和書>小説・ノンフィクション>SF・ファンタジー小説>架空戦記小説>近現代
著者プロフィール
稲葉 稔(いなば みのる)
1955〜
熊本県生まれ。放送作家を経て、1994年、小説家デビュー。『電撃・大和艦隊』シリーズ、『蒼海の盾』シリーズなど。
1955〜
熊本県生まれ。放送作家を経て、1994年、小説家デビュー。『電撃・大和艦隊』シリーズ、『蒼海の盾』シリーズなど。
解説
真珠湾奇襲攻撃から4ヵ月後、16機のB25が東京を報復空爆した。同時期、遭難中の鳴海大輔と片山丈が豊後水道で救出され、「大和」の中で覚醒した片山は、執拗に東京空襲を訴えていた。彼には断片的に未来が見えるのだ。連合艦隊司令長官・山本五十六の知遇を得た二人は、『特命参謀』として「MO」作戦に投入されるや、珊瑚海海戦を有利に戦い抜く。その折、鳴海も己の不思議な能力に目覚めていた。次々と戦功を挙げる二人は、正攻法では勝てない米国に対抗すべく「大和」を超弩級高速戦艦に改造。そして、波頭を蹴立て向かうは、日米が太平洋の覇権を賭け雌雄を決するミッドウェイ。
目次
プロローグ
第一章 復讐作戦
第二章 特命参謀
第三章 珊瑚海燃ゆ
第四章 電撃艦隊誕生
第五章 ミッドウェイの罠
エピローグ
第一章 復讐作戦
第二章 特命参謀
第三章 珊瑚海燃ゆ
第四章 電撃艦隊誕生
第五章 ミッドウェイの罠
エピローグ
抄録
あれか――。鳴海はスイッチの切れた機械のように身じろぎもしなかった。
艦橋ハッチが開き、人影が見えた。こっちに向かって手信号を送ってくる。
――帰還スル。急ガレタシ。
間違いない。迎えの特殊潜行艇だった。鳴海は走って海に入ると、急いで泳いだ。浜から約五〇メートル付近に浮かんだ小さな艇は、ゆらゆら揺れていた。
「軍令部八課の鳴海です」
艇に着くなり、報告した。
「片山《かたやま》です。お待ちしてました」
片山の手を借りて、鳴海は艇内に入った。
特殊潜行艇は「甲標的《こうひようてき》」と呼ばれるミニ潜水艦である。全長二三・九メートル、排水量四六トン、速力一九ノット(水中)、航続力六ノット(水中)で一四八キロ。四五センチ魚雷発射管二門を装備し、乗員は二名である。
「ついに戦争だな」
鳴海は窮屈な艇内の椅子に座ると、自分の目で見た真珠湾の様子を話したあとでそう言った。
「そうですね」
片山は言葉数が少ない。伊一六の乗員で階級は鳴海と同じ中尉だった。母艦の伊号潜水艦は、二〇カイリ沖で待機しているという。甲標的は一〇ノットの速力で、浅海面走行していた。約二時間で母艦に到着する予定である。
だが、甲標的は予定時間が過ぎても、母艦に到達することはなかった。
「片山中尉、針路を間違ったのではないか」
不安になった鳴海は潜望鏡を覗《のぞ》く片山を見やった。
「そんなことはありません」
無粋な顔でそっけなく言う。ここは彼を信頼するしかないと、鳴海は窮屈さに耐えた。艇内は腰をかがめて椅子に座っているしかない。作業は座ったままできるようになっている。時間がたつごとに蒸し暑く、息苦しさが増してきた。
「おい、そろそろ着いてもいい頃じゃないか。この艇はそんなに長く走れないはずだ」
「…………」
片山は黙ったまま返事をしない。
「おい、間違ったのじゃないか。いったいどこを走っているんだ」
「じきに着きますよ。慌てないで」
どこか人を食った物言いに、鳴海はかちんときた。
「じきに着きますと言ったって、もうとっくに予定時間は過ぎている。おい、何時間走れば母艦に着けるんだ。方角を確認する浮上しろ」
片山は素直に浮上させた。鳴海はハッチを開けると、空を見上げた。星の位置で自分の位置の見当がつくはずだが、周囲は見渡す限りの海原だ。目印となる島でもあればいいが、これではさっぱりわからない。
「おい、片山中尉。方角がまったくわからないぞ」
「ここでいいです」
「……ここでいい? どういうことだ? 母艦がここにやってくるということか」
「ここでいいんです」
鳴海は足下の片山をギロッと睨んだ。
「だからここでいいとは、どういうことだと聞いているんだ。――貴様、針路を誤って誤魔化そうとしているんじゃないだろうな。そうだったら正直にそうと言えばいいんだ、正直に」
片山が見返してきた。無表情に醒《さ》めきった目だ。
「すまないが君を、海軍に渡すことはできない」
「――何だと」
「詳しいことはここでは言えないが、そういうことだ」
「おい、そういうこととはどういうことだ! 貴様、何を企んでやがる。伊号潜水艦に向けろ。貴様、まさか敵のスパイではあるまいな」
「すまないが、言えないんだ」
「何が言えないんだ! 貴様は最初からそのつもりだったんだな。いったい俺《おれ》をどうしようというんだ」
鳴海は片山の首根っこをつかんだ。
「言え、何を考えているんだ。俺は皇国のために戦わなければならないんだ。日本はアメリカと戦争を始めた。こんなところで道草を食っている暇はない。母艦に戻せ!」
「できない」
「何ができないだ! この非国民が!」
「もう燃料がないんだ」
片山は鳴海の手を静かに払った。
「燃料がないだと……、き、貴様最初からそのつもりで――」
「すまない、裏切るつもりはないんだ」
片山が静かに目を閉じたとき、異変が起きた。艇が大きく揺れ、ごわごわっと奇妙な音が艇内を満たした。何事だと思った鳴海はハッチを開けて外を覗いた。
雲が割れ、風が逆巻き、あれほど静かだった海が荒れ狂っていた。ついで大きな波――それは山のように巨大なものだった――が、押し寄せてきた。眼前にその波が迫ったとき、鳴海はハッチを閉めた。同時に片山に引きずりおろされた。
「どうなっているんだ」
そう口にしたが声になっていなかった。甲標的がぐるぐる回転し始めたのだ。目が回り、開けていることができなくなった。奇妙に甲高い音が耳を聾《ろう》し、スクリューのように回転する艇が三半規管を狂わせていた。顔の筋肉がぶるぶると揺さぶられ、全身をねじ切るような強烈な圧迫感が襲ってきた。鳴海は歯を食いしばって、その衝撃に耐えようとしたが、次第に意識が遠のく自分を自覚していた。
どこかに行ってしまう。どこかに行ってしまいそうだ。いったい何が起こったんだ……。
鳴海と片山を乗せた甲標的は、やがて海中から竜巻に巻き上げられ、空高く舞い上がった。それはとどまることを知らず、どんどん上昇し、黒雲の中に吸い込まれると見えなくなってしまった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
艦橋ハッチが開き、人影が見えた。こっちに向かって手信号を送ってくる。
――帰還スル。急ガレタシ。
間違いない。迎えの特殊潜行艇だった。鳴海は走って海に入ると、急いで泳いだ。浜から約五〇メートル付近に浮かんだ小さな艇は、ゆらゆら揺れていた。
「軍令部八課の鳴海です」
艇に着くなり、報告した。
「片山《かたやま》です。お待ちしてました」
片山の手を借りて、鳴海は艇内に入った。
特殊潜行艇は「甲標的《こうひようてき》」と呼ばれるミニ潜水艦である。全長二三・九メートル、排水量四六トン、速力一九ノット(水中)、航続力六ノット(水中)で一四八キロ。四五センチ魚雷発射管二門を装備し、乗員は二名である。
「ついに戦争だな」
鳴海は窮屈な艇内の椅子に座ると、自分の目で見た真珠湾の様子を話したあとでそう言った。
「そうですね」
片山は言葉数が少ない。伊一六の乗員で階級は鳴海と同じ中尉だった。母艦の伊号潜水艦は、二〇カイリ沖で待機しているという。甲標的は一〇ノットの速力で、浅海面走行していた。約二時間で母艦に到着する予定である。
だが、甲標的は予定時間が過ぎても、母艦に到達することはなかった。
「片山中尉、針路を間違ったのではないか」
不安になった鳴海は潜望鏡を覗《のぞ》く片山を見やった。
「そんなことはありません」
無粋な顔でそっけなく言う。ここは彼を信頼するしかないと、鳴海は窮屈さに耐えた。艇内は腰をかがめて椅子に座っているしかない。作業は座ったままできるようになっている。時間がたつごとに蒸し暑く、息苦しさが増してきた。
「おい、そろそろ着いてもいい頃じゃないか。この艇はそんなに長く走れないはずだ」
「…………」
片山は黙ったまま返事をしない。
「おい、間違ったのじゃないか。いったいどこを走っているんだ」
「じきに着きますよ。慌てないで」
どこか人を食った物言いに、鳴海はかちんときた。
「じきに着きますと言ったって、もうとっくに予定時間は過ぎている。おい、何時間走れば母艦に着けるんだ。方角を確認する浮上しろ」
片山は素直に浮上させた。鳴海はハッチを開けると、空を見上げた。星の位置で自分の位置の見当がつくはずだが、周囲は見渡す限りの海原だ。目印となる島でもあればいいが、これではさっぱりわからない。
「おい、片山中尉。方角がまったくわからないぞ」
「ここでいいです」
「……ここでいい? どういうことだ? 母艦がここにやってくるということか」
「ここでいいんです」
鳴海は足下の片山をギロッと睨んだ。
「だからここでいいとは、どういうことだと聞いているんだ。――貴様、針路を誤って誤魔化そうとしているんじゃないだろうな。そうだったら正直にそうと言えばいいんだ、正直に」
片山が見返してきた。無表情に醒《さ》めきった目だ。
「すまないが君を、海軍に渡すことはできない」
「――何だと」
「詳しいことはここでは言えないが、そういうことだ」
「おい、そういうこととはどういうことだ! 貴様、何を企んでやがる。伊号潜水艦に向けろ。貴様、まさか敵のスパイではあるまいな」
「すまないが、言えないんだ」
「何が言えないんだ! 貴様は最初からそのつもりだったんだな。いったい俺《おれ》をどうしようというんだ」
鳴海は片山の首根っこをつかんだ。
「言え、何を考えているんだ。俺は皇国のために戦わなければならないんだ。日本はアメリカと戦争を始めた。こんなところで道草を食っている暇はない。母艦に戻せ!」
「できない」
「何ができないだ! この非国民が!」
「もう燃料がないんだ」
片山は鳴海の手を静かに払った。
「燃料がないだと……、き、貴様最初からそのつもりで――」
「すまない、裏切るつもりはないんだ」
片山が静かに目を閉じたとき、異変が起きた。艇が大きく揺れ、ごわごわっと奇妙な音が艇内を満たした。何事だと思った鳴海はハッチを開けて外を覗いた。
雲が割れ、風が逆巻き、あれほど静かだった海が荒れ狂っていた。ついで大きな波――それは山のように巨大なものだった――が、押し寄せてきた。眼前にその波が迫ったとき、鳴海はハッチを閉めた。同時に片山に引きずりおろされた。
「どうなっているんだ」
そう口にしたが声になっていなかった。甲標的がぐるぐる回転し始めたのだ。目が回り、開けていることができなくなった。奇妙に甲高い音が耳を聾《ろう》し、スクリューのように回転する艇が三半規管を狂わせていた。顔の筋肉がぶるぶると揺さぶられ、全身をねじ切るような強烈な圧迫感が襲ってきた。鳴海は歯を食いしばって、その衝撃に耐えようとしたが、次第に意識が遠のく自分を自覚していた。
どこかに行ってしまう。どこかに行ってしまいそうだ。いったい何が起こったんだ……。
鳴海と片山を乗せた甲標的は、やがて海中から竜巻に巻き上げられ、空高く舞い上がった。それはとどまることを知らず、どんどん上昇し、黒雲の中に吸い込まれると見えなくなってしまった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
形式
【XMDF形式】
XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアはここから無料でダウンロードできます。
詳しくはブンコビューアダウンロード初めての方へをご覧下さい。
対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。































