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和書>小説・ノンフィクション>歴史・時代小説>一覧
滝口 康彦(たきぐち やすひこ) (1929〜2004) 佐世保市生まれ。炭鉱で働きながらラジオドラマの台本や小説を発表。1957年から、作家の道へ。1958年にサンデー毎日大衆文芸賞を受賞した「異聞浪人記」が『切腹』(1962)、「拝領妻始末」が『上意討ち−拝領妻始末−』(1967)として、映画化される。「高柳父子」「かげろう記」「霧の底から」「仲秋十五日」「日向延岡のぼり猿」「主家滅ぶべし」で計6回、直木賞候補となる。
薩摩藩の勤王派による先走りを、上意によって阻もうとした寺田屋の変。辛くも生き残った志士たちは、国元へ送り返されたかにみえたが、長州とのリーダーシップ争いに腐心する薩摩藩としては、若者たちに苛酷な運命を刻印せざるをえなかった! 歴史の変動に挟みこまれた犠牲者のうめき、酷薄な人生を、鮮やかに浮き彫りにする表題作等4篇。
青い落日──沖田総司 遺恨の譜 古心寺の石 酔小楠
人間の顔って不思議なものです。同じ人間だからといって、いつも同じ顔とはかぎりません。そのときそのときで、いい顔になったり、みじめったらしい顔になったり、ずいぶんと違うものです。それも、うれしかったり、悲しかったり、いらいらしていたり、うきうきしていたり、心のありよう、気持の持ちように左右されることももちろんですが、それとはかかわりなく、同じ顔を、右から見るか左から見るか、そんなことでもおどろくほど違います。 どんなにいい男だからって、どこから見ても、寸分のすきもないいい男なんて、まずありっこないでしょう。業平(なりひら)みたいな男でも、どこか見ばえのしない、いびつな面を持っていたはずです。同じ人間でも、右から見る顔と左から見る顔では、びっくりするほど違う場合のあることは、だれだって覚えがあるでしょう。こういうあたしにしても、 「右から見たら、おせいさんの鼻、とてもいい形だけど、左から見たら、なんだか高慢ちきにつんとしてるのね」 なんてよくいわれたものでした。横顔だとほれぼれするけど、まともから見ればそれほどでもないとか、その逆とか、そうです、あの人の場合もちょうどそんなでした。 日野宿の名主、佐藤彦五郎さまが、いつだったか、 「あいつの顔はひらめに似ていたよ」 と、あの人のことをおっしゃったそうですが、ずっと後になって、そのことをだれかに聞かされたとき、あたしは、 「あ……」 と、思わず声に出したものでした。ええ、その顔です。その顔を、たった一度だけ、あたしも見たことがありました。といっても、そのとき、ひらめに似ていると思ったわけではありません。佐藤さまのお話を、人から聞かされたあとで、なるほどそういえば、あの顔はひらめだったと、何年も前に見たあの人の、ある一瞬の顔を思い出したとでもいったがいいでしょう。
【ドットブック形式】
※注意 同一の書籍でもファイル形式が異なるものは別商品として取り扱っております。
デジタル初版:2005年5月12日
ジャンル:和書>小説・ノンフィクション>歴史・時代小説>一覧 著: 滝口康彦 発行: 講談社
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