和書>小説・ノンフィクション>文芸>海外文学>その他
著者プロフィール
リチャード・F・バートン(Richard Francis Burton)
(1821〜1890)
英国生まれ。早くから語学的天分に恵まれ、修めた外国語は35カ国語にものぼる。インドや東洋諸国をはじめとして世界中を遊歴し、さまざまな旅行記を書いた。1890年トリエストで永眠。
(1821〜1890)
英国生まれ。早くから語学的天分に恵まれ、修めた外国語は35カ国語にものぼる。インドや東洋諸国をはじめとして世界中を遊歴し、さまざまな旅行記を書いた。1890年トリエストで永眠。
解説
絢爛たるアラベスク「アラビアン・ナイト」完結! バートンは最も信頼のおけるマックナーテン版の完訳(本デジタルブック版巻1〜8)をおこなったが、他の原典にも数多くの面白い物語があるところから、別巻をつくりあげた。
本巻には、別名「道化者ハサン」として有名な「眠っている者と目覚めている者」、さまざまな教訓話を集めた「十人の大臣」、奇抜な話の宝庫「シャー・バフト王」の挿話集など、代表作を収めた。
本巻には、別名「道化者ハサン」として有名な「眠っている者と目覚めている者」、さまざまな教訓話を集めた「十人の大臣」、奇抜な話の宝庫「シャー・バフト王」の挿話集など、代表作を収めた。
目次
眠っている者と目覚めている者
ならず者と料理人の話
十人の大臣
運命に見離された商人の話
商人とその息子たちの話
アブ・サビルの話
ビーザッド王子の話
ダドビン王とその大臣たちの話
バフトザマン王の話 …ほか
シャー・バフト王とその大臣アル・ラーワン
艶歌師と薬屋
美しい娘と貧しい老人に嫁がせた男の話
賢者と三人の息子の話 …ほか
アル・マリク・アル・ザヒル・ルクン・アル・ディン・ビバルス・アル・ブンズクダリと十六人の与力
最初の捕吏秘談
三番目の捕吏秘談 …ほか
女のたくらみ
ならず者と料理人の話
十人の大臣
運命に見離された商人の話
商人とその息子たちの話
アブ・サビルの話
ビーザッド王子の話
ダドビン王とその大臣たちの話
バフトザマン王の話 …ほか
シャー・バフト王とその大臣アル・ラーワン
艶歌師と薬屋
美しい娘と貧しい老人に嫁がせた男の話
賢者と三人の息子の話 …ほか
アル・マリク・アル・ザヒル・ルクン・アル・ディン・ビバルス・アル・ブンズクダリと十六人の与力
最初の捕吏秘談
三番目の捕吏秘談 …ほか
女のたくらみ
抄録
いまは昔ハルン・アル・ラシッド教主の御代、バグダッドの都にある商人が住んでいて、アブ・アル・ハサン・アル・ハリア(つまり道化者のアブ・アル・ハサン)と呼ぶひとりの息子がありました。
父の商人が莫大な遺産をのこしてみまかると、あととりの伜《せがれ》は遺産を半々にわけて、半分はとっておいて、あとの半分を使うことにしました。そして、ペルシャ人や商人の息子連中とつきあい出して、飲み食い三昧の遊興にふけったので、手もとにあったさしもの大金も、一銭残らず、きれいに使いはたしてしまいました。
そこで、アブ・アル・ハサンは友人仲間や飲み友だちのもとへ出かけて、懐中が無一文になったことを打ち明けて、窮状を訴えました。ところが、だれひとりそんなことに頓着する者もなく、ろくに返事さえするものとてありませんでした。すっかりしおれきって、アブ・アル・ハサンは母親のもとへもどると、一部始終のてんまつを語り、友だちのひどい仕打ちやら、お金をくれるどころか、言葉さえかけてくれなかったもようなどを話しました。すると、母親は言いました。「これさ、アブ・アル・ハサン、当世の人間はみんなそうしたものさ。お金があれば、ちやほやしてくれるが、すっかんぴんになりゃ、よせつけないんだよ」
母親がしきりと慰めれば、アブ・アル・ハサンは身も世もなく嘆いて涙を流し、こんな歌をうたいました。
銭がなくなりゃ、助けちゃくれぬ、
銭がふえれば、情けも深い。
銭ゆえやさしい 多くの友が
銭がなくなりゃ、敵になる。
やがて、若者はすっくと立ちあがると、残り半分の遺産をしまっておいた場所へいって、これをとり出し、なに不自由なく暮らしつづけました。そして、これまで知りあった連中とは二度とつきあわずに、見ず知らずのあかの他人とだけ交際し、それもたったひと晩かぎりもてなして、一夜あければ、そしらぬ顔をしよう、とみずから誓いを立てました。
そんなわけで、若者は毎晩チグリス川にかかった橋の上にたたずんでは、かたわらをゆききする人々をじっと眺め、もしそれが見ず知らずの男であれば、すぐに仲よくなってわが家へともない、朝まで夜っぴて、客を相手にうち興じました。それから、客人を追いはらうと、もう二度と額手礼《サラーム》の会釈もしなければ、そばへよろうともせず、また、二度とわが家へ招きもしませんでした。
まる一年というもの、こんなふうな調子で暮らしていましたが、ある日のこと、いつものように橋上に腰をおろして、その夜の遊び相手はいないものかと心待ちにしていると、はからずも、そこへ通りかかったのは教主と報復の剣士マスルールの主従ふたり。どちらも日ごろのならいで、商人姿に身をやつしていました。
アブ・アル・ハサンはふたりの様子をとくと眺めて、立ちあがると、相手の正体を知らなかったので、こう言葉をかけました。「いかがでしょう? てまえの家までご同道願えないでしょうか。酒肴《しゅこう》の用意はちゃんとできておりますので、飲み食いのほどはご随意。皿焼きのパンも肉の料理もあれば、漉《こ》したお酒もございますが」
教主はその申し出を断わりましたが、アブ・アル・ハサンはしきりに頼みました。「もし、旦那さま、後生ですから、つきあってください。今夜はぜひあなたにお客人になっていただきたいので。せっかくあてにしたものを、むげにいやとおっしゃらないで」
若者がさかんにかき口説いたので、とうとう教主は承諾しました。アブ・アル・ハサンは大喜びで、さきに立って案内し、道々しゃべりながらわが家にたどりつくと、教主を客間へ招じ入れました。ところで、アル・ラシッド教主が足をふみ入れたその客間というのは、よく見ると、数寄をこらした作りで、泉のほとりなども丹念に見ると、噴水塔には黄金をかぶせてありました。
教主は従者を入口に待たせて、じぶんは客席につきました。すると、この家の主人はさっそく馳走を運んできたので、教主はこれをつまみました。いっぽう、主人も客に気がねなく食べてもらいたいので、いっしょに相伴しました。食事がすむと、主人は食膳を片づけて、ふたりとも手を洗いました。そして、教主がふたたび座につくのを待って、若者は酒の容器を並べ、じぶんもそばに腰をおろすと、相手の盃に酒をついですすめたり 、四方山の話をしたりしてもてなしました。
どちらもしたたか酒盃をかさねたころ、主人はバン樹の枝もさながらの、ひとりの美しい奴隷娘をよび出しました。女はルートを手にとり、その音曲にあわせて、こんな対句をふたくさりうたいました。
おお、わが胸に 永遠《とこしえ》に
宿れる君よ その姿
遠く離れて 見えずとも、
げに君こそは 目に見えぬ
わが心なり 遠くとも
君はわが魂《たま》 いと近し。
下にもおかぬもてなしぶりや礼儀にかなった作法に、ほとほと感心した教主は主人にむかってたずねました。「もし、若旦那、おまえさまはいったいどなたかな? ご身分をあかしてくだされ。そうすれば、こちらも親切なお志に報いることができましょうて」
だが、アブ・アル・ハサンはにっこり笑って答えました。「いえ、お客さま、とても、とても。すぎた昔はかえりませんし、ふたたびあなたとおつきあいすることもかないますまい」
真実《まこと》の信者の大君はたずねました。「それはまたどういうわけかな? なぜまた身分もあかしていただけぬのじゃ?」すると、アブ・アル・ハサンは答えました。「実は、旦那さま、てまえの身の上話ときたら寄妙きてれつ、しかも、これにはいわくがありますので」
アル・ラシッドは問いかえしました。「そのいわくというのは?」「そのいわくには尻尾までありましてね」
教主が相手の返事を聞いて笑うと、アブ・アル・ハサンは語をついで言いました。「ではひとつ、この文句のいわれについて、『ならず者と料理人』の話をひいて説明することにいたしましょう。どうかお聞きください」
……「眠っている者と目覚めている者」より
父の商人が莫大な遺産をのこしてみまかると、あととりの伜《せがれ》は遺産を半々にわけて、半分はとっておいて、あとの半分を使うことにしました。そして、ペルシャ人や商人の息子連中とつきあい出して、飲み食い三昧の遊興にふけったので、手もとにあったさしもの大金も、一銭残らず、きれいに使いはたしてしまいました。
そこで、アブ・アル・ハサンは友人仲間や飲み友だちのもとへ出かけて、懐中が無一文になったことを打ち明けて、窮状を訴えました。ところが、だれひとりそんなことに頓着する者もなく、ろくに返事さえするものとてありませんでした。すっかりしおれきって、アブ・アル・ハサンは母親のもとへもどると、一部始終のてんまつを語り、友だちのひどい仕打ちやら、お金をくれるどころか、言葉さえかけてくれなかったもようなどを話しました。すると、母親は言いました。「これさ、アブ・アル・ハサン、当世の人間はみんなそうしたものさ。お金があれば、ちやほやしてくれるが、すっかんぴんになりゃ、よせつけないんだよ」
母親がしきりと慰めれば、アブ・アル・ハサンは身も世もなく嘆いて涙を流し、こんな歌をうたいました。
銭がなくなりゃ、助けちゃくれぬ、
銭がふえれば、情けも深い。
銭ゆえやさしい 多くの友が
銭がなくなりゃ、敵になる。
やがて、若者はすっくと立ちあがると、残り半分の遺産をしまっておいた場所へいって、これをとり出し、なに不自由なく暮らしつづけました。そして、これまで知りあった連中とは二度とつきあわずに、見ず知らずのあかの他人とだけ交際し、それもたったひと晩かぎりもてなして、一夜あければ、そしらぬ顔をしよう、とみずから誓いを立てました。
そんなわけで、若者は毎晩チグリス川にかかった橋の上にたたずんでは、かたわらをゆききする人々をじっと眺め、もしそれが見ず知らずの男であれば、すぐに仲よくなってわが家へともない、朝まで夜っぴて、客を相手にうち興じました。それから、客人を追いはらうと、もう二度と額手礼《サラーム》の会釈もしなければ、そばへよろうともせず、また、二度とわが家へ招きもしませんでした。
まる一年というもの、こんなふうな調子で暮らしていましたが、ある日のこと、いつものように橋上に腰をおろして、その夜の遊び相手はいないものかと心待ちにしていると、はからずも、そこへ通りかかったのは教主と報復の剣士マスルールの主従ふたり。どちらも日ごろのならいで、商人姿に身をやつしていました。
アブ・アル・ハサンはふたりの様子をとくと眺めて、立ちあがると、相手の正体を知らなかったので、こう言葉をかけました。「いかがでしょう? てまえの家までご同道願えないでしょうか。酒肴《しゅこう》の用意はちゃんとできておりますので、飲み食いのほどはご随意。皿焼きのパンも肉の料理もあれば、漉《こ》したお酒もございますが」
教主はその申し出を断わりましたが、アブ・アル・ハサンはしきりに頼みました。「もし、旦那さま、後生ですから、つきあってください。今夜はぜひあなたにお客人になっていただきたいので。せっかくあてにしたものを、むげにいやとおっしゃらないで」
若者がさかんにかき口説いたので、とうとう教主は承諾しました。アブ・アル・ハサンは大喜びで、さきに立って案内し、道々しゃべりながらわが家にたどりつくと、教主を客間へ招じ入れました。ところで、アル・ラシッド教主が足をふみ入れたその客間というのは、よく見ると、数寄をこらした作りで、泉のほとりなども丹念に見ると、噴水塔には黄金をかぶせてありました。
教主は従者を入口に待たせて、じぶんは客席につきました。すると、この家の主人はさっそく馳走を運んできたので、教主はこれをつまみました。いっぽう、主人も客に気がねなく食べてもらいたいので、いっしょに相伴しました。食事がすむと、主人は食膳を片づけて、ふたりとも手を洗いました。そして、教主がふたたび座につくのを待って、若者は酒の容器を並べ、じぶんもそばに腰をおろすと、相手の盃に酒をついですすめたり 、四方山の話をしたりしてもてなしました。
どちらもしたたか酒盃をかさねたころ、主人はバン樹の枝もさながらの、ひとりの美しい奴隷娘をよび出しました。女はルートを手にとり、その音曲にあわせて、こんな対句をふたくさりうたいました。
おお、わが胸に 永遠《とこしえ》に
宿れる君よ その姿
遠く離れて 見えずとも、
げに君こそは 目に見えぬ
わが心なり 遠くとも
君はわが魂《たま》 いと近し。
下にもおかぬもてなしぶりや礼儀にかなった作法に、ほとほと感心した教主は主人にむかってたずねました。「もし、若旦那、おまえさまはいったいどなたかな? ご身分をあかしてくだされ。そうすれば、こちらも親切なお志に報いることができましょうて」
だが、アブ・アル・ハサンはにっこり笑って答えました。「いえ、お客さま、とても、とても。すぎた昔はかえりませんし、ふたたびあなたとおつきあいすることもかないますまい」
真実《まこと》の信者の大君はたずねました。「それはまたどういうわけかな? なぜまた身分もあかしていただけぬのじゃ?」すると、アブ・アル・ハサンは答えました。「実は、旦那さま、てまえの身の上話ときたら寄妙きてれつ、しかも、これにはいわくがありますので」
アル・ラシッドは問いかえしました。「そのいわくというのは?」「そのいわくには尻尾までありましてね」
教主が相手の返事を聞いて笑うと、アブ・アル・ハサンは語をついで言いました。「ではひとつ、この文句のいわれについて、『ならず者と料理人』の話をひいて説明することにいたしましょう。どうかお聞きください」
……「眠っている者と目覚めている者」より
本の情報
形式
【XMDF形式】
XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアはここから無料でダウンロードできます。
詳しくはブンコビューアダウンロード初めての方へをご覧下さい。
対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。
































