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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル

暗闇に咲く花

暗闇に咲く花


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ジュリエット・ランドン(Juliet Landon)
 イギリス北部の古代の面影を残す村に、引退した科学者の夫とともに住む。刺繍について豊富な知識と技術を身につけ、その腕前はプロとして講師を務めるほど。美術や歴史に対する興味も旺盛な彼女は、豊かな想像力を生かす、ヒストリカル小説の作家を職業に選んだ。作品を執筆するために調べ物をするのはとても楽しいという。中世初期が特にお気に入りの時代で、女性のしきたりや男の世界で強く生き抜く女性について知ることは、この上ない楽しみとなっている。

解説

 さわやかな朝、水浴びから帰ったエボニーは目を疑った。襲撃だ! 血も涙もない略奪者たちが城を奪いに来たのだろうか。夫は数年前に命を落とした。息子まで失うわけにはいかない。激高した若き未亡人は、略奪者たちの指揮官につかみかかった。そして怒りに震えながらも懇願した。「あの子だけは助けて」男は冷たく答えた。「その身を差し出すんだ。取り引き成立だな」なんと冷酷な。エボニーの心は葛藤で引き裂かれた。ところが、暗い真実がさらなる追い打ちをかけた。男は略奪者どころか、国王の命を受けた使節で、城主である義父に反逆罪の疑いをかけていたのだ。
 ★十四世紀のスコットランドでは、イングランドとの熾烈な争いが続いていました。一方、洪水や飢饉のために物価が高騰し、略奪者が暗躍した時代でもありました。受難のときをたくましく誇り高く生き抜いた女性を描く、ジュリエット・ランドン入魂の作品です。★

抄録

「お願い……お願いよ、どうか……」エボニーはささやいた。自分に鞭打って男と視線を合わせ、目で伝えようとする。
「どうか?」男がきいた。「何が言いたい?」
「だから」目をそらして言う。「わたしはかまわないわ」
「かまわない?」
「あなたがわたしを……どう扱おうが……息子といっしょに行かせてくれるなら、あるいは息子といっしょにここへ残してくれるなら、かまわない。お願い、わたしからあの子を奪わないで」
 それは他人の唇から流れ出ている台詞のように聞こえた。男が黙り込んでいるのを見て、エボニーは自分が本当にそんなことを口にしたのか首をかしげたくなった。だが、いったん言ってしまったあとで、彼の目をのぞき込むのは容易ではなかった。
「ほかに……ほかに望むものがあればべつですけれど?」
 思いきって口を開いたが、ばかな質問だった。わたしはこういう男が利用できそうなものを、ほかにも持ち合わせているというの?
 押さえつけられていた手首が不意に解き放たれ、体の脇へだらりと落ちた。男に容赦なく締めつけられていたせいでしびれている。男はエボニーから体を離すと、逃げられないように顔の両側の壁に手をついた。この男はいまの申し出を聞いても、なおわたしが逃げると思っているのだろうか。
 男の口の両端に細かいしわが刻まれているのに彼女は気づいた。年じゅう手下に号令をかけ、戸外で生活しているせいだろう。わたしの言葉の意味をちゃんと理解したなら、彼はその内容を吟味するはずだ。エボニーの顔と体を這い回る男の目には、女性経験の豊かさが映し出されていた。彼がもし勝利と欲望を感じているとしても、表情には出さないよううまく隠している。とはいえ、男の躊躇《ちゅうちょ》している感じに彼女はいたたまれなくなった。
「なるほど、取り引きだな?」彼はエボニーの涙に濡れた瞳の奥をのぞき込んだ。
「ええ」そうささやいて彼女は目をそらした。「わたしにあるのはそれだけよ。息子の命に比べたら価値のないものだわ。でもあなたがお望みなら、差し上げます」
「子どもの命が危険にさらされることはない。あの子は報復されないためのだいじな抵当だ。ところで、あなたは略奪者に自分を差し出すのに慣れているのか?」
 エボニーはかっとして彼の顔をかきむしろうとしたが、男はまた彼女の両手首をつかんで背中の後ろへひねった。
「いいえ!」
 エボニーはうなるように答え、男の笑っている顔をねめつけた。
「亡き夫のために大切にしてきたし、これからも彼のものよ。たとえほかの誰かを追い払うためにそれを与えなければならないとしても!あなたは“ほかの誰か”の第一号になって楽しい思いをすることもできたけれど、でも、その価値を疑うならもう取り引きはおしまいよ。あなたは略奪者で、わたしの大切なもののひとかけらにも値しないし、野卑な盗人《ぬすっと》の人殺しに、わたしがどんな思いで自分を差し出そうとしたかなんてわかりっこないもの。忘れて!息子のためにしたことで、あなたの慰みものになるためではないわ」
「だがたったいま、価値のないものだと言っただろう」彼はそっと彼女を抱き寄せた。「いささか矛盾していないか?」
「女にとっては矛盾ではないわ。価値とそれにともなう犠牲は同じではないのよ。あなたのような男にはわからないでしょうけれど」
「そうかもしれない。だがさっきの申し出には興味がある。まだ有効かな?」
 今度は彼女が躊躇する番だった。あまりの大胆な取り引きに、心が恐怖に満たされはじめる。これからわたしはこの見知らぬ男とベッドをともにするのだろうか。それともこの廊下でぞっとするような愛撫《あいぶ》を受けるのだろうか。どちらにせよ、男にはいくらでも時間がある。取り引きの成り行きは悲惨なものとなるかもしれない。それについては恐ろしくて考えたくもないが。
 エボニーは夫以外の男に手を触れさせたことはなかったし、この三年というもの、夜の深い闇《やみ》の中で枕《まくら》に顔をうずめて泣くとき以外、男の腕を恋しく思うことはなかった。だがこの男は、わたしが何を失おうとまるで注意を払わないだろう。
「どうかな?」彼がもう一度きいた。
 彼女は大きく息を吸い、息子といっしょにいられるならほかのことはいっさい考えまい、と思った。「サムのそばにいさせてくれるの?わたしたちをどこへ連れていくにせよ、いつでもサムのそばにいさせてくれるの?」
「息子の安全と、あなたがいつでも息子に近づけるかどうかは、ぼくがあなたにいつでも、どんなときでも近づけるかどうかにかかっている。わかるか?」
 エボニーはぎょっとして顔を上げ、相手の目をまじまじと見た。こんな要求をする男の目には笑みがうっすら浮かんでいるはず。だがそこに笑いはなく、あるのは固く青い鋼の色だけだった。
「いつでも、どんなときでも?一度……一度だけでなく?」
「ああ。ぼくがあなたを求めるかぎりずっと、その身を差し出すんだ。それだけの価値がある息子なのか?」
 肺から震える息が流れ出し、彼女は冷たい無感覚状態に陥った。そう言われたら、もう選択の余地はない。サムを自分のそばに置きたければ、わたしはこの男のそばにいるしかない。文字どおりそばに、文句ひとつ言わず。「ええ、そうですとも!」彼女は叫んだ。「あなたは悪魔だわ!」
「では取り引き成立だな?」
 エボニーは歯を食いしばり、男の腕を押しのけようとした。いとしい夫ロバートの顔が彼女を非難するようにまぶたに浮かんだ。


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