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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

忘れるために一度だけ

忘れるために一度だけ


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ロビン・ドナルド(Robyn Donald)
 ニュージーランド北部の牧場主の家に、一男五女の長女として生まれた。十五歳で師範学校に学び、十九歳で結婚、同時に小学校の教師となる。子育てを終えて一時休んでいた教職に戻り、かたわら執筆を始めた。蘭の花が咲き、キウイやオレンジの実る美しい北部の村に住む。

解説

 この男性を忘れるためにこそ、一度だけベッドをともにしよう。

 ■キアに恋心をいだいていたホープは、ある日、彼と父の信じがたい話を立ち聞きしてしまう。父の会社の買収を申し出た銀行家のキアに、父が提案したのだ。娘をくれてやる代わりに、自分に会社の経営を続けさせろ、と。沈黙のあと、取り引きに応じましょうというキアの声が聞こえた。あとは聞いていられず、次の日ホープは家を出た。四年後、彼女が働く宝石店に、女性を伴ったキアが現れた。気づかれなかったと思い、ほっとしたのもつかの間、出直してきたキアから、四年間の空白を埋めようと言われる。男性に対して正常な反応を示せなくなっていたホープは、とんでもないと思いつつも、キアを忘れるためには一度彼と結ばれ、それから過去を過去として葬り去るのがいいかもしれないと考えた。だが気になるのは、キアが伴っていた女性の存在だった。

抄録

「オーストラリア人は望郷の念にかられると、ユーカリの葉を燃やして、ビールを飲んで、泣くんですって」国立公園で育った巨大なユーカリのなめらかな木肌をよく見ようと、ホープは少しあとずさった。まばらな葉のあいだから琥珀色の陽光が降りそそぎ、金銀がまじった灰緑色の木肌を照らしている。
「ニュージーランドの森が恋しいかい?」幹に背中をあずけ、長い脚を前に投げだして地面に座っているキアは、殺戮を終えてゆったりとくつろぐ優雅な虎を思わせた。
 ホープは崖の端まで行き、岩礁にぶつかって砕ける波を柵越しに見下ろした。
「恋しいわ。ユーカリが茂るこの乾いた大地とはまるで違うんですもの。あれは五歳のときだった。夏、両親と友達と一緒にノースランドのカウリ松の森に行ったことがあるの。巨大な雷雲が空にわいて空気は静まり返っていたわ。雷になる前の不気味な静寂と緑色の光、わかるでしょう?」
「ああ」
「わたしは友達と一緒に歓声をあげて大騒ぎしながら山道を駆けおりたの。わたしたちの声が巨大な木に反響していた。あのときの湿り気があって豊かで神秘的なにおいは忘れることができないわ」
「あまり幸せな記憶ではないようだね」溶けた銀のように不透明な瞳が彼の内心をみごとに隠している。
「そうね」
「それで、きみのお父さんは?」
 なんて察しがいいのだろう。「父は何も言わなかったけど、怒っているのはありあり伝わってきたの。父は友達を車から降ろすなり、お行儀が悪かったとわたしを叱って、家に帰ると母に、わたしをぶてと命じたわ」ホープは顎の小さな傷跡に手を触れた。
 キアが立ちあがる音は聞こえなかったが、彼がすぐそばに来た気配を感じた次の瞬間、抱きしめられていた。
「お父さんに虐待されたのか? だからきみは家に帰ろうとしないのか?」
「父はわたしに手を上げたことはないわ」
「違う種類の虐待もある」
「肉体的にも性的にも虐待されたことはないわよ」
「それじゃ、その傷跡は?」
 ホープは少しためらった。「母の婚約指輪があたったの。引っかき傷程度だったけど」
「そうか、彼はきみたち母娘を精神的に虐待していたんだな。彼が今、病院のベッドで身動きできない状態になっているのは、天罰としか思えない」
 ホープは仰天し、動揺したが、肩の荷が少し下りた気がした。父の存在が重圧になっていたとは思いもしなかった。「知らなかったわ」
「彼が求めてやまなかった金が、今は彼の介護費用に使われているなんて皮肉な話だ。座らないか」
 ホープはキアから少し距離を置いて座り、どこまでも青くきらめくコーラル海に視線を据えた。羽虫が小さな光の粒となって飛び交い、上空では陽光を浴びて頭と胸が白く光る鳶が気流にのって舞っている。小動物や鳥を見つけたら、猛スピードで降下するのだ。
「あれはなんだい?」ホープの視線を追ったキアが尋ねた。
「白頭鳶よ。このあたりによくいるわ」
「あの鳥が怖いのか? 震えているじゃないか」
「いいえ、父のことを考えていたから」ホープは言葉を切り、明るく言った。「わたしが怖いのは蛇よ。それに蜘蛛もあまり好きじゃない。ところがオーストラリアは両方ともたくさんいるの」
 氷の色をした目がホープの顔を見つめている。彼女がもらしたくない何かを探るような強いまなざしだ。ホープは気持ちを読まれまいと、すばやく目を伏せた。
「ホープ」キアが静かに言い、彼女の体に腕をまわした。
 目を伏せたままホープは黙って顎を上げた。
 熱い唇が彼女の唇を求めた。彼女の体と心が、それと知らずここ数年探し求めていたものすべてがこめられた危険なキスだった。
 ホープはキアの唇によってもたらされた激しい喜びに浸り、内側からこみあげてきた渇望感を強く意識しながら、彼に導かれるまま別の世界を漂っていた。唇が離れると、彼女はキアの首のあたりに視線をさまよわせ、激しく高鳴る胸の鼓動を無理やり静めようとした。
「大丈夫?」キアが彼女の髪に向かってきく。
「大丈夫よ」ホープは立ちあがった。力のない震える手で髪をかきあげ、崖っ縁の柵まで歩いていく。
 キアの肉体に対する誘惑は、十八歳のときよりはるかに強かった。この情熱を抑えつけていた四年間だったのだ。この誘惑に身をまかせたら、もう止められないかもしれない。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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