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遠い記憶

遠い記憶


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆3
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

 18歳からロンドンの学校で演技を学んできたクレアは、9年の歳月を経て、ようやく女優としての才能を開花させた。とはいえ、類まれな美貌を持ちあわせながらも、クレアは男性をいっさい寄せつけず、心を開こうとしない。唯一の例外は兄のような存在の、人気脚本家マーシー。いつもそばにいてくれる彼とのプラトニックな関係に満足し、クレアは穏やかな日々を過ごしていた。だがいま、ある影がクレアの背後に忍び寄ろうとしていた――彼女が男性を避けるきっかけとなった、9年前の悪夢が。

抄録

 かすかに残っている自尊心を奮い起こし、頭を働かせる。ルーク・マリーは、わたしに危害を加えるつもりかしら? みんなに言いふらしてまわるかも……。ヴィクトリア時代じゃあるまいし、だれもそんなことを気にしないでしょうけど、好奇の目で見られるのはいやだわ。でも、なによりも、マーシーに知られるのが一番困る。すぐに男の誘いに乗ってついていく尻軽女だと思われるのは耐えられないほどつらい。
「話してごらん」マーシーが、また催促する。
「あなたに隠してることなんか何もないわ」わざと明るく答えた。
「そうかな? ぼくは自分の直感を信じるね。あいつが部屋に入ってきたとき、なにかある、とぴんと来たんだ」
「しつこいわよ、マーシー」
 マーシーは眉根を寄せて肩をすくめた。「話したくないんなら、話さなくてもいいさ。だけど、だれか親しい人に聞いてもらいたくなったら、ぼくのことを思いだしてくれよ」
 マーシーにも、まだ確信はないのだろう。彼の脚本は、感情面では、真実を衝いているけれど、あれほどいまわしいできごとだったとは、想像していないようだ。たとえ、だれかに相談したくなっても、マーシーにだけはできない。彼が今までわたしに対して抱いていたイメージを、こわしたくないもの。
 顔を上げると、空にはバターを塗った銀盤のような月が、ぼんやりと霞におおわれて浮かび、入り組んだ海岸線を照らしていた。神秘的な感じのしゅろの枝が、海からの風を受けて揺れている。どこからともなく犬の遠ぼえが聞こえてくる。民家や別荘の明かりは、しだいに消えていくが、海岸通りのホテルは、上から下まで煌々と輝いていた。
「ロウィーナも、なんとか乗り気になってくれたよ」マーシーが無表情な声で言った。「フィルに電話をして、スターが二人決まった、と報告できそうだ」
「ひとり、でしょう?」クレアが訂正する。
「えっ?」じろりとクレアの顔を見た。「きみが辞退するわけじゃないだろ?」
「しないわ。ただ、ロウィーナといっしょに並べられたら、わたしなんかスターでもなんでもないもの」
 マーシーの表情が和らいだ。「よかった。きみが心変わりして、やる気がなくなったのかと思ったよ」
「どうして、わたしが心変わりなんかするの?」
 マーシーは、鋭いまなざしでクレアを見つめた。「さあ、知らないね。ぼくのほうが理由を知りたいよ」
 まもなく車は別荘に着き、マーシーがガレージに車を入れているあいだに、クレアは急いで中に入り、まっすぐ寝室へ向かった。マーシーの最後のひとことが、クレアの頭の中を、ぐるぐると駆けめぐる。マーシーは、どういうつもりで言ったのだろう。クレアはドレスを脱ぎ、シャワーを浴びて、ベッドに入った。目を閉じて考えてみようとするが、疲れていたので頭を働かせることはできなかった。
 やがて、クレアは眠りについた。けれども夢を見て、目を開けたときには、汗をびっしょりかき、声をあげていた。月明かりのさしこんでいる部屋の中に、黒い影がこちらに近づいてくる。クレアは体を起こした。
 悲鳴をあげたとき、影がベッドのそばに浮かびあがった。ぼんやりと薄明かりに照らされて、眉をひそめたマーシーの顔が、目に入った。
「クレア、いったいどうしたんだい? 大声をあげたりして」
 クレアは小刻みに震えながら、冷たい頬を彼の肩にもたせかけた。マーシーは、パジャマの上着を着ていないが、体は温かい。
「ごめんなさい、起こしちゃって」
 マーシーは、優しくクレアの髪をなで、体をしっかりと抱きしめた。「クレア、話してごらん」静かにたのむような口調で、耳もとにささやいた。
 クレアも、言葉が喉まで出かかったが、あわてて首を振った。「きっと、食べすぎだと思うの。さもなければ、今夜のお食事に出た貝のカクテルが、いたんでいたのかもしれないわ」
 マーシーは、クレアの顔に手をかけ、ぐっと上を向かせてのぞきこみ、「きみがそう言うんなら」とぶっきらぼうに言った。
 クレアは彼と視線を合わせることができなかった。
「起こしてしまって、ごめんなさい。殺されるみたいな大声を出したから、びっくりしたでしょう?」
「眠ってはいなかったよ」クレアには、彼の顔は見えなかった。月の光で髪は銀色に染まっているが、顔は陰になっていて、表情はわからない。
「まあ……」二人とも半分裸で、マーシーの手が背中を上下にさすってくれているのに気づき、クレアは体をこわばらせた。「もう、よく眠れると思うわ」彼の手から身を離すには、どうしたらよいかわからなくて、震えぎみの声で言った。
 マーシーの荒い息づかいが聞こえてくる。「クレア」しゃがれた声でつぶやいた。マーシーは、クレアを引きよせ、顔を近づけてきた。今までに何度もキスされたことはある。軽く、優しいキスだったので、彼と唇を合わせることに、なんの抵抗も感じていなかった。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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