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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン文庫

潮騒

潮騒


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

 高名なピアニストだった祖父にピアノを教わりながら、マリナは海辺の山荘で、俗世間と隔たれた日々を送っている。ある日、祖父とひっそり暮らす山荘に、ギデオンと名乗るハンサムな旅行客が滞在することになった。初対面なのになぜか懐かしさを覚え、彼に惹かれるマリナだが、一方の祖父は冷淡な態度で、まるで彼を憎んでいるかのよう。いったいどうしてかしら……いぶかしむマリナは数日後、ふと美しいピアノの旋律を耳にする。弾いているのは……ギデオン? 次の瞬間マリナは思い出した――心に封印していた残酷な記憶を。

抄録

「もう七十を超えていらっしゃるんだ。生まれたての子羊のように跳ねまわろうといっても無理だろう」
「だって……」祖父が年老いたと認めるのはつらい。
「心配することもないんじゃないか。リューマチ以外はまだまだ健康だし。ただ、始終体の節々が痛むというのは疲れることなんだよ」
「ええ、わかっているわ。でも私には何もしてあげられないのよ」
「いや、ちゃんと役にたっているさ。つまり君が君であることが、グランディーには慰めなんだ。君の演奏を通して、おじいさんは彼の人生をもう一度生きているんだ」
 マリナにはわかっていた。だから恐れもしていたのだ。グランディーの期待は時に、彼女には背負い切れぬ重荷になっていた。達成できそうもない目標を設定されてそれを目指して日夜精進する。決して中途半端は許されないのだ。マリナには祖父を幻滅させたくないという思いが強迫観念になっていた。
 ギデオンが相変わらずマリナを見つめている。そのまなざしにマリナが自分の視線を絡ませた瞬間、ああこの人はすべてお見通しなのだという、安心感にも似た感動がマリナの脳裏をよぎった。前にもこんな思いを味わったことがある……ギデオンがそっとマリナの手に触った。
「グランディーは君が自慢なんだ。生きがいといってもいい」ギデオンの凜とした調子には説得力があった。祖父がどう思っているか、何もかも知りつくしているといった様子だ。だがギデオンは他人ではないか。マリナはちょっと鼻白んだ。
「ギデオン、本当のことを言ってほしいの。グランディーとあなたは以前から知り合いなんでしょう? 隠しても駄目。私にはわかるの。あなたが来てから妙なことばかりなんですもの」
 ギデオンはマリナの訴えに眉ひとつ動かさなかった。立ち上がると探るようにマリナを見つめた。「僕を信じるかい?」
 浅黒いギデオンの顔を見て、マリナは一瞬戸惑った。「……ええ」確かにこの男を信頼している。冷静で真剣なこの目を見れば、十分信用していい人間だということはわかる……マリナの内なる声がささやいた。
 ギデオンの笑った顔がなんともいえず優しい。「信じるんだ。君のこともグランディーのことも決して傷つけるようなことはしない。絶対に……。さあ、君を待ってたんで腹ぺこだ。何にしようか」
 しぼったオレンジジュースにいり卵が二人の朝食だった。ギデオンが卵を作る間にマリナがトーストを焼く。時折笑顔を交わしながら、いそいそと立ち働くのは楽しかった。以前にもこんなふうに、ギデオンの背の高い姿を身近に感じたことがあるような気がする……。
 食事が済むと家の掃除だ。ジーンズにTシャツという姿で、長い髪をリボンでまとめて仕事にかかったマリナの足元を、ラッフィーが駆けまわる。
「散歩に連れてゆけという催促みたいよ」
 ギデオンがリボンをといて、マリナの髪をすくうように肩に垂らした。「ご所望に応えるとするか」
 ラッフィーが崖下の道を目指して走って行く。しっぽを振ってほえたてる犬の頭上にかもめがゆるやかに飛びかい、朝の海は凪いで、光が水面に躍っていた。
 二人はスペイン岬まで足をのばした。雑木林を歩いていると‘しで’の喬木が大きな木に絡んでいた。
「昔は車大工が‘しで’を使ったものなんだ。今では使い途があるなんて、誰も考えもしないだろうね」
「かわいそうに」
「人間は誰かに必要とされなくては駄目だね」ギデオンがわずかに口をゆがめて笑いかけた。
 昨夜の夢の中で、くぐもった声でギデオンが「君がいるんだ」とささやいたのを思い出して、マリナは柄にもなく顔を赤らめた。伏し目がちにギデオンを見ると、マリナの反応をじっと見つめていた。何を考えているのか知られるはずもないのに、マリナは一層頬を紅潮させた。
 夢を払いのけようとでもするかのようにマリナは先に立って歩きだした。途端に長い髪が‘しで’に絡んだ。ねじ曲がった枝がグランディーの指のようで、マリナは思わず大声をあげた。
「じっとしていたまえ」マリナが動かないでいると、ギデオンがもつれた毛をといてくれた。それから優しく彼女の肩をつかんで向き直らせた。木の間から差し込む光がマリナの顔にゆらゆらと影を落としていた。
 ギデオンがキスしたらどうしよう。秘めた思いを悟られてしまう。だがその思いとはうらはらに、マリナの唇は期待でわなないている。夢の中のめくるめくような口づけが脳裏によみがえる。
 背を向けて走りだそうとする寸前にギデオンの手がマリナをつかんだ。心の隅まで見透かすギデオンのまなざし……頭がおりて来てマリナの唇に覆いかぶさる。両腕をまわしてしっかりマリナを抱き締めると、マリナの唇をむさぼり自分に応えさせようとする。
 体内の激しい欲望に突き動かされて、マリナは一心にキスを返した。ギデオンにはわかってしまったのだろう。顔を上げて勝ち誇ったようにマリナの表情を読んでいる……。くやしい……。
「僕に逆らわないで……楽にするんだ」ささやくギデオンの口元がほころんでいた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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