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東の太陽 西の鷲 (10)

東の太陽 西の鷲 (10)

著: 中里融司
発行: 学研
シリーズ: 東の太陽 西の鷲
価格:798円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 中里 融司(なかざと ゆうじ)
 1957〜
 東京都生まれ。武蔵大学経済学部卒業。1994年、学研・歴史群像大賞優秀賞、メディアワークス・電撃ゲーム小説大賞銀賞受賞。

解説

 東太平洋にて生起した史上空前の海空戦は、日米両軍の海上戦力を擦り潰した。果てしなく繰り広げられる日米本土への爆撃が、数多の民間人を犠牲にしていく。原子爆弾が開発され、ニュー・メキシコで禍々しい茸雲が噴き上がった。その情報を得た日本軍は、本土への原爆投下を阻止するため、永久氷海を渡った砕氷戦艦『樺太』を、南太平洋へと向かわせる。講和へと向けて動き出す統合戦略本部。人類は、もっとも愚かな選択を回避すべく、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

目次

前巻までのあらすじ
主な登場人物
第一章 焦熱の二都物語
第二章 枢軸の要塞
第三章 戦勢転換
第四章 さらば樺太
終 章 悪魔と天使の間に


あとがき――シリーズ完結によせて
『東の太陽 西の鷲』参考文献

抄録

「三式電探、感度良好……本家バーミンガム大学弱電研究室設計の新型は、素晴らしい性能ですわ」
 副操縦士を務める桧垣浩平《ひがきこうへい》飛曹長が、朗《ほが》らかな声音で言った。
「敵も強くなりましたがね、隊長。こちらの兵力もあがってます」
 桧垣の声が聞こえたかのように、軽快な緑色の機影が、雷龍の操縦席に注《そそ》ぐ夕陽を遮《さえぎ》った。
 従来の日本機には見られない、華麗なフォルムだ。液冷式エンジン特有の尖《とが》った機首が、主翼の下に口を開けた空気取り入れ口とあいまって、異形の魔物を連想させる。
 贅肉《ぜいにく》を極限まで削《そ》ぎ落とした機体は、航空力学の極致を極めたものだ。やや短すぎるかとも思える主翼には、眼《め》に鮮やかな日の丸が燦然《さんぜん》と輝いて、爆撃隊の守護神としての流麗な姿を喧伝《けんでん》する。
 その姿を見やった来島は、頼もしげに頷《うなず》いた。
「キ―六〇改、川崎航空製征空戦闘機『飛鷲《ひしゆう》改』か。速度、空戦性能とも疾風《はやて》に引けを取らず、航続距離では上を行く。液冷でさえなかったら、空母部隊にも採用された傑作だな」
 全長、一〇・五メートル、全幅一一・三メートル。エンジンは同盟国、イギリスから提供された液冷式パッカード・マーリンV―1650―7、一四九〇馬力。両翼に二《 》挺《ちよう》の二〇ミリ機銃、二門の一二ミリ七機銃を備え、最大速力七一〇キロ、実用上昇限度一万二七〇〇メートル……それでいて、最大航続距離三六〇〇キロを誇る、戦闘機の最高傑作だ。
 雷龍を守る飛鷲改を眺めつつ、来島は嘆息した。
「本当に、日本の戦闘機とは思えんな。キ―六〇は、まだ盟邦ドイツのB・f―190に近かったが」
 心許《こころもと》なさそうに護衛戦闘機隊を見やる隊長に、桧垣は苦笑とともに言った。
「そいつは、仕方がありませんよ。元々、飛鷲改はキ―六〇をサクラメントで見つけた米軍戦闘機の設計図で作り直したものです。アメさん生まれの面影は、無理もないですよ」
「陸軍航空隊の板垣さんが、日本人にはふさわしくないと言って、お冠《かんむり》だったようですね」
 見張り員を務める脇坂一平《わきさかいつぺい》上飛曹が、楽しげに声を弾《はず》ませる。
 肩をすくめた来島は、肩越しに視線を向けて、脇坂をたしなめた。
「おい脇坂、貴様海軍でよかったな。陸式だったら上官《 》誹謗《ひぼう》の罪で、重営倉は固いとこだぞ」
「はい、失礼いたしました。ところで隊長、俺たちは東海岸を攻撃に出てますが、内地も今頃は」
 肩をすくめて言った脇坂が、表情を改めた。
 機内に、にわかに重い空気が垂《た》れ込める。唇を噛《か》んだ来島が、重い言葉を紡《つむ》ぎ出した。
「……そうだな。武部大将が俺たちを飛ばしているように、サイパンからはルメイが、B―29を飛ばしている。東太平洋海戦は、両軍の海上戦力を擦《す》り潰《つぶ》したが、そのために、収拾のつかない事態となってしまったな」
 口調が苦《にが》い。来島の思いは全搭乗員に共通のものと見え、機内のクルーたちは、一様に頷いた。
「B―29って爆撃機は、雷龍に匹敵する大型戦略重爆だそうですね。絶対国防圏への侵入を許しちまったし、このうえは内地の防空隊が、守り抜いてくれるしかないってことですよね」
「その点に関しちゃ、源田《げんだ》さんや小園《おぞの》さん、陸軍でも四七戦隊や五三戦隊といった腕利《うでき》きが守ってくれてるはずだ。俺たちは、任務を果たすだけさ」
「その帝都は、いまだに半分は、反乱軍に占拠《せんきよ》されてるっていいますしねぇ……」
 桧垣が嘆息《たんそく》して、操縦《 》桿《かん》を握り直した。
 そのとき、三木が睨《にら》むパノラマ式電探のスコープに、幾《いく》つかの光点が映った。弧《こ》を描いて回転する光の筋が粒子《りゆうし》の尾を曳《ひ》き、そのただ中に、接近する点の群れを見た三木が、反射的に声を張り上げる。
「一〇時の方向、敵機! 戦闘機、高速接近! 高度七〇〇〇、距離、約一〇〇!」
 機内に緊張が走った。防御機銃に火が入り、自動銃塔の要員たちが、弾かれたように通路を走る。
 さらに、通信機に取りついた三木が言葉を継いだ。
「英国隊より入電、『我、敵戦闘機隊迎撃ニ向カウ! 暁《あかつき》部隊、第二、第三中隊《 》追随《ついずい》サレタシ!』。暁部隊隊長機より、了解の返信あり!」
「よおっし! 三木、桧《ひのき》大尉に通信。忝《かたじけ》なし!」
 桧大尉は、陸軍、海軍の共同制空隊『暁部隊』の隊長だ。内地でB―29相手の迎撃戦を戦う海軍の『剣部隊』こと三四三航空隊、陸軍の『かわせみ部隊』こと第四七航空戦隊と並び称される、腕利きの搭乗員を集めた隊として知られている。
 嚮導《きようどう》するイギリス空軍北米大陸遠征軍所属のデハビラント『蚊《モスキート》』とともに、十数機の飛鷲改が主翼を翻す。彼らがマリーン・エンジンを轟《とどろ》かせ、大直径四翅ブレードに大気を切り裂かせて、上昇するアメリカ軍戦闘機めがけて躍りかかる光景に、来島は唇を噛みしめた。
「逢瀬《おうせ》、貴様の作戦、ハワイは守り通せたが、その分戦局をややこしくしちまったな。だがまぁ、それも精一杯戦った末のことだ。あとは、俺たちが引き受けなきゃならんってことだよな」
 苦笑を浮かべて、来島は海軍兵学校で一期後輩の、日本人離れした顔を思い出していた。


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