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実験地区13 上

実験地区13 上


発行: キリック
シリーズ: 実験地区13
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★★8
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著者プロフィール

 狂気 太郎(きょうき たろう)
 第一回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞受賞。灰崎抗名義で『想師』(学習研究社・刊)ほか発表。インターネット上でも自身の作品を公開。代表作は『殺人鬼探偵』『ずれ』など。

解説

 二〇三一年、日本──生活保護制度が廃止され、働けない人間は政府が運営する「実験地区」に送られる社会。実験地区とは、国が将来のあらゆる事態を想定し、隔離した区域内に特別な環境や制度をつくり、その中で人間がどの程度適応できるのかを探る場所。全国に十四カ所ある実験地区には、住民が自ら食料や生活必需品を生産しなければならない「自給自足経済地区」、他人との接触がコンピューター上の仮想空間に限られる「サイバーコミュニティ地区」もあれば、あらゆる病原菌を蔓延させて感染状況や耐性獲得の可能性を調べる「無治療疫病地区」、住民に大量の武器と少量の食料を与えて争わせ現代日本人の攻撃性などを研究している「戦争地区」といった、極めて非人道的な実験を目的とする場所もあった。
 突然の列車事故で両親を亡くした久世明人は、高校二年という若さで、実験地区に送られることになる。その移住先に指定された第十三実験地区は、最低限の公共サービスと生活費が与えられるものの、地区内に警察を含めた公的機関はいっさい存在しない。つまり、法を犯しても取り締まる者がいないため、そこは殺人すらも許される、文字どおり「無法地区」だった。それを証明するように、入所初日から人が殺されるのを目の当たりにする久世。だが同時に、地区内には「自治会」が存在し、ちゃんと機能していることを知る。月会費さえ支払えば、最低限の安全が保証されるというのだ。しかし、自治会の会員となり、無法地区の生活にも慣れてきた頃、久世はあるイザコザから自治会のルールを破ってしまう。普通なら規定に従い裁かれるところだが、そこで久世を「ハンター」に採用してはどうかとの提案が出る。聞けば、無法地区であるのをいいことに、ここには趣味で人を殺すような殺人鬼が大勢やってくるらしい。そして、そいつらを狩るのがハンターの仕事だという。かくして、処罰は免れた久世だったが、自治会のハンターになるべく、「出張肉屋」と呼ばれる殺人鬼を一人で始末するという過酷な試練を与えられたのだった……。

 無法地区で繰り広げられるハンターと殺人鬼の血みどろの狂宴……鬼才・狂気太郎が満を持して放つ、限界マッドホラー・上巻!

※本書上巻には「第十三実験地区【無法地区】マップ」が収録されています。

目次

 プロローグ
 第一章 無法地区
 第二章 死なないための最低限のルール
 第三章 ハンター
 第四章 いつものこと
 第五章 死屍累々

抄録

  ドアは赤黒く汚れていた。血痕、だろうか。鉄っぽい匂いが強くなっている。
 ヤバそうだな。僕はドアに耳を触れない程度に寄せた。向こうに動きはない。自分の呼吸音が邪魔だ。相手に聞こえるような大きさではないと思うのだけれど。
 右手のナイフ。いざとなったらこれで刺す。ゴムっぽい柄を握り締め、ライトを持った方の手でノブを回し、ドアを引き開けた。ノブについた血は乾いていた。
 やはり闇。素早くライトをめぐらせて中の様子を確認する。中央に大きなテーブル。壁に棚。人影はない。黒いビニール袋がいくつかと、正面奥に大きな水槽があった。
 水槽の中に何か沈んでいた。確認しようともう一度光を当て、途中のテーブルに載ったものも何だかわかってしまった。
 頑丈そうな金属製のテーブルには、電動丸鋸や大型のナイフが置かれていた。道具もテーブルも血塗れだ。ここで人を殺したのか。いや、解体したのか。
 水槽に沈んでいるのは肉塊だった。人間の胴体や手足らしいもの、髪の生えた頭部。バラバラに切断されている。四、五人分はあるのではないか。水槽に満たされているのは水ではなく防腐剤か。
 やはりここは、殺人鬼のアジトだった。
 僕は息をするのを忘れていたらしい。苦しさに気づいて息を吸い込むと、これまでで一番濃厚な血とホルマリンの匂いが入ってきた。匂いというのは成分が粒子となって嗅覚細胞にくっついて伝わるらしい。だから血の成分は僕の中に入ってきてくっついてしまった。気持ち悪い。たくさんくっついたはずだ。洗い流したい。鼻と口の中をきれいに洗いたい。
 いや、落ち着け。ここでパニックになったら死ぬだけだ。ここで殺されたら、こんなふうになるのだろうか。バラバラにされてホルマリン漬けに……。
 落ち着け。
 落ち着け。
 ふうううう。息を吐く。また胸が震えている。ナイフ。右手はちゃんとナイフを握っている。大丈夫だ。戦える。
 出張肉屋を探さなければ。
 僕はドアを閉めて解体部屋から離れ、次のドアに向かった。どうせこちらもろくな部屋じゃないだろうと思いながら、ドアノブを掴む。ヌチッと、粘っこい感触。ああ、こっちについてる血はまだ乾いてなかった。やっぱり軍手でも持ってくるべきだったな。
 ドアの前の床も、塗り重ねられた血糊でぬめっていた。
 開けるべきではないかも。ここより先に別の部屋を探すべきかも。そう思いながらも僕の手はノブを回し、ドアを引いた。
 さっきの匂いはひどかったが、それをさらに超えるものがあることを僕は知った。
 モワリ、というようなものではなく、ドロドロとした冷たい塊を鼻に突っ込まれた気がした。目に染みる。口にも喉にも成分が入ってきて僕は咳き込みそうになった。
 覗く。室内は真っ暗だ。ライトを当てる。椅子と脚立がある。それからバケツ。金槌などの工具もいくつか転がっている。
 壁が、デコボコしている。
 ヘタクソな壁紙の張り方だと思ったのは一瞬で、すぐにそれが何であるかわかった。髪の毛と、目と鼻と口の穴が開いた造形。
 壁に、人間の皮を張りつけてあるのだ。
 釘で打ちつけているのか。皮だけでなくそれなりの肉の厚みがあって、それを適当に繋ぎ合わせているからデコボコになっている。壁、壁、すべての壁が人肉で埋まっていた。何人分くらいになるだろうか、五十人でも足りないと思う。全部自分で殺したのか。さらに天井の一部まで肉壁紙は侵蝕していた。手足の先などは使っておらず、主に胴体と顔だ。目玉のない顔が口を半開きに歪めているが、舌もなく奥に壁が見えるだけだ。
 肉だ。ここは肉の部屋だ。
 ここまでするか。
 殺人鬼って、ここまでするのか。
 何が手頃な相手だ。とんでもない化け物じゃないか。完全に狂っている。こんなのにナイフ一本で立ち向かえと。僕は昨夜一人殺しただけの、ただの初心者なのに。ハッ、初心者ってのはちょっとおかしかったな。
 正面の壁に浮かぶ光のスポットが揺れている。ライトを持つ僕の手が震えている。カタン、と足もとで音がして僕は驚いた。何だ。
 ナイフだ。一本のナイフが転がっている。誰のだ。あっ、僕のだ。右手のナイフがない。落ちているのがそれだ。いつのまに、落としたんだ。
 パニックになっているぞ。パニックに、なってきている。まずい。まずナイフを拾わないと。ナイフを持ってないと戦えない。持っていれば戦えるとあの人は言っていた。あの女リーダー。名前は何だったっけ。思い出せない。頭がゴチャゴチャで。いやまずナイフを拾え。ナイフを。
 屈もうとする。ガクガクガク、と腰が膝が震える。手。手を伸ばせ。右手だ。左手はライトだ。そっちはもう落とすなよ。
 部屋の一部となった大勢の顔が、僕を睨んでいる気がした。
 僕はなんとか、震えながら手を伸ばし、ナイフを拾った。お腹がチクッとした。最初は何だかわからなかったが、新聞紙を巻いて腹に差していた包丁が当たったらしい。刺さっては、ないよな。ナイフの持ち方が悪い。力が入らない。持ち直さないと。でもライトを持つ左手もまだ震えていて、うまくいかない。
 こんな状態で、僕は戦えるのか。
 肉。隣の部屋で解体されて、防腐処理されて、張りつけられる。まさか生きたまま解剖なんて、ないよな。死んでからだよな。だったら少しはまし、いや、そうじゃない。僕は生き延びないと。不生。そうだ不生だ。不生美水流。サトリ。あいつは手頃な相手と言った。いや、初心者向けと言ったんだっけ。あいつはこういうイカレた殺人鬼達を簡単に狩ってきたのか。あのハンター達も。なら僕にもやれないことはないのでは。でも死亡率が高いって話だったな。いやまだ僕はハンターになってないから死亡率が高くはないのだ。あれっ、何を考えてるんだ。
 光。
 光が、上から照らしてきたのだ。
 廊下の電灯が点いた。蛍光灯だ。僕は点けてない。なら誰が点けた。誰だ。
 誰だよ。
「お客さんかな」
 声が聞こえた。部屋の中からじゃない。肉の部屋には誰もいない。壁紙の死体だけだ。
 僕は左を向いた。ぎこちなく、首の骨がギヂッと鳴った。
 廊下の突き当たり、階段の下に男が立っていた。

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