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流行禍《ハヤリノワザワイ》 下

流行禍《ハヤリノワザワイ》 下


発行: キリック
シリーズ: 流行禍《ハヤリノワザワイ》
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★☆☆☆☆1
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解説

 平穏そのものと思っていた日常も、ほんの少し目を転じてみると、その暗がりでは悪鬼のような異常者が跋扈《ばっこ》している。だが、街の人々の間を流れていくのは、無責任な都市伝説や噂だけ。すぐそばにあった恐怖が現れてから後悔しても、そのときはすでに新しい犠牲者の仲間入り──。
 市立宇佐和高校に通う柊リコは、趣味が高じて開設した投稿型都市伝説系怪談サイト『私の街の怖い噂』の管理人。そして、常連たちが語り合うネタから面白そうなものを見繕っては、それにまつわる人物や場所を取材し、その噂を検証しているという変わり者だった。その日も、リコはサイトで話題のある噂を検証すべく、同じ学校に通う一学年上の女生徒に突撃していた。不幸にもリコの無遠慮で身勝手な取材を受けることとなった少女の名は、戸島夏。美人だが真面目で物静かそうな彼女こそ、いつも黒い影を連れているという噂の『霊能少女』の張本人だった。強引なリコのペースに巻き込まれながら、いつしか彼女のパートナー兼お目付役のようになっていく夏。さまざまな怪異や事件を通じてリコとの絆を深めていくが、その凄惨な過去は残酷な運命の歯車を動かしてしまい……。

 少女に取り憑いた黒い影の正体とは……? 狂気と恐怖と悲劇の連鎖が止まらない、ノンストップ連作短編ホラー・後編!

目次

 第六話 心霊カメラ小僧の噂
 第七話 続・クビナシゾンビの噂
 第八話 迷子の殺人鬼の噂
 第九話 『私の街の怖い噂』の噂
 最終話 リョウスケくんの噂

抄録

 冷たく言い放って、リコは背後の廃屋──、『一家心中の家』を振り返った。
「じゃあ、あたしたちはここで待ってるからさ。秋雨くん、さっさっと行っておいでよ」
「えっ?」
 リコの顔と廃屋を交互に見比べ、春信の顔がベソをかくような表情に歪む。
「僕一人であそこに入れっての?」
「ちょっとぉ。そんな情けない声出さないでよ。秋雨くんは男の子でしょ?」
「だ、だって、柊さんのサイトじゃ、あの家に入ったら祟られるって……」
「だから、うってつけなんじゃない」
 まるで、出来の悪い生徒を前にした教師の心境だった。小さくため息をつき、人さし指を振りながらリコは説明した。
「いい、秋雨くん? 君はまわりの人たちから心霊カメラ小僧、まあ、一種の霊能者みたいなものだと思われて、薄気味悪がられてるんだよね?」
「そ、そうだけど、それがこれとどう関係あるんだよ?」
「大ありだよ。要は秋雨くんが霊能力なんて持っていないって証明すればいいんでしょ? 世の中、論より証拠だよ。こういうイワク付きの場所で写真撮りまくってさ、変なモノが映り込まなきゃ、まわりの人たちの不安も自然と解消されるじゃん」
 そう言ってから、リコは得意げに胸を張っていた。
 我ながら実に冴えたアイデアだと思った。
 しかし、
「……何だか、回りくどいやり方だなぁ」
 ウェストポーチからデジタルカメラを取り出した春信は、まったく気乗りしない様子だった。
「もっと、スマートなやり方、考えてほしかったなぁ」
「何よ、文句あるの?」
 カチンときて、リコは春信を睨みつける。
「なんとかしろ、って泣きついてきたから考えてあげたのに。なんなら、今からでも中止にする?」
「わ、わかった。行くよ。行きますよ」
 そう言いながらも、春信の口からもれ出たのは、大きなため息だった。
 嫌で嫌でしようがないことを彼は全身でアピールしているようだった。
 何なの、こいつ、とリコは思った。
 ウジウジしちゃってさ。こういう煮え切らない男って見てるとイライラしちゃう。
「あの秋雨くん」
 遠慮がちに声を発したのは夏だった。
「よかったら、私と一緒に行く? 廃屋って、一人じゃ危ないし、そのほうが安心かも」
「い、いえ、大丈夫です」
 リコが口をはさむよりも早く、あわてたように春信が首を振った。
「まだ、明るいですし。僕一人でも大丈夫です」
「そう? だけど……」
「すぐ、帰ってきますから。心配しないでここで待っていてください」
 夏に受け応えする春信の声は、ほんの少しうわずっているようにリコには聞こえた。
 春信の顔がなんとなく赤らんでいるようにも見える。
 まさか。
 まさか、こやつ、センパイのこと……。
「いいから、早く行けば?」
 先ほどとは種類が違ういらだちを覚えながら、リコは二人の間に割って入っていた。
「裏口の鍵が開いてるからそこから入ればいいよ。とりあえず、一部屋、一枚ずつ、写真を撮ってくればいいんじゃない?」


 それから十数分後。
「あっ、出てきた」
 フラフラとした足取りで廃屋の裏手から戻ってきた春信に気がつき、リコは手を振った。
「早かったね。写真、ちゃんと撮れた?」
「い、犬……」
 今にも嘔吐しそうな、青ざめた顔のまま、ポツリと春信がつぶやく。
「は? 犬?」
「で、でっかい犬の死骸があったんだ。たぶん……、ゴールデンレトリーバーだと思う。すっかり、水分がなくなっちゃっててさ。リビングの床で煎餅みたいに広がっていて、最初はそういう敷物かと思った。ホント、すごい臭いだった」
「ちょっと、やめてよ」
 おぞましい光景を思い描きそうになり、あわててリコは春信の報告をさえぎる。
 あのとき、嗅いだ悪臭の源はそれだったのか。一人で上がり込んだりしなくて、本当によかった。
「あたしって、そういうグロ系の話、苦手な人なの。……で、写真はどうだったの?」
「えっ? 写真?」
 ボンヤリとした、寝ぼけたような表情で春信がリコに顔を向ける。
「写真って……?」
「しっかりしてよ、秋雨くん。何のためにここに来たの?」
「ちょっと待って、リコちゃん」
 そう言って、止めに入ったのは夏だった。
「秋雨くんも落ち着いて? もう、大丈夫だから。ね?」
「は、はい……」
「この家のなかのものは秋雨くんには関係ない。そう、自分に言い聞かせながら、深呼吸してみて」
 まるで幼稚園児のように素直に夏の言葉に従って、春信が深呼吸を始める。その背中を優しくさする夏の顔つきは、わが子を気づかう母親のようだった。
 何だか面白くないな、とリコは思う。
 そりゃセンパイは優しいから、しんどそうな人には親切に接するだろうけど。
 そのポジションは秋雨くんじゃなくて、あたしのものなのに。
「はい、もういいよね? 元気出たよね?」
 仏頂面になってリコはパンパンと手を叩き、夏から春信を引き離した。それから、テキパキとした口調で言った。
「写真、撮ってきたんでしょ? 見せて」
「あ、ああ。もちろん」
 夏のおかげか、いくぶん落ち着きを取り戻した春信がぎこちなくうなずく。
「まだ、僕も確認はしていないんだけど……」
 ほとんど奪い取るようにして、リコはデジタルカメラを受け取っていた。それから液晶モニタをオンにして、保存された画像データを一つひとつ確認してゆく。
 画像は裏口から始まって、台所、薄暗い廊下、もともとは高価だったのだろうが、今は埃まみれになったソファーやキャビネットの置かれたリビングルームへと続いてゆく。
 賢明にも春信は犬の死骸を撮影していなかった。思っていたよりはデリカシーがあるらしい。
ほんのちょっとだけ、リコは春信を見直すことにした。
「リコちゃん、ちょっと待って」
 肩越しにスライドショーを見つめていた夏が神妙な表情で言った。
「今の写真。おかしくなかった?」
「えっ? どれがですか? おかしいって、どんなふうに?」
 聞き捨てならない台詞だったらしい。春信も顔色を変えて覗き込んでくる。
「……」
 いつのまにか、その場に重苦しい緊張感が生まれていた。
 無言のまま、リコはディスプレイを操作して、二つほど前の画像に戻す。
「あっ……」
 思わず、声が出てしまった。
 写り込んでいたのは、二階へと続く階段の踊り場。
 その全体を覆うようにして、青白い霧のような、あるいは靄のようなものが広がっていた。
「こ、これって……」
 鳥肌が立つのを覚えながらも、リコはその画像に目を釘づけにされてしまう。
 青白い霧の真ん中に黒い点が三つ、浮き上がっていた。
 それは、大きく両目を見開き口を縦に開いて絶叫する、人間の〈顔〉だった。
 よく見ると、深い皺が刻まれた男のものとわかる。
 他の部分、腕や胴体、足などは青白い霧のなかで混沌と溶け合い、判別することができなかった。そんな曖昧模糊とした被写体であるにもかかわらず、ディスプレイの向こう側からは、凍てつくような敵意がひしひしと伝わってくる。
 と──、
 ディスプレイのなかの〈顔〉が蟲のように蠢き、リコに向き直ろうとした。
「嫌っ!!」
 甲高い悲鳴をあげて、リコはその画像を消去していた。あわてるあまり、危うくデジタルカメラを地面に取り落としてしまうところだった。
「い、今の見ました?」
 声を震わせながら、リコは夏と春信を振り返った。
「心霊写真っていえば、テレビや雑誌でいろいろ見てきたけど、こんなの初めてかも……」
 気まずくなって、リコはそこで言葉を濁らせる。
 夏も春信も無言のまま、全身を硬直させていた。夏の表情は険しく強張り、春信は顔色が蒼白を通り越し、土気色になっていた。
 三人そろってしばらく黙り込んだあと、氷河に迷い込んでしまったかのような、この場の空気を何とか変えたくて、リコはにっこり微笑んでみた。
 それから、あえて明るい口調で言った。
「やるじゃん、秋雨くん。心霊写真、バッチリ撮れたね」

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