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和書>小説・ノンフィクション文芸日本文学名作小説

或る女(上)

或る女(上)

著: 有島武郎
発行: オンライン出版
シリーズ: 或る女
価格:504円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 有島 武郎(ありしま たけお)
 一八七八年、東京都小石川に大蔵省官僚の長男として生まれる。小説家。画家の有島生馬(いくま)、小説家の里見とんの実兄。学習院高等科中退、札幌農学校に入学。三十八歳の時、実父と妻の死を契機に本格的な文筆活動に入り、不朽の傑作『或る女』『カインの末裔』などを次々と発表。白樺派文学興隆期の一翼を担った。一九二三年、婦人記者波多野秋子と共に軽井沢の別荘で自殺。三男を残し四十五年の生涯を閉じた。

解説

 近代日本文学中大正期の最高傑作。国木田独歩の恋人をモデルとしている点が問題になった。恋愛、家族制度、女の経済的独立等の問題をめぐって、封建的なものの強く残存している社会に自我の開放を求める女性の悲劇的な運命を描き、重厚なリアリズムの力がみなぎっている。

目次

・或る女(上)

抄録

 葉子はその時十九だったが、すでに幾人もの男に恋をし向けられて、その囲みを手ぎわよく繰りぬけながら、自分の若い心を楽しませて行くタクトは十分に持っていた。十五の時に、袴(はかま)を紐(ひも)で締める代わりに尾錠(びじょう)で締める工夫(くふう)をして、一時女学生界の流行を風靡(ふうび)したのも彼女である。その紅(あか)い唇(くちびる)を吸わして首席を占めたんだと、厳格で通っている米国人の老校長に、思いもよらぬ浮名を負わせたのも彼女である。上野の音楽学校にはいってヴァイオリンの稽古(けいこ)を始めてから二か月ほどの間にめきめき上達して、教師や生徒の舌を捲(ま)かした時、ケーベル博士一人は渋い顔をした。そしてある日「お前の楽器は才で鳴るのだ。天才で鳴るのではない」と無愛想に言って退(の)けた。それを聞くと「そうでございますか」と無造作に言いながら、ヴァイオリンを窓の外に抛(ほう)りなげて、そのまま学校を退学してしまったのも彼女である。キリスト教婦人同盟の事業に奔走し、社会では男まさりのしっかり者という評判を取り、家内では趣味の高いそして意志の弱い良人(おっと)を全く無視して振舞ったその母の最も深い隠れた弱点を、拇指(ぼし)と食指との間にちゃんと押えて、一歩もひけをとらなかったのも彼女である。葉子の眼にはすべての人が、ことに男が底の底まで見すかせるようだった。葉子はそれまで多くの男をかなり近くまで潜(もぐ)り込ませておいて、もう一歩というところで突っ放した。恋の始めにはいつでも女性が祭り上げられていて、ある機会を絶頂に男性が突然女性を踏みにじるということを直覚のように知っていた葉子は、どの男に対しても、自分との関係の絶頂がどこにあるかを見ぬいていて、そこに来かかると情け容赦もなくその男を振り捨ててしまった。そうして捨てられた多くの男は、葉子を恨むよりも自分たちの獣性を恥じるように見えた。そして彼らは等しく葉子を見誤っていたことを悔いるように見えた。なぜというと、彼らは一人として葉子に対して怨恨(えんこん)を抱いたり、憤怒を漏らしたりするものはなかったから。そして少しひがんだ者たちは自分の愚を認めるよりも葉子を年不相当にませた女と見るほうが勝手だったから。

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