マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションホラーホラー小説

怨霊館の惨劇 上

怨霊館の惨劇 上


発行: キリック
シリーズ: 怨霊館の惨劇
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆3
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


解説

 大学のオカルト同好会に所属する中井悠介は、五人のサークル仲間とともに、信州の山奥にある廃墟ホテルを目指していた。ところが途中、豪雪によるホワイトアウトで目標を見失い、極寒の雪山で遭難してしまう。霊感を持つメンバーの一人が不吉な予感を覚えつつも人家を探し当て、辛くも凍死の危機はまぬがれた一行。だが、たどり着いた先は、禍々しい瘴気を放つ巨大な建物──「怨霊館」と呼ばれる古びた洋館だった。そこで悠介たちを迎えたのは、まるで魂を宿していないかのような双子のメイド、虚と無。そして、不気味なゴムマスクをかぶり車椅子に乗った館の主、九条崇であった。温かい風呂に、豪勢な食事と、予想外の歓待を受け人心地ついた六人だったが、常軌を逸した九条のコレクションについて聞かされたあたりから雲行きは怪しくなる。悠介の姉の秘密が九条の口から語られた頃には、全員が置かれた状況の異常さを実感していた。きわめつけは、一人一人に割り当てられた客室だった。何と、それぞれ現実にあった、自殺現場、轢死現場、殺人現場などを完全に再現した部屋になっていたのだ。首を吊ったロープから、人が轢かれた線路、一家を皆殺しにした凶器まで、すべて「本物」が用意された、怨霊の間。そこでは、オカルト否定論者の悠介をも震え上がらせる怪異が連続する。やがて、目の前に姿を現す夥しい数の怨霊たち。しかし、それすら「魔道師」九条の大いなる目的を果たす歯車の一つにすぎなかった……。

 這い寄る混沌に千体の怨霊を捧ぐ……鬼才・梅津裕一が満を持して放つ、超進化系絶恐クトゥルフ奇譚、上巻!

目次

 第一部
 第二部
 第三部
 第四部
 第五部

抄録

 天井からは、二つのものがぶら下がっていた。
 一つは古ぼけた裸電球だ。いまどき、まずお目にかかれないような代物である。
 そしてもう一つは、梁から伸びた一本のロープだった。
 こちらのロープもかなり痛んでいる。その先は、円を描いていた。おそらくこれが自殺に使われたのだろう。
 悠介に割り当てられた「首吊り自殺の間」だった。
 部屋の床にはご丁寧に畳が敷いてある。「現場を忠実に再現した」というのは、嘘ではなかったらしい。
 饐えた匂いのする茶色がかった畳の上には、黒っぽいなにかの染みついた痕跡があった。
 首吊り自殺の死体の下には、大量の汚物が溜まるのが一般的だ。全身の穴という穴から、さまざまな体液が噴き出すのである。そうした汚物が畳に染みついてしまったのだろう。
 かすかに生臭いような、甘ったるいような匂いがするのは、たぶん気のせいではない。
 畳に、死臭が染みついているのだ。
 部屋はがらんとしており、調度品らしいものはほとんどない。隅には数年前の雑誌が何冊も乱雑に散らばっていた。わざわざ死者の部屋から持ち込んできたに違いない。
 「忠実に再現……ね」
 思わず苦笑がもれた。
 裸電球の頼りない光に照らされた室内は、一見するとどこかの安アパートの一室のようだ。
 しかし、部屋の隅には大型の液晶テレビが置いてあるし、悠介が腰掛けているベッドもふかふかである。自殺者の部屋を再現しながらも、一応、寝室としての居住性は高めてあるのだ。それが九条なりの気づかいかどうかはわからないが、シュールな眺めであることには違いなかった。
 窓の外は、相変わらず吹雪いているようだ。
 こんな屋敷には長居したくないというのが本音だが、それは悠介に限らず、他の仲間も同じだろう。
 当たり前の話だが、部屋割りでいろいろともめた。どの部屋もろくでもないことには変わりないが、この部屋はまだましなほうだ。
 焼死体の間は、本当に焦げた木材で埋め尽くされていた。そのなかにベッドが置いてある光景は、悪趣味な現代美術のようにも思えた。
 色情霊の間は、どう見てもラブホテルの一室だった。この部屋に限って、ベッドは現場のものを用いていた。
 殺人鬼の間はごく普通の家庭のリビングのように見えたが、サバイバルナイフがそのまま置かれているのが不気味だった。これが何人もの人間の命を奪った凶器なのだろう。
 轢死体の間に至っては、室内に本当にレールが敷いてあった。鉄道マニアなら歓喜するかもしれないが、正常な神経を持つ人間にとっては相当、居心地が悪い。
 ましてや「そこ」で人が轢かれているのである。
 最悪なのは「大量殺人の間」だった。
 一見すると「殺人鬼の間」と雰囲気が似ているが、五人分の死体の輪郭が、フローリングの床に描かれたままだった。さらに壁にはどす黒い鮮血が飛び散っていたのだ。
 誰もが敬遠するかと思ったが、意外なことに晶太は真っ先にこの部屋を寝室に選んだ。一瞬、晶太の正気を疑ったが、「俺は立派な大人なんだ」という男らしさをアピールしたかったのかもしれない。
 色情霊の間は茜が選んだ。彼女らしいといえば、彼女らしい選択だが。
 それからが問題だった。
 どこを選んでもろくでもないのは同じだ。個人的にはリコにいちばん楽そうな部屋を割り当ててやりたかったが、どこを選んでもつらいことになりそうだった。霊能者かシャルルボネ症候群かはともかくとして、やはり彼女には「本当に見えている」らしい。
 最終的には冴の提案により、くじ引きということになった。
 その結果、雄大には「殺人鬼の間」、冴には「焼死体の間」、悠介には「首吊り自殺の間」がそれぞれ割り振られた。
 リコは「轢死体の間」に泊まることになった。
 轢死体だけにもともとの遺体は相当、ひどいことになっていたはずだ。冴もそれを察してか、なんなら交代してもいいと言ったのだが、リコは自らの運命を受け入れた。
 ベッドのそばで、安っぽい時計がかちかちと音をたてている。おそらく、自殺した男のものだろう。主人が死んだというのに、時計はこうしていまでも時を刻みつづけている。
 時刻は、午前一時前といったところだ。
 薄暗いオレンジ色の光で照らされた部屋のあちこちに濃い闇がわだかまっていた。しかも上からは実際に自殺者の使ったロープがぶらさがっている。
 不気味、などという生やさしいものではない。
 それでもなぜか、電球のスイッチを切って寝る気にはなれなかった。
 心身は極度に疲労している。しかし人間というのはあまりに疲れていると、逆に目が冴えわたることも多い。
 今日一日の出来事を思い返すと、すべてたちの悪い冗談のように思えてくる。あるいは、自分はいま本当は遭難して雪の中で横たわっているのではないか、という気がしてきた。
 つまり、この非常識な館は、もともと存在していないのだ。
 あまりにも、この館はおかしなことが多すぎる。現実の自分はすでに死にかけていて、雪中で死ぬ前の幻覚を見ているのかもしれない。
 いや、実はもう本当の自分は死んで幽霊になっているのではないか。自らが幽霊になっているのに気づかずに人間のようにふるまっている、というのはホラーでは古典的なパターンだ。
 「幽霊、ね……」
 だとしたら、先ほどの議論ほど滑稽なものはない。ひょっとすると九条もメイドたちもみな亡霊で、自分たちが死んでいることを理解せずに霊の実在について語り合っていたのかもしれない……。
 だんだん発想が病的になってきている。
 最初にこの部屋を見たときから、なんとも厭な感じがしていたのだ。確実に、部屋の雰囲気が精神に悪い影響を与えている。
 「くそっ」
 霊などいない。そのはずだ。
 にもかかわらず、先ほどから「何者かの気配」のようなものを感じるのである。
 何度も無視しようとしていたが、どうにも落ち着かない。しだいしだいに、気分が悪くなってくる。
 ぼんやりと天井を見つめているうちに、妙なことに気づいた。
 ロープが、ゆっくりと揺れている。
 どこからか風でも吹き込んでいるのだろうか。
 この部屋にはエアコンのたぐいはない。妙なところまで忠実に再現されている。おかげで、ベッドの掛け布団にくるまっても寒いくらいなのだが、それも別種の寒気が脊髄を駆け抜けてきた。
 なにかが、おかしい。
 飲みすぎたのだろうか。高級ワインだけに美味しくて、つい度を超して飲んでしまったのかもしれない。悪酔いがいまごろになってやってきたとしてもおかしくはない。

 ……ねばいいのに……。

 それは、ごくかすかなささやきのようなものだった。

 ……死ねばいいのに……。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。