和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ラブストーリー>シリアス
著者プロフィール
遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年、東京生まれ。慶応義塾大学仏文科卒。1950〜1953年、フランスに留学後、1955年、「白い人」で芥川賞受賞。
代表作として、『海と毒薬』『沈黙』『私が・棄てた・女』『死海のほとり』『イエス・キリスト』『スキャンダル』『深い河』など多数。ユーモア作家、狐狸庵の号でエッセイストとしても活躍。1996年没。
1923年、東京生まれ。慶応義塾大学仏文科卒。1950〜1953年、フランスに留学後、1955年、「白い人」で芥川賞受賞。
代表作として、『海と毒薬』『沈黙』『私が・棄てた・女』『死海のほとり』『イエス・キリスト』『スキャンダル』『深い河』など多数。ユーモア作家、狐狸庵の号でエッセイストとしても活躍。1996年没。
解説
かつての恋人で、今は外交官夫人になっている女性を忘れられず、再会を期してフランスへ渡る中年作家。また、海外取材という名目で、この中年独身作家のあとを追う、天衣無縫に生きる若い女性アナウンサー。二つの世代の恋愛とその心理的葛藤を、同時並列の映画的手法で描く傑作長編。
目次
飛行場
アンカレッジ
巴里
フランスに安く行ける法
出発
船旅
愛の追跡
巴里まで
葛藤
巴里
最後の夜
競泳
アンカレッジ
巴里
フランスに安く行ける法
出発
船旅
愛の追跡
巴里まで
葛藤
巴里
最後の夜
競泳
抄録
千葉は受話器をとるとホテルのフロントを呼びだした。
「三十分ほどしたらチェックアウトを頼むよ。それから自動車を一台ね」
「畏(かしこま)りました」
彼は仕事をしていた机から離れると、バスルームに入って水と湯とを白いタイルに入れはじめた。それから、浴槽がみちるまで、机の上を片付けて、まだ残っている珈琲(コーヒー)をゆっくりと飲んだ。
湯に体を浸(ひた)して、髭(ひげ)をそり、熱い体にタオルを巻いて部屋に戻るとウイスキーの瓶をとって、その琥珀色(こはくいろ)の液体をゆっくりと咽喉に流す。時計を見るともう五時半だった。
(あと三時間でこの日本とも当分、お別れか)
霧雨が窓のむこうに降っていた。ホテルの入口には次々と濡れたタクシーが到着して、制服を着たボーイが車にかけよってドアをあけ、食堂の灯(ひ)が雨ににじんでぼんやりと見える。
旅行鞄をひらき、パスポートや飛行機の切符をもう一度たしかめると、深い溜息をついた。それからベッドの端(はし)に腰かけたまま、小声で子供の時おぼえた童謡を口ずさんだ。
電話が鳴り、フロントから、勘定書ができあがったことを知らせてきた。
「ボーイをそちらに参らせましょうか」
「ああ。トランクが一つあるからね。お願いします」
紺のフィンテックスに白いネクタイを締めた。別に今から外国へ旅行するからこの洋服を選んだのではない。外国旅行ならもう幾度もやっている。大学を出てから三年間、巴里に留学もした。だから、どういう洋服が旅行に一番、便利でむいているかを千葉はよく知っているのだった。
迎えにきたボーイにトランクを持ってもらい、エレベーターで下におりると彼は勘定を払った。
「三十分ほどしたらチェックアウトを頼むよ。それから自動車を一台ね」
「畏(かしこま)りました」
彼は仕事をしていた机から離れると、バスルームに入って水と湯とを白いタイルに入れはじめた。それから、浴槽がみちるまで、机の上を片付けて、まだ残っている珈琲(コーヒー)をゆっくりと飲んだ。
湯に体を浸(ひた)して、髭(ひげ)をそり、熱い体にタオルを巻いて部屋に戻るとウイスキーの瓶をとって、その琥珀色(こはくいろ)の液体をゆっくりと咽喉に流す。時計を見るともう五時半だった。
(あと三時間でこの日本とも当分、お別れか)
霧雨が窓のむこうに降っていた。ホテルの入口には次々と濡れたタクシーが到着して、制服を着たボーイが車にかけよってドアをあけ、食堂の灯(ひ)が雨ににじんでぼんやりと見える。
旅行鞄をひらき、パスポートや飛行機の切符をもう一度たしかめると、深い溜息をついた。それからベッドの端(はし)に腰かけたまま、小声で子供の時おぼえた童謡を口ずさんだ。
電話が鳴り、フロントから、勘定書ができあがったことを知らせてきた。
「ボーイをそちらに参らせましょうか」
「ああ。トランクが一つあるからね。お願いします」
紺のフィンテックスに白いネクタイを締めた。別に今から外国へ旅行するからこの洋服を選んだのではない。外国旅行ならもう幾度もやっている。大学を出てから三年間、巴里に留学もした。だから、どういう洋服が旅行に一番、便利でむいているかを千葉はよく知っているのだった。
迎えにきたボーイにトランクを持ってもらい、エレベーターで下におりると彼は勘定を払った。




















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