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著者プロフィール
菊地 秀行(きくち ひでゆき)
1949〜
昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
1949〜
昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
解説
バチカンの上層部しか知らない恐るべき書《ユダの黙示録》発見の報を受け、おれはニューヨークへ飛んだ。モサドの暗殺要員らの攻撃をかわし、一旦は手に入れたものの、おれは黒い魔術に翻弄され、何者かに物を奪われてしまった。その挙句、生命を吹き込まれたボール紙の女に“日本へ帰ってごらんなさい”と言われる始末だった。それは舞台が日本に移ったとの宣言だった。
目次
第一章 怪人対魔獣
第二章 裏切りのアポカリプス
第三章 ユダの謎
第四章 高輪の黒魔術
第五章 ハント・パブでの邂逅
第六章 空白の明日
第七章 御殿場ハルマゲドン
第八章 黙示の語るもの
あとがき
第二章 裏切りのアポカリプス
第三章 ユダの謎
第四章 高輪の黒魔術
第五章 ハント・パブでの邂逅
第六章 空白の明日
第七章 御殿場ハルマゲドン
第八章 黙示の語るもの
あとがき
抄録
分厚い木のドアを開けた途端、お呼びでないのがわかった。刺すような視線とお経みたいなBGMが迎えたのだ。
ざっと見渡したところ十坪ほどの店内もやけに薄暗く、空席のあいだにちらほらと禿頭や金髪が目立つ程度だ。よっぽど不幸の星の下に生まれた連中ばかりが一堂に会しているのだろう。暗い奥の方で「イエロー・モンキー」と誰かが吐き捨てた。
こいつぁ面白い。
おれは、ちっとも気にした風を見せず、ロックのリズムで君が代を口ずさみながら、カウンターの空き席についた。
左右と背後から浴びせられる敵意に満ちた視線に、身体中がぴりぴりする。ヨガを習ってるおかげで皮膚感覚が鋭敏になり、相手の「気」にまで反応するようになっちまった。カウンターの奥にかけられた大鏡を見ているうちにも、みるみる眼付きが悪くなる。男前がだいなしだ。
のそーとバーテンがやってきた。
「らっしゃい」
おれはストゥールから転げ落ちそうになった。商売柄か敵意こそ見せないものの、フランケンシュタインの怪物から、手術痕と首の電極を取り除いただけみたいな大男だ。
「何にします?」
声は墓地から出たてのゾンビーだった。
「シャンペンだ。いちばん高いやつ。――それからな」
「へい」
「今夜は葬式帰りの一家の貸し切りか?」
「いえ」生けるフランケンシュタインはぎりぎりと首を振った。「『日本企業の進出で馘首されたアメリカ市民の会』の貸し切りで」
「……」
おれは我ながら陰気にちがいないと思われる眼で、そっと左右の連中の様子を窺った。どっちも同じような眼つきでおれを眺めていた。こういうのを不幸な出会いという。おれは脱ぎかけたE手袋をはめなおし、咳払いをした。同時に左右でもごほんげほんと始めやがった。挑発してやがる。貸し切りなのに、おれを拒まなかったわけがやっとわかった。こりゃ反撃に出ないと面子が立たねえ。
ズシンズシンとぎごちない足取りでシャンペンの瓶とグラスを運んできたバーテンに、おれは紙幣を一枚握らせ、耳打ちした。
「へえい。おまかせ――」
バーテンが外へとびだしていくと、店内にはたちまち凄愴の気が満ちた。
鏡の奥――おれの背後で、髷を結ってない高見山みたいなおっさんが、サザエそっくりの拳骨に、スチール製のナックルをはめていた。その前の席の黒人は、小さな瓶から錠剤を取り出してボリボリやってる。景気つけの麻薬《ドラッグ》だ。どうやら、日本大企業のもたらした失業問題の責任を、おれが肩代わりする時が近づいているようだった。バーテンが戻ってくるまで、なんとか時間を稼がにゃあ。
おれは満面に笑みをたたえ「ええ、ミナサン」とふり向いた。笑い返す奴などいるわけがない。右手で「リメンバー・パールハーバー」と言うのがきこえた。
わざと下手な英語で「ボク、日本ノ高校生ネ。家トテモビンボー。苦学シテ、にゅうようくニ女買イ――ジャネエ、写真ノ勉強ニ来マシタ。父サン死ンダ、母サン心臓病、妹ハ‘ある中’」
最後のは悪質な冗談のつもりだったのだが、誰も反応を示さなかった。
アメリカ――特にここニューヨークじゃ、子供のアル中なんて当たり前なのだ。日本でも実例があったが、やはりアルコール中毒患者の母親から、血液中に過度のアルコールを含んだ生まれながらのアル中の赤ん坊が誕生する始末だ。加えて、このすさみ切った中年男ども。世の中、どんどん悪くなっていく。まるで、誰かに呪われてるみたいに。
「自己紹介シマス」とおれは、いかにも戦争を知らない子供ぶって愛想をふりまきながら言った。「ボク、八頭大《ダイ・ヤガシラ》。日本デイチバン出来ノ良イはんさむガソロテル灘はい・すくーるノ二年生」
*この続きは製品版でお楽しみください。
ざっと見渡したところ十坪ほどの店内もやけに薄暗く、空席のあいだにちらほらと禿頭や金髪が目立つ程度だ。よっぽど不幸の星の下に生まれた連中ばかりが一堂に会しているのだろう。暗い奥の方で「イエロー・モンキー」と誰かが吐き捨てた。
こいつぁ面白い。
おれは、ちっとも気にした風を見せず、ロックのリズムで君が代を口ずさみながら、カウンターの空き席についた。
左右と背後から浴びせられる敵意に満ちた視線に、身体中がぴりぴりする。ヨガを習ってるおかげで皮膚感覚が鋭敏になり、相手の「気」にまで反応するようになっちまった。カウンターの奥にかけられた大鏡を見ているうちにも、みるみる眼付きが悪くなる。男前がだいなしだ。
のそーとバーテンがやってきた。
「らっしゃい」
おれはストゥールから転げ落ちそうになった。商売柄か敵意こそ見せないものの、フランケンシュタインの怪物から、手術痕と首の電極を取り除いただけみたいな大男だ。
「何にします?」
声は墓地から出たてのゾンビーだった。
「シャンペンだ。いちばん高いやつ。――それからな」
「へい」
「今夜は葬式帰りの一家の貸し切りか?」
「いえ」生けるフランケンシュタインはぎりぎりと首を振った。「『日本企業の進出で馘首されたアメリカ市民の会』の貸し切りで」
「……」
おれは我ながら陰気にちがいないと思われる眼で、そっと左右の連中の様子を窺った。どっちも同じような眼つきでおれを眺めていた。こういうのを不幸な出会いという。おれは脱ぎかけたE手袋をはめなおし、咳払いをした。同時に左右でもごほんげほんと始めやがった。挑発してやがる。貸し切りなのに、おれを拒まなかったわけがやっとわかった。こりゃ反撃に出ないと面子が立たねえ。
ズシンズシンとぎごちない足取りでシャンペンの瓶とグラスを運んできたバーテンに、おれは紙幣を一枚握らせ、耳打ちした。
「へえい。おまかせ――」
バーテンが外へとびだしていくと、店内にはたちまち凄愴の気が満ちた。
鏡の奥――おれの背後で、髷を結ってない高見山みたいなおっさんが、サザエそっくりの拳骨に、スチール製のナックルをはめていた。その前の席の黒人は、小さな瓶から錠剤を取り出してボリボリやってる。景気つけの麻薬《ドラッグ》だ。どうやら、日本大企業のもたらした失業問題の責任を、おれが肩代わりする時が近づいているようだった。バーテンが戻ってくるまで、なんとか時間を稼がにゃあ。
おれは満面に笑みをたたえ「ええ、ミナサン」とふり向いた。笑い返す奴などいるわけがない。右手で「リメンバー・パールハーバー」と言うのがきこえた。
わざと下手な英語で「ボク、日本ノ高校生ネ。家トテモビンボー。苦学シテ、にゅうようくニ女買イ――ジャネエ、写真ノ勉強ニ来マシタ。父サン死ンダ、母サン心臓病、妹ハ‘ある中’」
最後のは悪質な冗談のつもりだったのだが、誰も反応を示さなかった。
アメリカ――特にここニューヨークじゃ、子供のアル中なんて当たり前なのだ。日本でも実例があったが、やはりアルコール中毒患者の母親から、血液中に過度のアルコールを含んだ生まれながらのアル中の赤ん坊が誕生する始末だ。加えて、このすさみ切った中年男ども。世の中、どんどん悪くなっていく。まるで、誰かに呪われてるみたいに。
「自己紹介シマス」とおれは、いかにも戦争を知らない子供ぶって愛想をふりまきながら言った。「ボク、八頭大《ダイ・ヤガシラ》。日本デイチバン出来ノ良イはんさむガソロテル灘はい・すくーるノ二年生」
*この続きは製品版でお楽しみください。
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