マイリストに追加
【XMDF形式】
XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。
対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。
【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。
詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。
和書>小説・ノンフィクション>ホラー>ホラー小説

解説
女子なら誰もが振り返るような美少年の水沢広志は、いわゆる「中二病」真っ盛り。中学二年になってもそれは変わらず、いまだに特撮ヒーローごっこをしている。彼が残念イケメンといわれる所以だ。そんな広志が新たに考案したのが、神様を自作して、信じること。単なるごっこ遊びの延長にすぎないはずだった。だが、あらゆる戦いを司るとして「龍武神」と名付けたその神は、たしかにご利益があると噂になり、いつしか広志の考えた「設定」を超え、多くの生徒たちの信仰対象となっていく。そこに、今度は別の神様から神託を受けたという者が次々と現れだす。そうして気づけば、校内には様々な神と教祖と信者から成る「教団」がいくつも出来上がっていた。しだいに激化していく布教活動と異教徒間の対立。それは、やがて大人たちの手に余る規模になり、最後には「宗教戦争」と呼べる異常事態へと発展する。生徒たちをけしかけ翻弄する神々──その正体とはいったい?
宗教ごっこをしていた少年少女がいつしか狂信者の群れに……鬼才・梅津裕一が奇想天外な角度から放つ学園バトルロイヤルホラー、上巻!
宗教ごっこをしていた少年少女がいつしか狂信者の群れに……鬼才・梅津裕一が奇想天外な角度から放つ学園バトルロイヤルホラー、上巻!
目次
第一部
第二部
第三部
第四部
第五部
第二部
第三部
第四部
第五部
抄録
すでに体育館裏にはかなりの人だかりが出来ていた。
なにしろショッキングな事件である。柳のときのほうが、警察沙汰にもなったし大きな事件ともいえる。だが、あのとき生徒たちは驚きはしたが、それほどの衝撃はうけなかった。
いじめられっ子が逆襲をした。その程度にしか、みな認識していなかったからだ。あの事件の真相を知る者はごくわずかである。しかも、固く口止めをされている。
そして、今回は猫が猟奇的、あるいは儀式的な殺され方をしたのだという。いまは無数の「神様たち」が校内で信仰されているのだ。このタイミングで、事件が起きた。
「やばいな……これ」
光一郎が言った。
「ただの猟奇的な事件じゃなくて、どこかの馬鹿が、マジで生贄を捧げたんじゃないか?」
「かもな」
陰鬱な口調で、広志はつぶやいた。
「あの、ブラックファイア教団とか、実在するのかもね」
さすがに結衣も、不安げな顔をしている。
「おいお前ら……見世物じゃないんだ!」
何人もの教師たちが現場の周囲にいたが、生徒のほうが圧倒的に多い。強引に人混みをかき分けるようにして、広志たちも猫の死体のあるあたりへと近づいていった。
「おい、押すなよっ」
「悪いっ」
さすがにこの混雑ぶりでは、どうしても他人を押しのけるかたちになる。それでも、猫の死体を確認したかった。
やがて視界が開けた。群衆の先頭に出たのだ。理科の教師が、難しい顔をして猫の死体を凝視している。ぶちのついた猫の死体だ。祥鳳からラブレターをもらったときに見かけたあの野良猫の死体だ、と直感的に広志は悟った。
黒っぽい石で、小さな祭壇のようなものが設《しつら》えられている。なにかの捧げものにしか思えなかった。かたわらには、切断された首が置かれている。両眼球は無残にえぐられたようで、猫の頭は目をつぶっているようにも見えた。
「ひどい……」
結衣が手で顔を覆った。あまりにも残酷で、犯人の悪意めいたものを猫の死体から感じた。
「まともな人間のやることじゃないな……」
光一郎も顔をしかめた。
「これで教師連中も動かざるをえなくなったわけだが……また厄介なことになるな」
「でもこれって、犯罪になるのか?」
「なる、と思う。飼い猫なら器物損壊だが、あれは野良猫だ。まあ、動物愛護法違反あたりだろうな」
だが犯人が十三歳だったらどうなるのだろう、とふと広志は思った。柳と同様「刑罰を与えることはできない」のではないか。
「それと動物、特に哺乳類を虐待して殺すってのは、危険なサインになることが多い」
「なんのサインだ?」
広志の質問に、光一郎が答えた。
「ある種の快楽殺人者が、人間を殺す前に猫とかを殺すのはよくある話だ。例の、神戸の事件、知っているよな」
「あー、そういえば、あの犯人も猫とかいっぱい殺していたらしいな」
ますます、いやな気分になってくる。
「邪神に生贄を捧げた者が、いるようですね」
驚くほど近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。いまや「龍武神の巫女」を名乗る、米原柚と、その取り巻きたちである。「邪神」などという言葉を、ゲームの世界以外で聞かされることになるとは思わなかった。
「これは……邪教の使徒を、狩り出す必要がありそうです」
中二病もここに極まれり、といった感じの発言だが、誰も笑ったりはしなかった。みな柚の発言に動揺し、あるいは怯えている。彼女の放つオーラめいたものに圧倒されているのだ。取り巻きたちも、狂信的な目をしている。一目みて「あまり関わりたくない」と思うような者ばかりだ。
「龍武神様は、このような悪を決して許しません。我ら龍武神様に仕える者が、邪教の使徒に鉄槌を下しますっ」
もう米原柚には冷静な中学二年生としての判断はできていない。母親の病気、手術で不安だったところを、柚は龍武神様に文字どおり「救われた」のだ。
「おい、お前」
竹刀を持った体育教師がこちらに近寄ってきた。
アダ名はゴリラ。容姿も、そのままゴリラである。本名も強羅《ごうら》というのだから、たぶん昔からゴリラと呼ばれてきたに違いない。
「なに、わけのわからんことを言っているんだ。そろそろ、お前たちをなんとかせにゃならんとは思ってはいたが……まさか、お前たちがこんなことをしたんじゃあるまいな」
すると、一人の女性教師が金切声をあげた。
「なにをおっしゃるんですか、強羅先生!」
見ると、松崎がそこにいた。正確な年齢は不明だが、四十歳前後、いわゆるアラフォーなのは間違いない。松崎を見て少し広志は驚いた。昔とはまるで別人だ。かつての松崎はひどく地味で、化粧なども最小限に控えていた。しかしいまの松崎は、以前からは考えられないような、派手というよりは華やかなパンツスーツを身にまとっている。
化粧も厚くはなっていたが、それもよく似合っていた。女は恋をすると美しくなるという。真実かどうかは知らないが、松崎に男が出来たという噂は、真実かもしれない。
「この子たちは、別におかしなことはしていません。龍武神様を信仰しているだけです」
「し、しかしですね」
松崎の剣幕に押されたように、ゴリラが身をかがめた。
「私も生活指導ですし……やはり、校内の神様ごっこの現状には、ちょっと問題があるとしか……」
「私も生活指導ですが、その私がかまわないと判断しているんです。それとも、私の判断が間違っていると?」
「いやあ、そういうわけではないんですけどね……」
ゴリラのこんな姿を見るのはめずらしい。普段からジャージ姿で竹刀を持ち、不良どもに睨みをきかせているのである。それが、松崎にあっさり屈している。たぶんゴリラも本能的にわかっているのだ。「この集団を本気で敵にまわすと、大変なことになる」と。
そのとき、チャイムが鳴った。
なにしろショッキングな事件である。柳のときのほうが、警察沙汰にもなったし大きな事件ともいえる。だが、あのとき生徒たちは驚きはしたが、それほどの衝撃はうけなかった。
いじめられっ子が逆襲をした。その程度にしか、みな認識していなかったからだ。あの事件の真相を知る者はごくわずかである。しかも、固く口止めをされている。
そして、今回は猫が猟奇的、あるいは儀式的な殺され方をしたのだという。いまは無数の「神様たち」が校内で信仰されているのだ。このタイミングで、事件が起きた。
「やばいな……これ」
光一郎が言った。
「ただの猟奇的な事件じゃなくて、どこかの馬鹿が、マジで生贄を捧げたんじゃないか?」
「かもな」
陰鬱な口調で、広志はつぶやいた。
「あの、ブラックファイア教団とか、実在するのかもね」
さすがに結衣も、不安げな顔をしている。
「おいお前ら……見世物じゃないんだ!」
何人もの教師たちが現場の周囲にいたが、生徒のほうが圧倒的に多い。強引に人混みをかき分けるようにして、広志たちも猫の死体のあるあたりへと近づいていった。
「おい、押すなよっ」
「悪いっ」
さすがにこの混雑ぶりでは、どうしても他人を押しのけるかたちになる。それでも、猫の死体を確認したかった。
やがて視界が開けた。群衆の先頭に出たのだ。理科の教師が、難しい顔をして猫の死体を凝視している。ぶちのついた猫の死体だ。祥鳳からラブレターをもらったときに見かけたあの野良猫の死体だ、と直感的に広志は悟った。
黒っぽい石で、小さな祭壇のようなものが設《しつら》えられている。なにかの捧げものにしか思えなかった。かたわらには、切断された首が置かれている。両眼球は無残にえぐられたようで、猫の頭は目をつぶっているようにも見えた。
「ひどい……」
結衣が手で顔を覆った。あまりにも残酷で、犯人の悪意めいたものを猫の死体から感じた。
「まともな人間のやることじゃないな……」
光一郎も顔をしかめた。
「これで教師連中も動かざるをえなくなったわけだが……また厄介なことになるな」
「でもこれって、犯罪になるのか?」
「なる、と思う。飼い猫なら器物損壊だが、あれは野良猫だ。まあ、動物愛護法違反あたりだろうな」
だが犯人が十三歳だったらどうなるのだろう、とふと広志は思った。柳と同様「刑罰を与えることはできない」のではないか。
「それと動物、特に哺乳類を虐待して殺すってのは、危険なサインになることが多い」
「なんのサインだ?」
広志の質問に、光一郎が答えた。
「ある種の快楽殺人者が、人間を殺す前に猫とかを殺すのはよくある話だ。例の、神戸の事件、知っているよな」
「あー、そういえば、あの犯人も猫とかいっぱい殺していたらしいな」
ますます、いやな気分になってくる。
「邪神に生贄を捧げた者が、いるようですね」
驚くほど近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。いまや「龍武神の巫女」を名乗る、米原柚と、その取り巻きたちである。「邪神」などという言葉を、ゲームの世界以外で聞かされることになるとは思わなかった。
「これは……邪教の使徒を、狩り出す必要がありそうです」
中二病もここに極まれり、といった感じの発言だが、誰も笑ったりはしなかった。みな柚の発言に動揺し、あるいは怯えている。彼女の放つオーラめいたものに圧倒されているのだ。取り巻きたちも、狂信的な目をしている。一目みて「あまり関わりたくない」と思うような者ばかりだ。
「龍武神様は、このような悪を決して許しません。我ら龍武神様に仕える者が、邪教の使徒に鉄槌を下しますっ」
もう米原柚には冷静な中学二年生としての判断はできていない。母親の病気、手術で不安だったところを、柚は龍武神様に文字どおり「救われた」のだ。
「おい、お前」
竹刀を持った体育教師がこちらに近寄ってきた。
アダ名はゴリラ。容姿も、そのままゴリラである。本名も強羅《ごうら》というのだから、たぶん昔からゴリラと呼ばれてきたに違いない。
「なに、わけのわからんことを言っているんだ。そろそろ、お前たちをなんとかせにゃならんとは思ってはいたが……まさか、お前たちがこんなことをしたんじゃあるまいな」
すると、一人の女性教師が金切声をあげた。
「なにをおっしゃるんですか、強羅先生!」
見ると、松崎がそこにいた。正確な年齢は不明だが、四十歳前後、いわゆるアラフォーなのは間違いない。松崎を見て少し広志は驚いた。昔とはまるで別人だ。かつての松崎はひどく地味で、化粧なども最小限に控えていた。しかしいまの松崎は、以前からは考えられないような、派手というよりは華やかなパンツスーツを身にまとっている。
化粧も厚くはなっていたが、それもよく似合っていた。女は恋をすると美しくなるという。真実かどうかは知らないが、松崎に男が出来たという噂は、真実かもしれない。
「この子たちは、別におかしなことはしていません。龍武神様を信仰しているだけです」
「し、しかしですね」
松崎の剣幕に押されたように、ゴリラが身をかがめた。
「私も生活指導ですし……やはり、校内の神様ごっこの現状には、ちょっと問題があるとしか……」
「私も生活指導ですが、その私がかまわないと判断しているんです。それとも、私の判断が間違っていると?」
「いやあ、そういうわけではないんですけどね……」
ゴリラのこんな姿を見るのはめずらしい。普段からジャージ姿で竹刀を持ち、不良どもに睨みをきかせているのである。それが、松崎にあっさり屈している。たぶんゴリラも本能的にわかっているのだ。「この集団を本気で敵にまわすと、大変なことになる」と。
そのとき、チャイムが鳴った。
本の情報
形式


XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。
対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。
詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。