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マリクロ連載文庫 星のさらさら(1)

マリクロ連載文庫 星のさらさら(1)


発行: マリクロ
レーベル: マリクロ連載文庫 シリーズ: 星のさらさら
価格:100pt
形式:MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 高月 ひお(たかつき ひお)
 岐阜県出身。絵本、児童書、童話、日本古典、時代小説、時代劇、演劇、漫画アニメ全般を好んで観て育つ。特に自然を舞台にしたもの、素朴で人情味のあるもの、ハッピーエンドで読後温かい気持ちになれるもの、現実を生きているのにどこか不思議な世界に迷い込んだような気持ちになるものに心を動かされるため、自分でもそうした作品を書きたいと執筆を開始。一方で男女間の恋愛から広がる喜び、抗えない性との葛藤にも興味を持ち、上記の空気に性愛を絡めた恋愛小説を書き続けている。
 ★現在、発売中の作品に『空』『初恋ガーデン』。連載文庫作品に『Be lit up ! 』。発売予定作品に『初花の実』『ほおずき姫』『こなたに、かえる。』『花歌恋歌』

解説

 昔々、田舎のムラで行われていた星祭。少女は水辺の小屋で聖なる棚機ツ女(たなばたつめ)として機を織る。それを守るのは、彼女が慕う無口な幼馴染の少年。祭りの七日間、少女はある賭けと祈りを胸に愛しい人を想いながら機を織る。目に見えないものを信仰するムラの人々。医者の一族の少年は「穢れた一族の者」と後ろ指を差されているため、ムラの思想を心から嫌悪していた。少女の一途な想いは少年の閉ざされた心を救うことはできるのか──。

抄録

 スイが機を織り始めて、二日目の夜。星は真夏の夜空に輝く。
『星のさらさら 月の清《さや》 誰《た》が名と 吾《あ》が名を こひ願ふ こだまの燃ゆる 水のもり』
 少女は機の前に座り、杼《ひ》を滑らかに動かしながら、呪文のようにそれを歌う。心を楽しく豊かな状態にすると、美しい機が織れると大婆から教えられてきた。スイは歌を口ずさみながら機を織ることが多い。
 この歌は昔ミヤコから来た者に教えてもらった恋の歌だと、女たちの間で口伝えされている。少女の細く高い声が、水辺の小屋から天の海へと昇っていく。
 ──この声に乗せた想いは、小屋の外のイキにも届くだろうか。
 スイが歌を口にしながら想うのは、たった一人のこと。少女らしい小さな「賭け」と「祈り」は今宵もこの手に込められる。星の瞬きに、それを願う。

 杼の通る独特の音と、筬《おさ》を叩く甲高い音が、狭い室内に規則正しく響く。それに歌声が乗り、ひとつの旋律を作り出す。それが彼女に心地好いものをもたらし、相乗効果で益々機を織る手も足も軽やかに動き、織る音も美しく変化する。
 機織りが大好きなスイにとって、それは何よりも幸せな時であった。こんな気持ちの時に「彼」の事を思い出すと、益々嬉しい気持ちになれるのだ。
 スイの奏でるその調べは、小屋守として今、外で番をしている「彼」──イキの耳にも心地好いものとして聴こえていた。


 時を戻して機織りの儀式が始まる三日前のこと。
「イキ、聞いて。私、禊の機を織る!」
 棚機ツ女に選ばれたと聞いたその足で、スイはイキの家へと飛び込んだ。お転婆な彼女は、子供の頃はいつもイキの後をついて野山を駆け巡ったものだった。昼食の後であったので、イキは家で鏃《やじり》を研いでいた。このムラの一般的な男性の服装である短い着物の下に短い袴を穿き、胡坐をかいている。
 今年十六のイキは、同世代の少年たちよりも寡黙で落ち着いた雰囲気を持っていた。本来家長である筈の父親が居らず母親も亡くし、以前からムラの大人たちと一緒に仕事をしていることもそうした物腰に繋がっていた。
 反対に天真爛漫なスイは、彼の横で嬉しそうに息を弾ませたが、イキはちらりと彼女を見るとまた目線を手元に戻して作業を続けた。そして、一言。
「知っている」
 ──もうちょっと、何か言うことはないものかしら。私はイキが小屋守と聞いて嬉しかったのに。
 取り付く島もないイキの家から出てくると、スイは頬を膨らませた。棚機ツ女として機を織ることは、スイも含めたムラの少女たちの憧れであった。しかし小屋守がイキであることを聞いた彼女は、ただの憧れ以外の理由で棚機ツ女になりたくなってしまったのである。コウが辞退してくれたことをよかったと思う程に。
 小屋守は棚機ツ女を守る者。それこそ七日もの間、棚機ツ女はその男に全てを任せることになる。イキが別の少女を命懸けで守るということは、いくら神事であれスイには面白くなかった。他の者が小屋守ならばコウのことも素直に応援できるのだが、とそんな嫉妬を抱いてしまった。
 ──そんな汚い気持ちでこの役を受けた私が、聖なる乙女にふさわしいのかしら? 
 蝉の声が鳴り響く真夏の道を歩きながら、スイは晴れた空を見上げて思った。穢れのない乙女でなくてはならないのに、このような醜い嫉妬心や競争心から機を織る、そんな自分にスイは疑問を感じた。
 子を生《な》すことは大切なことだが、婚姻前に男と契ることは穢れであると少女たちは教わっている。ではこの恋情という気持ちは穢れであるのか、どうなのか。

本の情報

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