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懐しのサルコンヌ

懐しのサルコンヌ


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

 「君に手伝ってもらいたいことがある。結婚してほしい」アレックスは自分の耳を疑い、ぽかんとしてフィリップを見た。彼はフランスから来た裕福な旅行客で、彼女はホテルの受付係。数日前の早朝、海辺で突堤の手すりから落ちかけたときに抱きとめてもらったけれど、彼についてはほとんど何も知らない。しかし婚約者に長年騙されていたと知り、傷ついたアレックスは巧みな説得に負け、さらわれるように結婚してしまう。サルコンヌにある豪奢な伯爵家の城で、愛の苦しみを知ることになるとは夢にも思わずに。

抄録

「これがサルコンヌだよ」フィリップの声には情感がこもっていた。
「車を止めて」かすれ声でアレックスは頼んだ。もし止まらなければ、今にもドアを開けて飛び出さんばかりだった。
 ブレーキをきしませて車は急停止した。アレックスは前にのめった。フィリップが出した支えの腕をアレックスは押しのけて、蒼白な顔を向けた。
「どうして話してくださらなかったの? どうして秘密にしていらしたの? なんていう仕打ち!」
「全部打ち明けていたら君は僕と結婚したか?」
「いいえ」
「それなら、僕がなぜ秘密にしていたかわかるだろう」
「あなたは強引だって前にも言いましたけど、でもこれはひどいわ。なんの準備もなくこんなところへ連れて来られて……わたしにはつとまりません。フィリップ、ロンドンへ連れて帰ってください。わたし……わたしはあなたの求めていらっしゃるような妻にはなれません」
 言葉はあとからあとから、激情に駆られて口から出てきた。緑色の目が光を帯び、血の気の失せた白い顔の中でいっそうみじめに見えた。
 フィリップは静かにアレックスの言葉を聞いていた。すすり泣きが始まってやっと言葉が切れると彼は言った。「君はもう僕の妻だ。もう帰ることはできないよ。しっかりするんだ。何がそんなに怖いんだ?」フィリップは自分のハンカチをとり出して、やさしくアレックスの頬に伝わる涙をふいた。そしてくしを出し、彼女の乱れた髪をそっとくしけずった。「化粧を直しなさい」彼の命令に、アレックスは機械的に従った。フィリップは彼女のあごの下を指で支え、ゆっくり点検した。「よし。さあこれで君は元どおりの魅惑的な君になった」
「魅惑的ですって!」思わずアレックスは苦々しげに叫んだ。
「そうだよ。自分でそう思ったことない? 君は少し謙虚にすぎるね、かわいい人《シエリ》。君はすばらしく美しい。ただいつもは、静かな立ち居振る舞いのために目立たないだけで――それが時折、きらっと光って見えるんだな。初めて会った浜辺で突堤の手すりの上を歩いていた君、風に向かって笑っていた君……あのときの君は妖精《フエアリー》みたいに生のままの美しさが輝いていた。ホテルに戻った君からは、それが黒のドレスに隠されて、すっかり消えていた。僕は謎をかけられた思いだった。今も謎だけど」
「あなたがなさろうということが、わたしにわからないとでもお思いになったら間違いよ」
「僕が何をしようとしてる?」フィリップは不思議そうに目を丸くした。
「ご自分の思いどおりに、わたしを馴らそうとしていらっしゃるわ。今になってわかりました。あなたは‘これ’とねらった小鳥は自在に捕まえてしまうのね!」
「君までそんなことを?」アレックスの目の中までのぞきこむようにして、彼はおもしろそうに言った。
 アレックスの頬に血がのぼった。「こんなところをわが家にするような教育は受けていません。わたしには場違いですわ」
「それはこれから決めることだ。何度も言うが、君はサルコンヌの女主人になるんだ」フィリップは穏やかな灰色の目をじっとアレックスの目に注いだ。「それとも君は僕に挑戦するのか、アレックス?」
「どうしてわたしなんかを……」アレックスは目をそらした。「こんなところにお住まいの方なら、どんなすてきな方とだって結婚できるでしょうに」
「僕は波や風に挑戦する女の子を見つけたんだ。そういう女の子なら、どんなことにも挑むことができるにちがいない、と思った。どう、アレックス?」
 アレックスはふり返ってもう一度城を見た。「ここでなければ」
「君はサルコンヌがきらいか?」その声には落胆の響きがあった。
「きらい? いえ、とてもきれいですわ。美しすぎて怖いんです」
 フィリップは両手で彼女の頭をかかえるようにしてその目に見入った。「僕はサルコンヌの主で、君は僕の妻だ。城に入って行くときもそれを忘れるな。それからアレックス、これからは君は常に僕の妻らしくふるまうことを忘れないでほしい……これが僕の願いだ。君はみんなに注目される。君は花嫁に見えるように、花嫁らしくふるまうんだ」
「それはなんのためですの?」ますます恐れがつのってくる。
「これだ」と言ってフィリップはかがんだ。
 アレックスはまったく無防備だった。フィリップの唇が自分の口に重なったとたん、アレックスは目くるめく思いに陶酔した。しばらくは目を大きくみはったまま、信じられぬ思いで彼の唇の感触を意識していたが、次にフィリップは両腕でアレックスをかかえるようにして引き寄せ、同時に唇が新たな動きを展開しはじめた。アレックスはこういう経験がほとんどなかった。
 フィリップの唇がやっと離れたとき、アレックスの頬は真っ赤で唇は震え、淡い痛みさえ残っていた。
「これで君も花嫁らしくなれるだろう」フィリップは満足そうにまた車のエンジンキーをまわした。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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