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流行禍《ハヤリノワザワイ》 上

流行禍《ハヤリノワザワイ》 上


発行: キリック
シリーズ: 流行禍《ハヤリノワザワイ》
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆2
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解説

 平穏そのものと思っていた日常も、ほんの少し目を転じてみると、その暗がりでは悪鬼のような異常者が跋扈《ばっこ》している。だが、街の人々の間を流れていくのは、無責任な都市伝説や噂だけ。すぐそばにあった恐怖が現れてから後悔しても、そのときはすでに新しい犠牲者の仲間入り──。
 市立宇佐和高校に通う柊リコは、趣味が高じて開設した投稿型都市伝説系怪談サイト『私の街の怖い噂』の管理人。そして、常連たちが語り合うネタから面白そうなものを見繕っては、それにまつわる人物や場所を取材し、その噂を検証しているという変わり者だった。その日も、リコはサイトで話題のある噂を検証すべく、同じ学校に通う一学年上の女生徒に突撃していた。不幸にもリコの無遠慮で身勝手な取材を受けることとなった少女の名は、戸島夏。美人だが真面目で物静かそうな彼女こそ、いつも黒い影を連れているという噂の『霊能少女』の張本人だった。強引なリコのペースに巻き込まれながら、いつしか彼女のパートナー兼お目付役のようになっていく夏。さまざまな怪異や事件を通じてリコとの絆を深めていくが、その凄惨な過去は残酷な運命の歯車を動かしてしまい……。

 少女に取り憑いた黒い影の正体とは……? 狂気と恐怖と悲劇の連鎖が止まらない、ノンストップ連作短編ホラー・前編!

目次

 第一話 霊能少女の噂
 第二話 呻く壁の噂
 第三話 ヒキ子の呪いの噂
 第四話 人喰いビルの噂
 第五話 クビナシゾンビの噂

抄録

 ウィイイイイイイン……
「や、やめろッ!! やめろって!! なぁ!! マジで、死んじまうって!!」
 ウィイイイイイイン……
「こ、殺す!! テメェ、絶対、殺してやるからなッ!! 覚えとけ、俺の仲間は」
 ウィイイイイイイン……
「い、イイイッ痛い痛い痛い痛い痛ァいッ!! 熱いッ熱いッ熱い熱いいいいッ!!」
 ウィイイイイイイン……
「あッ。ああッ。や、やめてください。お願いしまアアアアアアアアッ!!」
 ウィイイイイイイン……
「……ッ!?」
 一瞬、ホラー映画でも見ながら寝てしまったのかとリコは思った。
 しかし、交互に聞こえてくる、モーターが回転するような機械音と血も凍るような若い男の絶叫はあまりにも生々しい。
 ガンガンと響く頭痛に顔をしかめながら、ゆっくりと瞼を開く。
 視界に飛び込んできたのは、真っ黒く煤《すす》けた汚らしい天井。そこからぶら下がる太った蜘蛛のような裸電球に、明かりは灯っていない。
 ロープか何かで拘束されているらしく、身体は思うように動かせなかった。
 唯一、自由が許されている首を動かし、周囲の様子を探ってみる。
 縦横にヒビが走る大きな窓ガラスから差し込む強い西日が目を突き刺す。
 埃と土が堆積し、ドロドロに汚れたリノリウムの床。そのあちこちに工作機械の残骸らしきガラクタが散らばっていた。
 荒廃し、朽ちかけたこの空間は廃墟となった町工場……、その作業場のようだ。
 リコは作業台に転ばされ、ロープのようなもので四肢を縛られていた。まさに手も足も出ない状態だ。
 あたし、拉致されちゃったんだ……。
 現状を認識した瞬間、全身がガタガタ、ガタガタと震えだす。
 どうしよう、どうしよう。
 まさか、殺されたりしないよね?
 そんなのありえないよね?
 こんな汚い場所で誰にもみとられず、死んじゃうなんて、嫌だ。
 絶対に嫌だ……。
「あ、お姉ちゃん。目が覚めちまったか」
 工作機械の向こう──、作業場の真ん中に立っていたヤスさんが振り返った。
「この兄ちゃん、ギャアギャア騒ぎすぎだよなァ? まったく、近ごろの男の子ときたら」
 嘆かわしいかぎりだ、と首を振るヤスさん。思ったとおり、悲鳴の主はトモキだった。
 彼もリコと同じく身体の自由を奪われている。今にも崩れ落ちてきそうなほど腐敗した作業場の天井を支える鉄骨の柱に鎖でグルグル巻きにされて。
 ウィイイイイイイン……
 重厚なモーター音を響かせたのは、ヤスさんの片手に握りしめられた電動ドリル。ホームセンターの日曜大工のコーナーなどで見かける、大きく厳《いか》めしい代物だ。
「さて、と」
 トリガーを引いたまま、その回転するドリルの先端をヤスさんは、縛られたままグッタリとしているトモキの肩口に近づけてゆく。
 血も凍るような絶叫が再び、響き渡った。
 すでにいくつもの赤い花が咲き乱れた床や壁に、新たな血の花が生まれてゆく。
 そこで、トモキの悲鳴がピタリと止まる。
「人殺しッ!!」
 もう、限界だった。ボロボロと涙をこぼしながら、リコは絶叫していた。
「どうして!? どうして、こんなひどいことするの!?」
「どうしてって、そんなの決まってるじゃないか」
 リコの剣幕に戸惑ったような顔で、ヤスさんは肩をすくめる。
「この街を綺麗にして、清めて……、悪いモノたちから守るためだよ」
 そう言って、薄汚れた鉄のバケツを持ち上げる。
 それに思わず目をやり、リコは激しく後悔した。
 一瞬ではあったが、バケツの底に押し込められているものが見えてしまったからだ。
 それは赤黒く汚れた、ぼろ雑巾のような物体だった。ただし、そのボロ雑巾には長い尻尾と三角形の小さな耳が生えていた。血まみれの肉球がついた、細い足も。
 それは先刻、ヤスさんが懐に入れて連れ歩いていた仔猫に違いなかった。
 喉元まで込み上げる吐き気にリコは必死に抗《あらが》う。誰がこんなことをしたのか、今となっては考えるまでもないことだった。
「あのな、お姉ちゃん」
 またしても、気を失っているトモキの傷口にバケツを押し当てながらヤスさんが言う。
「オッサン、最近、気がついたんだけどな。街を綺麗にするっていうのは、単にゴミ拾いをしたり、ノラの犬猫の世話をするだけじゃダメなんだよ」
 ポタポタ、ポタポタ……。
 何とも耳障りな音を立てて、トモキの血がバケツに溜まってゆく。そのさまをジッと見つめているヤスさんの表情は、真剣そのものだった。
「もちろん、そういうことも大事といえば大事だよ? でもな、この世にはもっと重要で深刻な問題があるんだ。……そう、地獄蝿だよ。羽根に髑髏のマークが書いてある、地獄の蝿。ほら、地獄の第四層世界からやってくる、目には見えない小さな悪魔だよ」
 地獄蝿? 悪魔?
 何言ってるの、この人?
 ヤスさんの連発する意味不明な単語に、リコは頭がクラクラした。
「ほら、この間も市会議員のナントカってヤツが汚職で捕まっただろ? ああいう悪さをするヤツはみんな頭を地獄蝿にヤられてるんだ。普通の蝿はものを腐らせるけど、地獄蝿は人間の心を腐らせるんだよ。この街にも地獄蝿は何匹もいるからね。誰かが食い止めないと大変なことになっちゃうんだ」
 あらかじめ用意されていた台本を読み上げるかのように、ヤスさんは無感動にスラスラとしゃべり続ける。
「だからな、お姉ちゃん」
 ブツッ。
 肉が引きちぎられるような、嫌な音が聞こえた。
 ヤスさんがバケツの底に敷き詰めていた仔猫の死骸から足をもぎ取ったのだ。
 リコが悲鳴を迸《ほとばし》らせるよりも早く、ヤスさんは鮮血をたっぷりと含んだその肉球を地面に押し当て、何やら落書きを始める。
 それは魔法陣を思わせる、奇妙な幾何学的な図形だった。
「今まではワンコやニャンコの血で何とか凌いでこれたけど、これからは動物だけじゃ無理だ。人間の血も使わなきゃ。それも俺みたいな年寄りのはダメだ。お姉ちゃんみたく、まだ若くて、ピュアな魂の持ち主でなきゃマナジカの印形は効果が発揮できないんだ」
 狂ってる。
 遠のきそうになる意識のなかでリコは思った。
「あ、マナジカの印形っていうのは、地獄蝿を追い払うための呪いなんだ。オッサンな、秘密結社の大首領さまから直々に伝授してもらったんだよ。だから、大丈夫なんだ」
 この人、完全に狂ってる。
「……うーん。どうもパワーが足りないなァ」
 頭のてっぺんから爪先まで、トモキと仔猫の血でドロドロになったヤスさんが首をかしげる。肉球のついた〈筆〉を動かす手を止め、何か考えごとをするように眉をひそめた。
「ニャンコと兄ちゃんの血だけじゃダメみたいだな。何ていうか、印形に力が思ったほど宿らないんだな。仕方がない。お姉ちゃんにも血袋になってもらわんと」
 ウィイイイイイイン……
 ヤスさんが物憂げにため息をつくのと同時に、再び電動ドリルが稼働しはじめる。
「う、うそ……」
 えもいわれぬ悪寒に襲われ、リコはかすれた声で呻《うめ》いた。
 視線がドリルの先端に釘づけになり、外すことができない。大暴れして逃げ出したかったが、全身が石化したかのようにこわばり、指先ひとつ動かすことができなかった。
「う、ウソだよね? ヤスさん、そんなことしないよね?」
「大丈夫、大丈夫」
 消え入りそうな声で懇願するリコにヤスさんが何度もうなずく。
「ニャンコも、兄ちゃんも、お姉ちゃんも、マナジカの印形のなかで永遠に生き続けられるわけだから。ほら、よく言うだろ? 肉体が滅びても魂は不滅ってさ」
 ウィイイイイイイン……

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