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怨霊館の惨劇 下

怨霊館の惨劇 下


発行: キリック
シリーズ: 怨霊館の惨劇
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆7
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解説

 大学のオカルト同好会に所属する中井悠介は、五人のサークル仲間とともに、信州の山奥にある廃墟ホテルを目指していた。ところが途中、豪雪によるホワイトアウトで目標を見失い、極寒の雪山で遭難してしまう。霊感を持つメンバーの一人が不吉な予感を覚えつつも人家を探し当て、辛くも凍死の危機はまぬがれた一行。だが、たどり着いた先は、禍々しい瘴気を放つ巨大な建物──「怨霊館」と呼ばれる古びた洋館だった。そこで悠介たちを迎えたのは、まるで魂を宿していないかのような双子のメイド、虚と無。そして、不気味なゴムマスクをかぶり車椅子に乗った館の主、九条崇であった。温かい風呂に、豪勢な食事と、予想外の歓待を受け人心地ついた六人だったが、常軌を逸した九条のコレクションについて聞かされたあたりから雲行きは怪しくなる。悠介の姉の秘密が九条の口から語られた頃には、全員が置かれた状況の異常さを実感していた。きわめつけは、一人一人に割り当てられた客室だった。何と、それぞれ現実にあった、自殺現場、轢死現場、殺人現場などを完全に再現した部屋になっていたのだ。首を吊ったロープから、人が轢かれた線路、一家を皆殺しにした凶器まで、すべて「本物」が用意された、怨霊の間。そこでは、オカルト否定論者の悠介をも震え上がらせる怪異が連続する。やがて、目の前に姿を現す夥しい数の怨霊たち。しかし、それすら「魔道師」九条の大いなる目的を果たす歯車の一つにすぎなかった……。

 這い寄る混沌に千体の怨霊を捧ぐ……鬼才・梅津裕一が満を持して放つ、超進化系絶恐クトゥルフ奇譚、下巻!

目次

 第六部
 第七部
 第八部
 第九部
 第十部
 終章

抄録

 冴が小刻みに肩を震わせていた。
 どうやら携帯からの声がもれ聞こえてしまったらしい。
 「嘘……だよね」
 なんとも言えなかった。
 茜の携帯にこちらからかけ直そうとしたが、また電波状態が悪くなった。
 単なる偶然だろう? それとも九条の悪辣な意志が働いているのだろうか?
 「くそ……なんでいきなり、圏外に戻るんだよ!」
 悠介は舌打ちした。
 「ねえ、悠介くん、茜……無事だよね」
 目に見えて、冴の精神状態が再び不安定になっていくのがわかる。
 それも無理はない。死んだと告げられた相手が、友人の茜なのだ。
 「大丈夫……きっと、たちの悪い霊の、いたずらかなにかだ」
 悠介自身そう考えたかったが、この館では楽観論が悲惨な結果しか招かないと、すでにあまりにも高い代価を払って学んでいる。
 たぶんすでに茜は殺されている。そう考えたほうがいい。
 犯人は考えるまでもない。雄大だろう。
 より正確にいえば「雄大に取り憑いた殺人鬼の怨霊」だ。
 晶太は、本人が殺人鬼だった。
 だが雄大の場合は、違う。彼は「殺人鬼の間」に泊まったことにより、悪霊に憑かれた可能性が高い。
 先ほどの声も、ふだんの雄大の声とはあきらかに異質だった。おそらく殺人鬼の霊が完全に雄大の肉体を支配したのだろう。今度は雄大という「敵」まで増えたことになる。
 我知らず舌打ちがもれた。
 一応、こちらにはマカロフという武器がある。とはいえ、うかつに使うわけにはいかない。
 危険なのはあくまで「殺人鬼の怨霊」であり、雄大本人ではないのだから。
 個人的には雄大を傷つけたくない。が、この状況では雄大を撃つ選択肢も考慮に入れる必要がある。
 ふと気になって、マカロフのカートリッジを抜いて残弾数を数えてみた。
 「嘘だろ……」
 もう五発しか弾は残っていなかった。
 あちらの悠介──この体の本来の持ち主──がすでに何発が撃っていたらしい。
 弾倉に、八発は入っていたはずだ。
 そこまで考え「なぜ自分はこんなことを知っているのか」と、悠介は驚いた。
 いままで銃器になど興味を抱いたことはない。マカロフという名はときおり発砲事件のニュースで聞いたことがあったが、知っていることはそれくらいのはずだ。
 あるいは「あちらの悠介」の知識が、意識のなかに流れ込んでいるのかもしれない。
 自然とマカロフを撃つ際の安定した姿勢が脳裏に浮かんできた。これもあちらの悠介の記憶だろう。だが、これは使える。
 こちらの肉体のほうが、悔しいが自分の本来の体よりも「高性能」に思えた。それなりに修羅場をくぐり抜けているためか、かなり体も鍛えられている。
 思わず悠介は笑った。
 なにももとの体に固執する必要はない。この体で、充分だ。
 冴を守るなら、むしろこちらのほうが都合がいい。
 それにしても、冴はいい女だ。この女に無理やり突っ込んでやったら、どんな悲鳴をあげるのだろう。想像するだけで股間が熱く……。
 待て。
 いま自分はなにを考えていた?
 「悠介くん……どうしたの?」
 「いや……なんでもない」
 改めて悠介は深呼吸をした。
 意識の奥であちらの悠介は眠っている。あるいは押さえつけられている。
 しかし、それは必ずしも「あちらの悠介の意識が完全に休止していることを意味しない」のだ。
 いままで自分はこの体を安定して支配できていると思っていた。そしてそれは実際にそうなのかもしれないが、とんでもない副作用があるらしい。
 もう一人の自分の意識に、悠介の精神も侵食されつつあるのだ。先ほどのような下卑た思考は、もとの悠介にはない。
 むろん悠介も健康な成人男子だから、性欲くらいはある。しかし、冴に無理やり突っ込む──すなわち強姦する──ことなど、考えるだにおぞましい。
 (本当か?)
 意識のなかから声が聞こえた。ざあっと血の気が引いていくのがわかった。
 (お前は沙夜姉ちゃんをネタにして、マスかいていたような変態だ……俺もお前も対して変わりはしない……)
 違う、と叫びたくなった。
 (いまはお前のほうが強いらしいが、もともとこの体は俺のもんだ……いつまで精神力が持つかな)
 慄然とした。また「新たな敵」の登場だ。
 おそろしいことに、そいつは自分のなかにいる。もっとも、この体は本来その「敵」のものなのだが。
 「本当にさっきから……大丈夫? 悠介くん……」
 冴が心配そうにこちらを見ている。
 「あ、ああ……なんともない」
 「でも悠介くんて……銃の扱いとか手慣れているのね。少し驚いた」
 相変わらず冴は鋭い。
 「いや……実はみんなには黙っていたけど、俺、銃マニアだったんだ」
 冴が意外そうな顔をした。
 「そうなの?」
 「まあ、なんかオタクくさい趣味だし、秘密にしてたんだよ」
 それ以上、問いつめられなかったので少しほっとした。
 ただ、冴は心なしか先ほどより自分から距離を置いているように感じられる。
 あるいは、冴自身もその事実に気づいていないかもしれない。それでも彼女の本能は「この悠介はどこかおかしい」とたぶん警告を発しているのだ。
 真実だけは、知られてはならない。
 「ここでじっとしていても仕方がない。少し移動してみよう」
 「そうね」
 冴がうなずいた。
 相変わらず長い廊下が続いている。窓も扉もない、異様な空間だ。
 すでに、この館が「門にして鍵」とかいう得体の知れぬ神のような存在のせいで迷宮化していることは理解していた。この屋敷を歩いているとひどく不快な気分になってくるが、それは理性がこの三次元的にありえない空間そのものを拒絶しているに違いない。
 そのとき、わずかに床が揺れた。
 「地震?」
 冴がかすれた声をあげたが、それは地震ではなかった。
 絨毯の敷かれた床が、まるで波のように異様な動きを繰り返していたのである。
 「なんなの……今度は」
 悲鳴じみた声を冴がもらした。
 なにが起きているのか、悠介にも見当がつかない。
 ささやき声のようなものが、どこかから聞こえてきた。

 てけ……り……てけり・り……

 冴の聴覚も、いまの音を捉えたらしい。
 「聞こえた?」
 悠介はうなずいた。
 「ああ……なにかの、鳴き声みたいな感じだったな……」
 あるいは、怨霊のたぐいだろうか。
 悠介の見る限り、視界のなかに霊体らしいものはない。もちろん、すべての霊が見えるとまだ決まったわけではないから早計だが、なにか違うものではないかという気がした。
 ほどなくして、揺れも奇妙な声もおさまった。とはいえ薄気味が悪い。
 「本当に……とんだお化け屋敷ね」
 軽い口調で冗談を言おうとしているようだが、冴の笑いはひきつっていた。
 「とにかく、先に進もう」
 悠介は言った。
 別にあてがあるわけでもない。この屋敷から「生きて帰る」ことが目的だが、いまの体でもし外の世界に戻れたとして、それで果たしてよしといえるのだろうか。
 この体は「もう一人の自分」のものなのだ。

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