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汚された白衣

汚された白衣

著: 剛しいら
発行: イースト・プレス
レーベル: アズ・ノベルズ シリーズ: 奪われた白衣
価格:893円(税込)
10ポイント還元
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆4
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著者プロフィール

 剛 しいら(ごう しいら)
 6月9日生まれ東京都出身。魚座・A型。趣味は映画・舞台・格闘技・F1鑑賞。プラチナ文庫、ルビー文庫、アズ・ノベルズなどで作品を多数発表。

解説

 世界一危険な運び屋兄弟、真と実に拉致されてから早数ヵ月。今では離島で診療所を開く準備をしつつ、兄弟二人から愛されながら暮らす医者の誠巳。そんな彼らのもとにマフィアのドンから、南米で拘留中の息子を救出してほしいという依頼が……。命懸けの脱出劇。さらなる追っ手が迫る。救出した男、マルチェロは逞しく聡明……。まさに実の好みで……。デンジャラスで禁忌な四人の旅が続く。イラスト 荻原薫。

抄録

 日本列島の南の海上にある小島で、今、まったくの二人きりだ。
 この瞬間に世界が滅んでいようと、二人には関係ない。誰にも邪魔されることなく、お互いを見ているしかないのだ。
 誠巳はそっと真に体を寄り添わせる。すると安心感が広がって、誠巳は眠る前のようにリラックスして目を閉じた。
「お陰で死ねなくなっちまった。前はいつ死んでも後悔なんてしない、どかんっと一発浴びて、それで終わりだったら簡単でいいやと思ったが、今はそうもいかない。作戦だって手を抜けないんだよ」
「余計なプレッシャーを抱かせてるんなら、それはそれで問題だな。いざって時に緊張したら、かえって危ない」
「それほど甘くはないから、安心しろ」
 真の唇が、誠巳の額にそっと触れた。なんだか恥ずかしそうだ。
 あれだけ激しいセックスを何度もしているのに、どうしたことか二人ともこの状況に照れていた。
 そういえば、いつも実がいるせいで、こんな親密な時間は滅多にない。
 かといって、実をのけ者にするつもりはなかった。
 今夜はたまたまいないのだ。だからそれなりに二人で愉しんでいると思いたい。
「実には可か わいそう哀相だが、シドは俺たちに愛情なんてこれっぽっちもなかったと思う。先生と違って、やつは俺たちに生きることを教えなかった」
「……」
「テーブルマナーを教え、ダンスを教え、いろいろな国の言葉と習慣を教えてくれたけどな。それも俺たちがやつの足を引っ張らないように必要だったからさ」
 死んで何年も経っているのに、シドの霊はまだその辺りの海に漂っているのだろうか。誠巳は一度も見たことのない男なのに、何度も話題に出たことで知ったような気持ちになっている。
「シドの弱点は、機械に弱いことだったな。古い時代の悪党だったから、あのまま生き残っていても、いずれ失敗しただろう」
「実は偉いと思うよ。シドの死を乗り越えたんだ。もちろん真がいたからだろうけど…」
「あいつだって見かけほど馬鹿じゃない。シドに愛されてなかったことくらい本当はよく分かってたはずだ。なのに離れられなかったのは、寂しかったんだろうな」
 そこにいないとなぜか話題になる。きっと誠巳のいなかった時も、兄弟はこうして話題にしていたはずだ。
「おかしいよな。なんで二人になったのに、俺たち、実の話なんかしてるんだろう」
「じゃあ、真、作戦の打ち合わせをする?
 過保護に育った、体の弱そうな男を仮死状態にして生き返らせるなんて、とんでもない作戦の成功率は?」
「九十、なければ俺はやらない」
「分かった…。命の重さは地球より重い。無実なのに死刑になるかもしれない男を助けるためだ。後は死なせない努力をするだけさ」
「さすがだ、先生。頼りにしてるよ」
 真の唇が額から下がってきて、ついに唇を捕らえた。
 けれどいつものような荒々しさはない。嵐あらしの夜が去った後、静かな凪なぎの海に漕ぎ出したような穏やかさだ。
 静かにしていると、波の音ばかりがやけに耳に響く。そういえば、実がいないせいで、テレビのスイッチをどちらも入れないからだ。
 キスまでいったものの、二人とも相手をベッドまで誘うことができない。初めてのセックスに挑む高校生でも、もう少し積極的だろう。それくらい今夜の二人はおかしかった。
「どうかしてる…この俺が…らしくねぇ」
 真は誠巳を抱いていた腕を離し、そっぽを向いて煙草に火を点けた。
「写真だけでしかパパを知らない時は憧あこがれてた。だがアメリカに行って会ったら、普通のおっさんだった。海兵隊の時は、上官に認められたくて必死だったが、運が悪かったのか、自分の出世しか頭にないようなやつと、人種的な偏見のあるやつにしか当たらなかったな」
 遠くを見るような目で、真は過去を語る。リビングに実が飾った海兵隊時代の写真には、今よりもっと獣じみた真の姿が写っていた。
「人に期待するのはやめようって、いつの間にか最初から諦あきらめるようになっちまった。実以外は誰も信用できない。利用するだけ利用すればいいって思ってたが…」
「確かに真に近づいてくるような連中は、あまり信用していいようなやつらじゃないな。だけどさ、世の中にはまだまだ正直な人間もいるんだってことは、忘れて欲しくないね」
 誠巳はビールをぐっと飲み干すと、自ら先に立ち上がった。
「シャワー先に浴びる」
 寝るにはまだ早い時間だと分かっていたが、誠巳は席を立った。


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