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ノモフォビア ─携帯依存嬢─

ノモフォビア ─携帯依存嬢─


発行: キリック
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆5
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著者プロフィール

 一田 和樹(いちだ かずき)
 島田荘司選「第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞。サイバーセキュリティミステリを中心に執筆、その他、ファンタジーやマンガ原作などもこなす。著作に『キリストゲーム CIT内閣官房サイバーインテリジェンスチーム』(講談社刊)、『サイバークライム 悪意のファネル』『檻の中の少女 (a rose city fukuyama) 』(ともに原書房刊)など。

解説

 無料でチャットや通話が楽しめる最近話題のスマホアプリ。登録すると自身のアドレス帳をサーバにアップし、自動的に知り合いを探してきてくれる。吉原櫂希《よしわらかいき》が友人の勧めで始めてみると、友達リストに半年前別れた元カノ・保奈美の名前が。話しかけようか迷っていたところ、向こうからチャットで語りかけてきた。思い出話に花を咲かせたのち、まだ未練のあった櫂希は、元カノに会うことにしたのだが……待ち合わせで現れたのは、彼女とは似ても似つかぬ肉感的な美女だった。あくまでも自分は「honami」だと主張する女。その口から語られる正確無比な交際の記憶。そして、彼女はもう一度やり直したいのだという。元カノを騙る女の可愛さに一瞬、戸惑いをみせた櫂希だったが、その執着ぶりは常軌を逸しており、やがてマンションにまでやってきて、そして……突如、現れた怪女の目的とは一体!?

 スマホとSNSを通して忍び寄る現代の恐怖! 「最凶怪女」誕生の秘密とは……サイバーミステリ作家として活躍する一田和樹が放つ、限界サイコホラー!!

目次

 第一話 吉原櫂希と、元カノ擬態女
 第二話 桐野保奈美と、複製女友達
 第三話 篠崎望と、過去を偽る彼女
 第四話 横山諒と、破滅を招く玩具
 第五話 倉橋紗季と、嗜虐の王子様

抄録

 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。ゲーム機の表示を見ると夜の十時を過ぎている。こんな時間に誰だろう? いやな予感がした。ゲーム機を置いて、携帯を手にとってCONEをチェックする。びっしりとhonamiからのメッセージが届いていた。
 『櫂希、あたしさっきの喫茶店にいるから戻ってきて。ずっと待ってる』から始まって、「どうしたの? なんで来てくれないの?』と続き、『櫂希のこと好きだから、絶対あきらめたくない』となっている。百以上のメッセージが来ていた。いくらスクロールしても最後までいかない。終わりのない悪夢のようだ。
 再びチャイムが鳴った。おそるおそる玄関に近づくと、トイレの芳香剤を思わせる花の香りがした。どきりとした。
 ── まさか……あいつなのか? なんでオレの家がわかったんだ?
 のぞき穴からこっそりと外の様子をうかがう。
「あたしです」
 櫂希が来たのをわかっているかのように穂波がのぞき穴をにらんでいた。
「謝りたいんです。開けてください」
 と言ってドアを叩き始めた。チャイムと違ってドアを叩かれると近所に聞こえる。だが、ドアを開けるわけにはいかない。家に入れたら二度と追い返せないような気がする。とにかく居留守を決め込むしかない。櫂希は、再び足音を忍ばせてベッドに戻ろうとしたが、外で穂波が騒ぎだした。
「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。あたし、謝るから許してください」
 泣きながらドアを叩いている。
「お願いだから会ってください」
 近所の住人にも、この騒ぎは聞こえているだろう。困ったことになった。マンションの他の住人に、痴話喧嘩で女を泣かしてるいやなヤツ、と思われかねない。しかも深夜。近所迷惑もはなはだしい。
 櫂希は玄関に立ったまま、しばし考えをめぐらせ、警察を呼ぶという手を思いついた。これはすでに立派な通報レベルじゃないか? 勝手に他人のマンションに入り込んで、深夜に騒音を立てている。警察を呼ばれてもおかしくない。ポケットから携帯を取り出して片手に持つと、意を決してドアを開けた。
 突然開いたドアに穂波は驚いたようだった。櫂希の意図も知らず、ありがとうとでも言いたげだ。しかし、櫂希の険しい表情を見て言葉が止まった。
「これ以上うるさくするなら、警察呼ぶからな。わかってんのか? 夜に近所迷惑だろ」
 櫂希はそれだけ言うと、携帯のコールボタンを押すそぶりを見せた。これで穂波が帰ってくれれば、警察を呼ぶまでもない。
「なに言ってるの? 警察ってなんのこと? あたし、謝ってるじゃない。ほんとに仲直りしたいって思ってるんだよ。なんでそんなひどいこと言うの?」
 穂波は悲しそうな口調でそう言うと、櫂希の腕にすがりついてきた。あわてて櫂希は押し返す。そのとき、手の甲に柔らかいものが触れた。はっとして、目をやると穂波の胸の谷間が見えた。どきりとする。
「……胸さわった」
 穂波は櫂希の手の甲が触れた左の乳房を両手で押さえ、妙になまめかしい視線を向けた。
「うるさい。そっちがオレの腕をつかむからだろ」
 櫂希は頬が熱くなるのを感じた。穂波は無言で、責めるような、それでいて誘うような視線を向けたままだ。櫂希は、妙な状況にどきどきしてきた。
「オレたちは今日会ったばかりだろ。だいたい、なんでオレの家知ってるんだ?」
「つきあってたから……何度もここに来たじゃない。どうして忘れてるの?」
 穂波はじっと櫂希の目をのぞき込んだ。一点の曇りもない。自分が櫂希の恋人だったことに疑いを持っていない目だ。櫂希は狂気を感じて寒気を覚えた。
「とにかく! 帰らないなら警察を呼ぶ」
「ひどいよ。あたしたち、もうおしまいなの? そんなことないよね。ウソだって言って」
「もういい。オレ、電話する」
 警察に電話するのは生まれて初めてだ。まさか、こんなばかげたことで電話するなんて考えたこともなかった。コールボタンを押すと、すぐに誰かが出た。
 穂波はその場にうずくまってしくしく泣き出した。
 ── オレが悪いことをしてるみたいじゃないか……
 櫂希は戸惑いながらも電話口に出た警察の人間に事情を説明した。その間にマンションの並びの部屋のいくつかのドアが開いて、好奇心をあらわにした視線が穂波と櫂希に注がれる。
「なにあれ? ひどくない? こんな時間に女の子を追い出そうとしてるの?」
「虐待じゃねえの?」
 かすかにもれ聞こえる声は、櫂希に好意的とはいえない。深夜に可愛い女の子が男の部屋の前で泣いていたら、誰だってまず男が悪いと思う。その上、穂波はかなり可愛いうえに、電波なことを言うようには見えない。
 ── みんな、誤解してる。こいつが悪いんだ。そもそもつきあってないし、知り合いでもないんだ。
 櫂希は、警察との電話を早く終わらせて、近所の人間にそう叫びたかった。だが、櫂希の電話が終わると、いっせいに近所のドアは閉まった。櫂希は無性に腹が立ったが、怒鳴るわけにもいかない。そんなことをしたら、完全にキレやすいDV野郎だ。
「あのな。今、警察の人が来るから、そこで待ってろよ」
 櫂希がそう言っても、穂波は聞こえていないように泣き続ける。
「泣きたいのは、こっちだよ。知り合いでもないのに、なんで家にまで来るんだよ」
 櫂希がそう言うと、穂波はぴたりと泣くのをやめ、しゃがんだまま顔を上げた。
「あたしたちつきあってたじゃない。なんで、そんなウソを言うの?」
「つきあってない。会ったのだって今日が初めてだ。何度も言ってるだろ」
「チャットで昔のこと話したじゃない。あれはウソだったの?」
「ウソじゃない。人違いだ」
「誰と間違えたっていうの?」
「昔つきあってた保奈美だよ」
「それってあたしでしょ」
「漢字が違うだろ」
「記憶違いじゃないの?」
「バカなこと言うな。それだけじゃない。顔だって性格だってぜんぜん違う」
 櫂希が、そう言うと穂波はむくれた顔をした。
「……あたしが太ったから、そんな意地悪言ってるのね」
「ぜんぜん違う!」
 櫂希は、だんだん気味が悪くなってきた。なんでこの女はこんなにしつこいんだろう? もしかして間違っているのはオレの方なのか? オレがつきあったのは、この女なのか?
 櫂希は穂波の顔をまじまじと見た。穂波は、不思議そうに櫂希の視線を受け止める。やっぱり違う。絶対そんなことはない。
 そのとき、マンションの入り口の方からなにか音が聞こえた。目をやると、若い警察官らしき人間が自転車を止めていた。正直がっかりした。ひとりで自転車でやってくるというのが、あまりにも緊張感がないように思えたのだ。やがて警察官はマンションに入り、ややあって櫂希と穂波の前に姿を現した。
 穂波も少しは緊張した様子で立ち上がって、涙をぬぐった。
「通報を受けて来ました。本条署のものです。電話くれたのはあなた? 吉原櫂希さん?」
 やってきた警官は、ふたりの顔を見比べ、まず櫂希に声をかけた。間近で見るとさらに若い。自分と同じ歳くらいじゃないか。
「僕です」
 櫂希は片手を挙げて答えた。
「で、どうしました?」
 警官は、櫂希の方を向くと事務的な口調で訊《たず》ねる。
「この人が、帰らないんで、騒ぐんです。近所迷惑で、困ってるんです」
 櫂希は、そう言うと横にいる穂波を指さした。穂波は、ばつが悪そうにうつむく。
「ええと、お知り合いの方?」
「いえ、今日初めて会いました」
「会って家に連れてきたら帰らないと言い出した?」
 警官の言葉に、櫂希はむっとした。その言い方だと、家に連れ込んですることだけして追い出そうとしているように聞こえる。この警官は可愛い穂波に同情しているのだと、櫂希は思った。

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