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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・クラシックス

愛しくて憎い人

愛しくて憎い人


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ルーシー・ゴードン(Lucy Gordon)
 雑誌記者として書くことを学び、ウォーレン・ベイティやリチャード・チェンバレン、ロジャー・ムーア、アレック・ギネス、ジョン・ギールグッドなど、世界の著名な男性たちにインタビューした経験を持つ。また、アフリカで野生のライオンがいるそばでキャンプをするなど、多くの貴重な体験をし、作品にもその体験が生かされている。ヴェネチアでの休暇中、街で出会った地元の男性と結婚。会って二日で婚約し、結婚して二十五年になる。二人は三匹の犬とともにイングランド中部に暮らしている。

解説

 看護師のエリノアは、偶然テンビー家に派遣されてきた。火事で重傷を負った当主ジェイソンの看護をするためだ。彼は、エリノアにとって憎んでも憎みきれない敵だった。六年前、恋人だったジェイソンの弟に連れられてきたとき、「君は弟にはふさわしくない」と、無理やり別れさせられたのだ。私の育ちが貧しいから、名門一家にはふさわしくないというのね。でも、必ずもう一度ここに戻ってくるわ――駅を離れる列車の中で、エリノアは涙にくれながら、かたく心に誓ったのだ。彼女はそのテンビー家に再び戻ってきた。しかもジェイソンは、ひどい怪我で歩けず、目も見えなくなっていた。エリノアは復讐の機会をうかがったが……。

抄録

「おやすみ」ジェイソンはぶっきらぼうに言った。「おやすみなさい、ミスター・テンビー」
 エリノアはキッチンへ行き、お茶を飲みながら、一時間ほどヒルダとおしゃべりした。その後、二階に上がったエリノアはジェイソンのドアの前で足を止め、耳をすませた。うめくような声が聞こえる。しばらく立ったままでいたが、やっと決心して静かにドアを開けた。
 カーテンは開けたままにしておくようにジェイソンに言われていたので、窓からさし込む月明かりがベッドの上で寝返りをうつ彼を照らし出している。
 エリノアはベッドに近づいた。悪夢に悩まされているようだ。起こしたほうがいいだろうか?
 向かいの部屋にエリノアが移るのを彼が嫌がったのは、このせいだった。夢にうなされる声を聞かれたくなかったのだ。エリノアがここにいたことがわかると、彼のプライドが傷つくかもしれない。
「どうして……どうしてなんだ?」しわがれた声がジェイソンの口から漏れた。
「ミスター・テンビー……」
 ふいにジェイソンが大きく寝返りをうち、上げた腕がエリノアの側頭部に当たった。けれども彼女がいることに気づかず、また寝返りをうった。
 エリノアは彼の腕を優しく握った。「大丈夫です。私はここにいます」
「どこに?」苦しげな声が尋ねる。
「あなたのそばにいます。ほら」エリノアは彼のもう一方の手を握り、自分の腕に触れさせた。
「これは現実じゃない」ジェイソンがうめく。
「現実ですよ。あなたを助けるために来たんです」
「最後はいつも夢に消えてしまう」
「今度は大丈夫」ジェイソンは誰のことを話しているのだろう?
「過ちを正そうとした……だが、君は見つからなかった……」
「過ちを正す時間はたくさんあります」
「手遅れだ……君は消えてしまった……」
 ジェイソンは動かなくなったが、まだ息遣いが荒く、額が汗ばんでいる。エリノアはベッドの横に置いてあったハンカチで汗をふき取った。ジェイソンは少し落ち着いたようだが、まるで命綱ででもあるかのように、エリノアの腕を握って離さない。
「行かないでくれ」ジェイソンはつぶやいた。
「私が必要なら、ずっとここにいます」
 ジェイソンは手を伸ばしてエリノアの首や顔に触れ、髪を撫でた。一瞬、手を止めると、眉を寄せて髪を手に絡ませた。
 エリノアははっとして身を引いた。髪を離させようと、そっとジェイソンの手を取った。だが、その手があまりにも痩せて弱々しいので、身動きができなくなってしまった。
 ジェイソンは髪を離したが、手はまだ彼女の顔の上をさまよっている。エリノアは身を固くした。彼の手が唇に触れた。魔法にでもかけられたように、その手は唇から動こうとしない。エリノアは体を貫く不思議な感覚に驚き、身動きできなくなった。
 温かく甘美な感覚だった。心臓がどきどきして、呼吸をすることができない。
 突然、エリノアは大きな恐怖に襲われた。無力なはずのジェイソンが、なぜ怖いのかわからないけれど、思い出すことのできない何かと――思い出したくない何かと――結びついている。今すぐこの部屋を出なくては。けれども苦痛にゆがむジェイソンの顔を見ていると、足が動かない。
「どうして行ってしまったんだ?」
 どう答えていいかわからない。「行かなくてはならなかったからよ。理由はわかるでしょう」
 言葉が自然に出てきたが、それでいいのだとエリノアは思った。
 ジェイソンはため息をついた。「わかってるよ。ただ僕は何とかしようと……でも、手遅れだった」
 彼の手に力がこもり、エリノアを引き寄せた。彼女があらがう間もなく、ジェイソンは彼女を抱き寄せてキスした。恐怖のあまり胸が激しく波打っているのに、体は凍りついたように動かない。
 怒りも感じた。重傷を負い、眠っていてさえ、ジェイソン・テンビーは自分の欲しいものは奪ってしまう。
「離してください」エリノアは体を離そうとした。
「だめだ」ジェイソンは唇に触れたままささやいた。「もう行ってはいけない。君が暗闇に消えてしまうなんて耐えられない。僕と一緒にいるんだ……僕を責めないでくれ」
 ジェイソンの言葉は支離滅裂だが、なぜかエリノアの心に響くものがあった。ジェイソンは命令ではなく、懇願している。苦しげに懇願されて、エリノアの怒りは薄れていった。
 ジェイソンは再びキスしたが、エリノアはもう逆らう力がなかった。理性も感情も混乱していた。こんなことをしてはいけない……とても看護婦とはいえない……彼が目を覚ましたら……部屋を出なくては……でも、彼の唇は何て柔らかく……誘いかけるように動くのだろう。突然こみ上げるこの感情はなんて甘美で……みだらで、恐ろしいのだろう。
 やがてそれが終わると、ジェイソンは全身の力が抜けてしまったかのように、腕がベッドに落ち、エリノアは自由の身になった。
 彼を起こさないよう静かに立ち上がり、エリノアはベッドから離れた。ジェイソンは気を失ったように横たわっている。呼吸が安定しているのは、やっと正常な眠りについた証拠だ。
 自分の部屋に入ったエリノアは、暗闇の中で立ちつくしていた。今起こったことが恐ろしくて体が震えている。いいえ、何も起こってはいない。患者の苦しみを和らげていただけ。そう思うしかなかった。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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