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エイリアン魔獣境 II

エイリアン魔獣境 II

著: 菊地秀行
発行: 朝日新聞社
シリーズ: トレジャーハンター(エイリアン)
価格:525円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 菊地 秀行(きくち ひでゆき)
 1949〜
 昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。

解説

 サイラスの手首を盗み出した三人のインディオを追って、おれたちは大アマゾンの河口、べレン港に来た。米軍機密部隊のベロニカやブラジル陸軍のシュミット、それにサイラスの秘書・名雲までまじえて、騙し騙されつ、敵味方入り乱れて奥地への進軍を続けた後、ついにおれとゆきは幻の王国に入った。だが、なんとそこは、中世代の恐竜がのし歩く、“ロスト・ワールド”だったのだ。

目次

第一章 大アマゾン遡行
第二章 ロケット・マン対武装ヘリ
第三章 魔境へ!
第四章 南米トワイライト・ゾーン
第五章 恐竜伝説
第六章 監視者
第七章 超能力者《エスパー》を撃て
あとがき

抄録

 ベレン港――グワジャラ湾は、これからアマゾン奥地へと向かう、おびただしい数と種類の船舶でごった返していた。
 観光客を満載した政府直営の観光船、開拓者やインディオ相手の行商らしい食料だの衣類だのが甲板からはみ出してる小型ボート、人々の単なる「足」の役目を果たす老朽化した貨物船。そのどれもが広い湾内にひしめき、ちょっと目には、これがひと昔まえの緑の大魔境――現在でいう地上最後の秘境アマゾンへの出発地点とは到底思えない賑いを見せている。
 魚と塩の匂いがこもる熱い空気の中を歩きながら、おれは再び訪れたアマゾンの息吹に胸が高鳴るのを感じた。
 大アマゾン。――正しくはアマゾン河とその流域に広がる一大密林地帯と呼ぶベきだろう。
 南米の西端ペルーのアンデス山中にその源を発するマラニョン河は、さらに南からの支流ウカヤリ河と合流し、南米大陸を横断しつつ大西洋へと注ぐ。この両河の合流点から下流が、俗に言うアマゾン河だ。
 全長約六〇〇〇キロ、おびただしい支流を含む水系は北はエクアドル、コロンビア、ギアナ等、南はペルー、ボリビアを含んで七〇〇万平方キロの流域面積を誇る。驚くなかれ、北米合衆国と同じ広さだ。大西洋へ注ぐ淡水量はヨーロッパの全河川を合わせたものよりも多く、地球上のすべての淡水の四分の一に相当する。
 河口の町といわれるここベレンですら、正確には河口から一四五キロメートルの上流に位置しているのであり、アメリカ軍基地があるマナウスは一四〇〇キロ上流、その遙か彼方、三五〇〇〇キロの最上流部にペルーの街イキトスが存する。おれたちの目標トロンペダス河は、ベレンとマナウスのほぼ中間にある街サンタレンのやや上流へ、北方のギアナ高地から流れ落ちている大支流のひとつだ。
 おれは頭上の蒼穹《あおぞら》を振り仰ぎ、沖合遙かにかすむマラジョ島から、縹渺と続く大河の彼方に目を移した。無論、泥色の水の連なり以外、何も見えはしない。この前来たときもそうだった。その前もその前も。そして、おれは緑の奥地に眠る厖大な秘宝に想いをはせ、血みどろ汗みどろになりながら、常に勝利してきたのだ。
 はっきり言って、ブラジル政府はもはやアマゾンを秘境とは見なしていない。俗にいうアマゾン河の総流域面積七〇〇万平方キロの遙か奥地まで、勇敢な開拓者が進出して麻《ジュート》や西洋こしょう《ピメンタ》の栽培を軌道に乗せているし、各州のマラリア絶滅センターは、「マラリアを根絶するためならどんな僻地へもDDTを撒きにいく」と広言してはばからない。
 いまでこそ奥地への主要交通機関は船に頼っているが、新しい運送手段「道路」も次々と密林の中に槌音をひびかせて建造中だ。ここベレンと首都ブラジリアを結ぶ二〇〇〇キロもの直線道路、ブラジル北東岸のレシフェあるいはジョアンペソアとペルー国境とを結び、結果的に大西洋から太平洋を一本につなぐ全長五五〇〇キロの「アマゾン大陸横断道路」。――そのすべてが、流域の産物たる金やダイヤモンド、マンガン、ボーキサイト等の鉱物資源を開発運搬するためにつくられたものとはいえ、この緑の大秘境を、人々がスポーツ・カーを駆って旅する時代をもたらすことは疑う余地がない。それはまさしく、アマゾンにとって「新しい時代」だ。
 だが一歩、自らの作り出した文明圏――大はマナウスのごとき人口百万を誇る都会から、小は一家族のみの開拓小屋まで――を離れるや、人々は自分たちを取り巻く大自然の魔気に触れて慄然とするだろう。
 人食い魚ピラニアの渦巻く川、ジャングルの樹上高く獲物を狙って移動する大蛇、闇に光る豹の瞳、二〇世紀の今なお、文明人を寄せつけず、無警告で攻撃を加える原始インディオたち、昼夜の別なく襲いかかる蚊やアブ。赤蟻の大群に埋め尽くされた地面には、人間の座る場所などほとんど見当たらない。運悪く、物資運搬船の到着間際に病人でもでようものなら、木の根草の根をかじって急場をしのぐしかない。人間ががむしゃらに前向きであればあるほど、大自然は死の御手をもってその蛮勇に報おうとするのだ。
 そんなただ中に、四万キロの高みから睥睨する電子の眼さえもあざむく夢幻の王国が存在することは、アマゾンがなお魔境たる現実の保証でなくてなんだろう。
「ちょっと、あの女どうする気よ?」
 低い怒声が拳にかわって腰のあたりをどついた。
「しょうがねえだろ。放っときゃ仲間に殺されちまうんだ。人助けと思って我慢しろよ、な」
 口をへの字に曲げているゆきに、おれは足を止め、振り返って言った。
 ベロニカについては、おれの首筋に埋まった発信器兼爆弾の一件を除き、すべて打ち明けてあった。無論、ゆきと名雲、およびベロニカ間の相互不信と疑心暗鬼を駆り立てるためだ。
 チームワーク第一の一般探検隊的常識からみれば、とんでもない暴挙だろうが、おれたちはちっとも一般的じゃない。世界的名声を得たインチキ・ピアニストのためならたとえ火の中水の中という感じのアナクロ秘書、暇さえあれば宝物をかっさらうことばかり考えている“自称”相棒、昨日まで平気な顔でおれの殺害を命じていたもと米軍機密部隊隊長――親の仇同士が同じ船に乗り合わせたようなものだ。いちいち何を企んでるのか考えてたら頭がおかしくなってしまう。互いに敵意をもたせ、牽制させといた方が得策なのである。


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