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著者プロフィール
菊地 秀行(きくち ひでゆき)
1949〜
千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。1982年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。1985年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
1949〜
千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。1982年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。1985年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
解説
おれの名は八頭大。高校生だが、幼い頃から鍛え上げた最高級の腕を持つトレジャー・ハンターだ。だから、授業中におれを訪ねて来た爺さん・太宰先蔵が、二次元の水晶片とこの世の生物ではない触手をおれに託して息絶えた時、すぐさまおれは巨大な宝の匂いを嗅ぎ取った。爺さんの孫娘ゆきと一緒に、おれは宝探しに乗り出したのだが――痛快無比のSFアクション・第1弾!
目次
1 奇怪な遺品
2 マンションは宝物博物館
3 八頭式ハンティング
4 地下室の狂獣
5 住宅街の怪夫婦
6 天人(エイリアン)》の子孫がのこしたもの
7 妖獣戦線
8 呪われた手記
9 大狂乱
あとがき
2 マンションは宝物博物館
3 八頭式ハンティング
4 地下室の狂獣
5 住宅街の怪夫婦
6 天人(エイリアン)》の子孫がのこしたもの
7 妖獣戦線
8 呪われた手記
9 大狂乱
あとがき
抄録
――あと五分の辛抱で、明日は日曜日だ。
おれを含めたクラス全員が、多分そう考えたとき、教室の前のドアが力なく横に滑った。
爺さんが入ってきた。古めかしい型のオーバーを着て、よろよろと数歩進み、どたりと床に倒れた。
クラス中がおれの方をふり返った。八頭大(やがしらだい)という名前のおかげで、窓ぎわ最後尾の席をあてられているから、四十六名の視線はもれなく集中する。
「八頭くん――」
と、教壇から吉岡教師が声をかけた。右手に、連立方程式を書きかけの白チョークを握っている。
「お知り合いですか?」
「見た顔ですがね」
おれは愛用のショルダー・バッグをつかんで立ちあがった。老人のかたわらへ到着するまで、記憶を総動員してみたが該当する顔はない。すると、生まれたてに出くわした相手か。
おれは、うつ伏せに倒れた老人を抱き起こした。年齢は七十を超えているだろう。銀髪の下の顔は、髑髏に皮をはりつけたみたいだが、骨格はかなり太く、重い。やせ方も病的ではなく、精神的ショックに原因がありそうだった。
何かが、生きる意欲を奪ってしまったのだ。呼吸もしてるかしてないのかわからない。気の毒だが、あと三分ともたないだろう。おれは溜め息をついた。
「あーら、このお爺ちゃん、コートの下、パジャマよ」
クラス一物見高い鞍馬善子が、机から身を乗り出して叫んだ。アンパン・フェースの真ん中に分厚い眼鏡が光り、ついでに眼の玉も邪悪な好奇心にギラついている。
「精神病院から脱け出してきたのね、きっと」
「おめえと一緒にするな」
おれが低い声でののしると、それが聞こえたのか、爺さんは眼を開けた。
「八頭大って……子がいるかね……」
「おれだよ」
爺さんは笑いかけようとしたが、その表情はもう、就寝まぎわのそれに近かった。ただし、この眠りはさめることがない。
「……ポケットに……」
それだけ言って、爺さんの身体は不意に重くなった。蘇生術を施そうかと思ったがやめにした。こんな歳の爺さんを五分間生き返らせても、苦しませるだけ酷というものだ。
「死んじゃったのォ?」
善子が興味津々のダミ声できいた。
「望み通りにな。おめえの声が心臓に効いたらしい」
おれは爺さんの遺体をそっと床に横たえ、コートのポケットを探った。おかしな手触りが二回。ひっぱり出したのは、うすみどりの水晶みたいな破片と、長さ二十センチばかりの、明らかに生物のものと覚しい触手の先端だった。
どちらも、おれの記憶にある類似の品とは該当しない。殊に触手の方は、ひからびた灰色の吸盤が裏側にびっしりとくっついているものの、どうみても、太い蛸の手足とは思えなかった。早い話が、この世のものじゃあるまい。
――たったふた言と、こいつが遺品か。
おれは、むしろ安らかな老人の死に顔を見つめた。今までの状況と、そのやせこけてはいるが強靱な意志を示す顔の造作からして、爺さんの正体は察しがつく。
――黙っていれば、病院か家で安らかに死ねたものを、誰かに言い残さなきゃいられなかったのか。宝(トレジャー)探しハンターってのは因果な商売だな。
そう思ったとき、今日の授業終了を告げるベルが鳴った。
おれを含めたクラス全員が、多分そう考えたとき、教室の前のドアが力なく横に滑った。
爺さんが入ってきた。古めかしい型のオーバーを着て、よろよろと数歩進み、どたりと床に倒れた。
クラス中がおれの方をふり返った。八頭大(やがしらだい)という名前のおかげで、窓ぎわ最後尾の席をあてられているから、四十六名の視線はもれなく集中する。
「八頭くん――」
と、教壇から吉岡教師が声をかけた。右手に、連立方程式を書きかけの白チョークを握っている。
「お知り合いですか?」
「見た顔ですがね」
おれは愛用のショルダー・バッグをつかんで立ちあがった。老人のかたわらへ到着するまで、記憶を総動員してみたが該当する顔はない。すると、生まれたてに出くわした相手か。
おれは、うつ伏せに倒れた老人を抱き起こした。年齢は七十を超えているだろう。銀髪の下の顔は、髑髏に皮をはりつけたみたいだが、骨格はかなり太く、重い。やせ方も病的ではなく、精神的ショックに原因がありそうだった。
何かが、生きる意欲を奪ってしまったのだ。呼吸もしてるかしてないのかわからない。気の毒だが、あと三分ともたないだろう。おれは溜め息をついた。
「あーら、このお爺ちゃん、コートの下、パジャマよ」
クラス一物見高い鞍馬善子が、机から身を乗り出して叫んだ。アンパン・フェースの真ん中に分厚い眼鏡が光り、ついでに眼の玉も邪悪な好奇心にギラついている。
「精神病院から脱け出してきたのね、きっと」
「おめえと一緒にするな」
おれが低い声でののしると、それが聞こえたのか、爺さんは眼を開けた。
「八頭大って……子がいるかね……」
「おれだよ」
爺さんは笑いかけようとしたが、その表情はもう、就寝まぎわのそれに近かった。ただし、この眠りはさめることがない。
「……ポケットに……」
それだけ言って、爺さんの身体は不意に重くなった。蘇生術を施そうかと思ったがやめにした。こんな歳の爺さんを五分間生き返らせても、苦しませるだけ酷というものだ。
「死んじゃったのォ?」
善子が興味津々のダミ声できいた。
「望み通りにな。おめえの声が心臓に効いたらしい」
おれは爺さんの遺体をそっと床に横たえ、コートのポケットを探った。おかしな手触りが二回。ひっぱり出したのは、うすみどりの水晶みたいな破片と、長さ二十センチばかりの、明らかに生物のものと覚しい触手の先端だった。
どちらも、おれの記憶にある類似の品とは該当しない。殊に触手の方は、ひからびた灰色の吸盤が裏側にびっしりとくっついているものの、どうみても、太い蛸の手足とは思えなかった。早い話が、この世のものじゃあるまい。
――たったふた言と、こいつが遺品か。
おれは、むしろ安らかな老人の死に顔を見つめた。今までの状況と、そのやせこけてはいるが強靱な意志を示す顔の造作からして、爺さんの正体は察しがつく。
――黙っていれば、病院か家で安らかに死ねたものを、誰かに言い残さなきゃいられなかったのか。宝(トレジャー)探しハンターってのは因果な商売だな。
そう思ったとき、今日の授業終了を告げるベルが鳴った。
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