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著者プロフィール
ギルバート・キース・チェスタートン(1875〜1936)
ロンドン生まれ。学生時代より文学活動を始め、小説、評論、神学研究、エッセイ、雑誌刊行など多方面で活躍。またジャーナリズムの巨人としても知られ、寄稿した新聞・雑誌の数は80種以上にものぼる。
1936年、ビスコンフィールドで永眠。死の直前まで健筆を揮った。膨大な遺稿は彼の死後も整理・刊行が進められ、著作総数は150に達している。
ロンドン生まれ。学生時代より文学活動を始め、小説、評論、神学研究、エッセイ、雑誌刊行など多方面で活躍。またジャーナリズムの巨人としても知られ、寄稿した新聞・雑誌の数は80種以上にものぼる。
1936年、ビスコンフィールドで永眠。死の直前まで健筆を揮った。膨大な遺稿は彼の死後も整理・刊行が進められ、著作総数は150に達している。
解説
「懐疑」は短編ミステリーの名手チェスタートンが第一次世界大戦をはさんで十年あまりの休止の後に著わしたブラウン神父物短編集の第3巻。この巻には「金の十字架の呪い」「翼のついた短剣」「ダーナウェイ家の宿命」「ギデオン・ワイズの亡霊」の4編のほか、訳者による解説を収めた。奇抜なトリック、ユーモアと逆説は健在!
目次
金の十字架の呪い
翼のついた短剣
ダーナウェイ家の宿命
ギデオン・ワイズの亡霊
訳者あとがき
翼のついた短剣
ダーナウェイ家の宿命
ギデオン・ワイズの亡霊
訳者あとがき
抄録
「こうなれば誰だって、ダーナウェイ家に伝わる迷信を信じざるをえないだろう」とマーティン・ウッドが言った。
「少なくとも、一人は信じない」と医者が言った。「自殺をする人がいるからって、迷信を信じなきゃならない理由になるだろうか?」
「ダーナウェイさんは、自殺をしたものとお考えかな?」と司祭が訊ねた。
「自殺をしたに違いありませんよ」
「ありえないことではない」
「スタジオに一人きりでいたんだし、暗室にはたくさん劇薬があった。それに、ダーナウェイ家の人なら、しそうなことでもある」
「ダーナウェイ家の呪いが現実になったんだというふうに、考えておられるのではないでしょうね?」
「いや、そう考えているのです。もっとも、わたしの信じてる呪いは、体質というやつですがね。前にもお話ししたように、遺伝だったんですな。あの家の人は、みんな半分狂っているのです。こんな沼地に逼塞(ひっそく)して血族結婚をくり返していたら、否応なしに退化するにきまってます。遺伝の法則は避けられない。科学の真理は否定できないんです。ダーナウェイ家の頭脳はくずれかかっていたのです。ちょうどあの邸の腐った柱や石が、海と潮風にむしばまれてくずれかけていたのと同じです。自殺、もちろんあれは自殺です。残った人たちも、みんな自殺することでしょう。あの人たちには、それ以上のことはできないのかも知れない」
こうして医者の話すのを聞いているうちに、突然ペインの脳裡(のうり)には、はっとするほどありありと、ダーナウェイ家の令嬢の顔が浮かんできた。底知れぬ暗黒を背にした青白い悲劇の仮面のような顔、それはまたこの世のものとも思えぬまばゆい美しさをもった顔であった。ペインは口を開いて何か言おうとしたが、言葉にはならなかった。
「そうですか。それではあなたもやっぱり、迷信を信じているのですね?」とブラウン神父が医者に言った。
「なんですって? 迷信を信じてるですって? わたしは科学的必然として、自殺を信じているのですよ」
「あなたの科学的迷信も、魔術的な迷信とあまり違わんように、わたしには思えますね。どちらも人間を無力にして、手足も動かせなければ、命も魂も救えなくする、この点では同じです。あの韻文には、殺されるのがダーナウェイ家の宿命だとあった。科学の教科書には、自殺するのがダーナウェイ家の宿命だとあるわけですね。どちらも人間を奴隷にする点では変わりがない」
「でもあなたは、こういう問題を合理的に見るんだと言われたと思いますが。遺伝を信じないのですか?」
「わたしは日光を信じると言ったはずです。同じ迷信のトンネルなら、どっちもごめんです。行きづまりは暗闇にきまってるのですからね。その証拠にあなたがたは、あの邸で起こったことについて、かいもくわからぬ闇の中にいるじゃありませんか」
「あの自殺についてですか?」とペインが訊ねた。
「あの殺人についてですよ」とブラウン神父は答えた。その声は心もち高いものにすぎなかったが、海岸中に響くように聞こえた。「あれは殺人だったのです。神の手を離れた人間の意志による殺人だったのです」
……「ダーナウェイ家の宿命」より
「少なくとも、一人は信じない」と医者が言った。「自殺をする人がいるからって、迷信を信じなきゃならない理由になるだろうか?」
「ダーナウェイさんは、自殺をしたものとお考えかな?」と司祭が訊ねた。
「自殺をしたに違いありませんよ」
「ありえないことではない」
「スタジオに一人きりでいたんだし、暗室にはたくさん劇薬があった。それに、ダーナウェイ家の人なら、しそうなことでもある」
「ダーナウェイ家の呪いが現実になったんだというふうに、考えておられるのではないでしょうね?」
「いや、そう考えているのです。もっとも、わたしの信じてる呪いは、体質というやつですがね。前にもお話ししたように、遺伝だったんですな。あの家の人は、みんな半分狂っているのです。こんな沼地に逼塞(ひっそく)して血族結婚をくり返していたら、否応なしに退化するにきまってます。遺伝の法則は避けられない。科学の真理は否定できないんです。ダーナウェイ家の頭脳はくずれかかっていたのです。ちょうどあの邸の腐った柱や石が、海と潮風にむしばまれてくずれかけていたのと同じです。自殺、もちろんあれは自殺です。残った人たちも、みんな自殺することでしょう。あの人たちには、それ以上のことはできないのかも知れない」
こうして医者の話すのを聞いているうちに、突然ペインの脳裡(のうり)には、はっとするほどありありと、ダーナウェイ家の令嬢の顔が浮かんできた。底知れぬ暗黒を背にした青白い悲劇の仮面のような顔、それはまたこの世のものとも思えぬまばゆい美しさをもった顔であった。ペインは口を開いて何か言おうとしたが、言葉にはならなかった。
「そうですか。それではあなたもやっぱり、迷信を信じているのですね?」とブラウン神父が医者に言った。
「なんですって? 迷信を信じてるですって? わたしは科学的必然として、自殺を信じているのですよ」
「あなたの科学的迷信も、魔術的な迷信とあまり違わんように、わたしには思えますね。どちらも人間を無力にして、手足も動かせなければ、命も魂も救えなくする、この点では同じです。あの韻文には、殺されるのがダーナウェイ家の宿命だとあった。科学の教科書には、自殺するのがダーナウェイ家の宿命だとあるわけですね。どちらも人間を奴隷にする点では変わりがない」
「でもあなたは、こういう問題を合理的に見るんだと言われたと思いますが。遺伝を信じないのですか?」
「わたしは日光を信じると言ったはずです。同じ迷信のトンネルなら、どっちもごめんです。行きづまりは暗闇にきまってるのですからね。その証拠にあなたがたは、あの邸で起こったことについて、かいもくわからぬ闇の中にいるじゃありませんか」
「あの自殺についてですか?」とペインが訊ねた。
「あの殺人についてですよ」とブラウン神父は答えた。その声は心もち高いものにすぎなかったが、海岸中に響くように聞こえた。「あれは殺人だったのです。神の手を離れた人間の意志による殺人だったのです」
……「ダーナウェイ家の宿命」より
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