マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションミステリ小説日本ミステリ小説

三角館の恐怖

三角館の恐怖

著: 江戸川乱歩
発行: 東京創元社
価格:315円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


著者プロフィール

 江戸川 乱歩(えどがわ らんぽ)
 本名:平井太郎。明治27年10月21日、三重県名張市に生まれる。大正5年、早稲田大学経済学科を卒業。職を転々としながら11年に「二銭銅貨」を執筆。以降、「パノラマ島奇談」「孤島の鬼」など数々の傑作を発表。昭和40年7月28日没。

解説

 先代の遺言は不条理なものだった。双生児の兄弟のうち生き存えた側に全財産を与える。如何ともしがたい、四十年前に決まったことだ。かくて兄の余命幾許もない今、弟の勝ちは目前。よかろう、それも運命。肯じえない定めには人為的な死を。濡れぬ先こそ露をも厭え、ひとたび踏み惑うた人の道、悪行を重ねることに躊躇いなどない……。癒されぬ渇きゆえに屈折した、哀しい愛の物語。

目次

 異様な建物
 鏡中影
 奇人の遺志
 二老人
 消える焔
 守銭奴の倫理
 幽 霊
 君が犯人?
 名探偵
 片輪者
 足跡の謎
 深夜の散歩者
 紙幣の秘密
 幽霊再現
 いまわしき前兆
 意中の人
 猿類の歌
 怪人現わる
 幕間の挨拶
 唯一の目撃者
 惨劇の前夜
 名探偵の焦慮
 エレベーター
 不可能事
 柄のない短剣
 エレベーターの抜け穴
 フラスコ手鞠
 幽霊犯人
 再び手提金庫
 四重唱
 ▼読者諸君へ挑戦!
 罠
 告 白
 脅迫状
 禅問答
 猿田犯人説
 戦闘準備
 深夜の冒険
 怪人出現
 格 闘
 異様な動機
 ▼犯人当て当選者発表


 自註自解

抄録

 彼は何かつまずくものでもありはしないかと、念入りに足元を見ながら、ゆっくりとはいってきた。トボトボと弱々しく、兄老人よりも老けて見えるが、その実は案外健康らしい。動作がのろいのは、なみなみならぬ用心深さのためであろう。彼は注意深い眼で、どんな小さなものでも見のがすまいとするように、ジロジロと部屋の中を見廻している。
 森川弁護士との初対面の挨拶がすむと、弟老人はソファの一つに腰をおろす。兄老人もそれを待ちかねていたように、元の椅子に倒れこんだが、その時思わず、ハッと大きな溜め息をもらしたのを、相手の老人はわざと気づかぬふりで、
「健作、お前加減が悪いそうだが……」とゆっくり言う。
「なあに、ちょっと風を引いたばかりさ。大したことはないよ」
「お前はどうも用心が足らん。見るがいい。すっかり弱りこんでいるじゃないか」
「まあ、そんなことはどうでもいい。きょう森川さんにきてもらったのは、実はわれわれの問題を、この際はっきり取りきめておきたいのでね」
「え、われわれの問題というと?」
 弟老人はとぼけてみせる。
「わかっているじゃないか。お前にとっても、わしにとっても、これほど大きな問題はない。あれがわれわれの生活を支配するようになってから、四十年もたった。わしはこのごろ、つくづくその重大な意味がわかってきた。あの問題があるために、お互にどんなに苦労をしているか。また気まずい思いをしているか。もうこれ以上、わしには堪えられんのだ」
「それはなんの事だ。わしにはとんとわからんが」
「お前。わからんというのかっ」
 健作老人は危うくかんしゃくを破裂させるところであった。額の静脈が恐ろしいほどふくれあがった。だが、やっとの思いで怒りを噛み殺して、
「もちろん、例の遺産相続の問題だよ」
「おお、あのことか」康造老人は落ちつきはらって、
「あれにはお前、死んだおやじと兄貴の二重の意志がこもっている。法律から言っても非のうちどころはない。今さらわしたちにはどうにもできんことじゃないか」
「いや、お前さえ承知すれば、ふたりの合意でなんとでもできる。おやじや兄貴だって、まさかこんなことになるとは、知らなかったに違いない。おやじも兄貴も、わしたちふたりを同じように可愛がっていたのだからね。どちらかひとりが悲惨な目にあうなんて、決して本意じゃないだろう」
「だが、四十年もたって、今さらそういうことを言いだすのは、どんなものかな。そんなことははじめからわかっていたのだからね。異議があれば、兄貴が遺言状を見せてくれたときに、言うべきではなかったかな……じゃが、それにしても、お前が突然こんなことを言いだしたのは、何かさしせまったわけでもあるのかね」
 弟老人はそう言って、意地わるく相手の顔を見つめた。
「これ、康造、子供のころを思い出してくれ。わしたちはあんなに仲よしだったじゃないか。同じ着物を着せられて、同じおもちゃをあてがわれて、顔までソックリ同じ顔で、いつも一緒に遊んだじゃないか。それが、お前にしても、わしにしても、どちらか先に死んだ方の子供たちが、乞食になってしまうなんて、こんな残酷なことがあるだろうか」
「おい、健作、お前そう昂奮してはいかんよ。病気には昂奮が一ばん毒じゃ。この次にしよう。ね、この話は、お前がもっと元気になってからにしよう。きょう話さなくても、まだいくらも機会がある」

「いや、わしはなんともない。病気ではない。せっかく森川さんにきてもらったのだから、今話をきめておきたいのだ。わしたちは久しく仲たがいをしているが、どうか水に流してくれ。子供の時を思いだしてくれ。なあ康造、お前はわしよりも長生きをする気でいるから、そんな無慈悲なことをいうが、どんな事で、お前が先に死なないものでもない。そうすればお前の可愛がっている子供たちが路頭に迷うのだ。ここをよく考えてくれ。なあ康造」
 弟老人はだまって考えていた。心の中でこまかく計算をして利害得失を割り出しているらしい。一分ほどもそうしていたあとで、やっと用心深く口をひらいた。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアはここから無料でダウンロードできます。
詳しくはブンコビューアダウンロード初めての方へをご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。