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ホラー短編傑作選 兇〈惨〉

ホラー短編傑作選 兇〈惨〉


発行: キリック
シリーズ: ホラー短編傑作選 兇
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆13
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解説

 山の向こうの料亭を目指し、恋人と親友を乗せた車を走らせていた八坂誠は、途中の山道で「ここからはじまります」という奇怪な看板を目撃。その直後、ひどい事故にあう。たった一人車内に取り残された彼が意識を取り戻したとき、顔に奇怪なペイントをした殺人集団にまわりを囲まれていて……『ファウル』著:狂気太郎
 学校での壮絶なイジメを苦に飛び降り自殺した双子の兄、武彦。それを伝えにやってきた二人の刑事の前で、弟の幸彦は呆然とした表情を見せる。それは、鏡の前で何度も練習した顔だった。地獄から抜け出すために。奴らに復讐するために。弟になりすますために……『兄弟日記』著:青山祐
 血に染まったカッターナイフ。血痕に見えたテントウムシ。冷蔵庫の中には、お姉ちゃん。悪意に満ちた街は一人の少女を狂気の世界へと追い込んでいく。終わりなき悪夢の果てに訪れる結末とは……『テントウムシ虐殺』著:黒形圭
 その怪異は妻が朝食に生の豚肉を出したことから始まった。会社では同僚が続々と感情のこもらないようなしゃべり方になり、ついに先刻までまともだった同期入社の山郷にも異変が起きる。突然苦しみだした彼が襟をつかんでシャツを引き裂くと、そこには信じられない侵略者の姿があった……『侵略の時』著:小林泰三

 戦慄、極大。気鋭の作家三人に短編ホラーの名手・小林泰三を迎えた、電子限定最凶ホラーアンソロジー第三弾!!

目次

 『ファウル』著:狂気太郎
 『兄弟日記』著:青山祐
 『テントウムシ虐殺』著:黒形圭
 『侵略の時』著:小林泰三

抄録

 暗い空が見えた。自分の呼吸音がやかましい。心臓が酸素を求めて激しく脈動している。
 僕はマンションの屋上にいた。仰向けに倒れ込んでいる。蒸し暑い夏の空気。汗まみれの背中を、コンクリートの床が徐々に冷やしていった。まともな思考を徐々に取り戻していく。
 すぐにこの場を離れる必要があることを思い出した。呼吸は正常な状態に戻りつつある。体に力を入れる。床に手を突いて、僕は立ち上がった。
 屋上の一角を見る。揃えた靴が置いてあった。その下に、白い封筒が差し込まれている。僕はそれを少し感慨深げに眺めた。ほんの数秒ほど。やがて気持ちを切り替え、屋上を後にする。
 非常階段を使ってマンションの外に出た。少し離れたところに人だかりが出来ていた。ジョギング帰りの僕は、羽織っていたパーカーのフードを深めにかぶり、弟がいつも走っていたジョギングコースを、弟がしていたのと同じように走り出した。
 家までは十五分ほどで帰りついた。時刻は午後七時を過ぎていた。父はまだ帰ってきていない。今日も残業なのだろう。いつものことなので、特に気にはならない。リビングのソファーに腰掛けてテレビをつけた。普段はテレビなどあまり見ないが、今は気持ちが滅入っている。何でもいいから音が欲しかった。
 しばらく、ぼうっとテレビを眺めていると、ふいに玄関のチャイムが鳴った。
 心臓が大きく脈打った。落ち着け。自分にそう言い聞かせる。
 玄関のドアスコープから扉の外を見ると、背広姿の男が二人、ドアの外に立っていた。どちらも鋭い目つきをしている。
 僕は大きく深呼吸をしてから、扉を開けた。
 「はい」
 年配のほうの男が告げる。
 「こんばんは警察の者です。夜分遅くに失礼します」
 やはり刑事だった。心の中で、ぐっと気を引き締める。
 年配の刑事は四十前後だろう。くたびれたスーツに履き古した皮靴。ドラマに出てくるような、うだつの上がらないベテラン刑事といった風情だった。隣の若い刑事は対象的に、パリッと糊の効いたスーツを着ている。おそらく大学を出たばかりの新米刑事なのだろう。
 年配の刑事が玄関から現れた僕をまじまじと見つめた。隣の若い刑事は、ぽかんと大きく口を開けている。
 「あの、どうかしましたか」
 僕は訊《たず》ねた。
 「いや、すまない。君は……犬井武彦くんとは兄弟なのかな」
 年配の刑事がそう口にした。僕の反応をうかがうかのような視線で僕を見ていた。
 「僕は──」
 一瞬、言い淀んだ。覚悟はしていたが、嘘をつくことに抵抗があったのだ。いいかげんにしろ。僕は自分を叱咤する。
 お前は幸彦を殺したんだ。
 「──弟の幸彦です」
 今日からお前は幸彦なのだ。
 若い刑事がメモを取る。
 「なるほど。ところで、お父さんかお母さんは在宅しているかい」
 年配の刑事の言葉に、僕は首を振った。
 「あの、兄さんに何かあったんでしょうか」
 僕が弟だとしたら、刑事から兄の名前が出て気にならないはずがない。そう思って、僕は真っ先にそれを訊《き》いた。
 二人は顔を見合わせたあと、年配の刑事のほうが慎重な口調で僕に告げた。
 「落ち着いて聞いてほしいのだけれど。君のお兄さんの……武彦くんと思われる遺体が、先ほど発見された」
 「えっ。武彦が、嘘でしょう」
 僕は茫然とした顔をしてみせた。何度も練習した表情だった。下手に悲しむのはかえって不審を招くおそれがある。咄嗟のときに涙が出るとは限らない。そもそも、仲の良い兄弟ではなかったのだから、戸惑うのが自然の流れだと思えた。
 「いや、まだ確認は取れていないんだ。それでお父さんかお母さんに遺体の確認にきてもらいたいのだけれど、連絡は取れるかな」
 「は、はい。ちょっと待っててもらえますか」
 僕は家の電話から父の携帯に電話した。しかし、父は電話に出なかった。
 「父には連絡がつきませんでした」
 「お母さんは?」
 「母は五年前に亡くなっていて……」
 「そうか……。ところで君と武彦くんはもしかして双子なのかな」
 「ええ」
 「なら、まず間違いはないか」
 二人の刑事はおそらく武彦の遺体をすでに目にしているのだろう。僕と同じ顔の遺体を。
 「お父さんと連絡が取れたらここに電話するよう伝えてもらえるかな」
 そう言うと、年配の刑事は僕に名刺を渡した。その刑事は青木という名前だった。
 「はい」
 僕は沈痛な面持ちで答える。
 「つらいだろうが、気を強く持つんだよ」
 最後にそう告げると、彼らは去っていった。

 僕と、弟の幸彦は、一卵性の双子だ。男の二人兄弟で、幼いころからずっと一緒だった。どちらも快活な性格で顔立ちが整っていたこともあり、幼稚園のときには二人で子供服の広告に出演したこともある。だが小学校時代、母親が癌で亡くなってから、僕ら双子の違いが少しずつ表に現れるようになった。僕の望まないかたちで。
 気づけば、僕は幸彦に何一つかなわなかった。勉強一つとってもそう。弟の幸彦はいつも学年で一、二を争うほど成績が良かったが、僕はいつも中の下といったところだった。スポーツでも同様で、競技を問わず弟に勝てた試しがない。周囲はそんな僕らを比較しては、いいところはすべて弟が持っていってしまったのだと口にした。
 そんな周囲の評価を確定的にしたのが中学受験だった。二人で同じ有名私立中学を受験して、合格したのは弟だけ。僕は普通の公立中学に通うことになった。
 それ以来、弟への劣等感に、僕は常に責めさいなまれた。皮肉な話だが、中学校で弟と顔を合わせなくてすむのが唯一の救いといえた。比べられて苦しい思いをするのは自分なのだ。一緒にいる時間が少なくなって、かえってよかったかもしれない。
 入学当初、僕の学校生活は穏やかだった。成績は相変わらず中の下を維持していたが、可もなく不可もない、ごく普通の学校生活を送っていた。
 ところが、二年に進級して、長谷川広人という男と同じクラスになり、変化が訪れた。
 長谷川は学内一の不良で、一年のころから、傷害、万引き、恐喝と、チンピラ顔負けの悪事を働いていた。それでも大した問題にならなかったのは、学校が公立中学ということもあるが、長谷川の父親が教育委員会の委員長を務めていからだ。長谷川とその取り巻きにはなるべく関わらないようにしていたが、その努力はむなしく終わる。
 ある日、体育館の裏に呼び出された。無視するわけにもいかず、僕はそれに応じた。
 「犬井ってのはお前か」
 長谷川は中学二年だというのに、すでに身長は一八〇センチ近くあった。腕も僕の二倍近く太い。喧嘩になったら勝負にならないのはあきらかだった。
 僕は内心震えながら声を出した。
 「……そうだけど。何か用?」
 口にした瞬間、顔面を殴打された。意識が飛びそうになるのをぎりぎりのところで踏みこらえた。
 「な、何するんだよ」
 長谷川がニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
 「いや、あんまり綺麗な顔だったからつい、な」
 取り巻きの仲間たちがおかしそうに笑った。
 僕の地獄はこうして幕を開けた。(青山祐『兄弟日記』より)

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