる僕を押さえようとした義兄がけがをしたくらいですから……。」 郁は淡々と言葉を紡ぎだす。いつもなら水沢の心をそっと潤してくれる静かな声が、今は語る郁自身の心を切り裂く刃となって、その冷たい切っ先を水沢の胸元にまでつきつける。 「気がついていらっしゃいますか? 僕が祥吾さんに送っていただく時も家に電話していることに。そうやって玄関の外まで姉に迎えに出てもらってるんです。もちろん夜道は一人で歩けませんから、ふだんは姉に迎えにきてもらうか、タクシーで家に帰ります。 僕は……僕の心は……壊れかけているんです……。どんどん亀裂が大きくなって……きっといつか……バラバラに砕けてしまう……。」 「やめなさい。」 水沢はぴしゃりと言った。 「そんな言い方はやめるんだ。お前はお前だ。どこも壊れちゃいない。ただ……少しギアがかみあっていないだけだ。」 「でも……っ!」 「いつからそうなった。」 「え……。」 郁が一瞬口ごもる。 「いつからそうなったんだ。昔からじゃないんだろう?」 「……。」 「黙ってるってことは……発作のトリガーがお前にはわかってるんだな。」 水沢は静かにハンドルを切った。細く開けたサイドウインドゥから、悲鳴をあげるようにして引きさらわれていく紫煙。灰が長くなった煙草をアッシュトレイに押しつけるようにして消す。 「郁。」 「はい……。」 「俺は……お前は強いと言った。お前は俺に自分の原風景を見せなかった。感じさせなかった。俺は何度でも同じことを言うよ。お前は強いんだ。お前は誰よりも強いし、誰よりも優しい。もし……お前が自分を信じられなくなったら……。」 車が静かに止まる。 「いつでも、俺が思い出させてやる。」 水沢はエンジンを切った。郁が両手に顔を埋めるようにして泣いている。 水沢は郁の膝の上に置いてあったワインをリアシートに置いた。腕をのばして郁の肩を抱き寄せる。 「どこにも行くな、郁。」 「……はい……。」 すっぽりと腕の中に華奢な体を抱きしめる。 「ここに……いろ。」 そっとぬれた頬に手をあて、顔を上げさせる。 「郁……。」 ささやきながら唇を重ねていく。郁の指が水沢のジャケットの袖をきつくつかんだ。軽くふれただけですぐに唇を離し、お互いの目を見合わせる。郁がゆっくりと目を閉じた。引き寄せられるようにして、再び、今度は深く二人の唇が重なった。 柔らかく混ざりあうコロンの香り。肩先をしっとりと包み込む薄蒼の闇。 小さく震えていた郁の体が水沢の腕の中にそっと溶けていく。まるで……最初からそこにあったもののように。 いつか冷たく郁の頬を切ったであろう闇が、今はベルベットの手ざわりで甘く彼を抱きしめる。 「いい子だ……郁。」 水沢のしなやかな手が郁の髪を優しく撫でている。 「何も……心配しなくていい。」 「はい……。」 郁は水沢の渡してくれたハンカチで恥ずかしそうに涙をぬぐった。 「……帰ります。」 「おやすみ、郁。」 「……おやすみなさい……祥吾さん……。」
【Keyring PDF形式】
※注意 同一の書籍でもファイル形式が異なるものは別商品として取り扱っております。
紙書籍初版:1994年6月1日 デジタル初版:1999年8月27日
ジャンル:和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>白衣 著: 春原いずみ 発行: ムービック レーベル: GENKI NOVELS
和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>白衣 |
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