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追いつめられて

追いつめられて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

 幼いころに母が頑固な父を捨てて男とかけ落ちして以来、ジュリエットは荘園の猟場管理人の父と二人で暮らしてきた。八年前、ジュリエットは荘園領主の一人息子シメオンと恋に落ちた。二人が抱き合っている姿を目撃した父に猟銃を突きつけられ、シメオンは突然ジュリエットとの結婚を宣言したのだった。だが結婚式の夜、ジュリエットは彼の手荒い扱いに深く傷つき、“何もかも間違いでした”と書き残してハネムーン先から姿を消した。そのまま母のもとに落ち着き義父と母の仕事を手伝ってきた彼女は、今では二人の片腕として靴のチェーン店の経営にたずさわっている。そんなジュリエットの前に再びシメオンが現れた。

抄録

 ジュリエットは急いでくるりと向きを変え、ドアを開けた。外を見たとたん、まぶしさに目がくらみそうになった。一面の銀世界に太陽が反射している。風はもうやんで、寒さもやわらいでいた。すばらしい景色だ。どこまでも見渡すかぎりの雪原が、真っ青な空の下に白く輝いている。息をのむほどの美しさだったが、あたりには何も見えなかった。家も、人影も。あまりの孤立感に、彼女は唇を噛んだ。
「この寒さにおじけづいたのかい?」皮肉な口調で言うシメオンに怒ったような視線を投げると、ジュリエットは勢いよくドアを閉めた。
「ちっとも」そう言うと、さっさと歩き始める。シメオンは長い足で楽々と彼女に追いついた。白銀の上をジュリエットの影とともにシメオンの黒い影が動いていく。だれもいない雪原の中で、大きく長く伸びる影は、恐ろしい感じさえいだかせた。影はジュリエットにつきまとって離れない。まるで、獲物を追う猟犬のように……。
「本当にこの雪の荒野を歩くつもりなの? 言っておきますけど、ヒースは歩きにくいわよ」わざと高飛車に彼女は言った。
 そんな態度をかえっておもしろがるように、シメオンが笑う。「まあ、せいぜい気をつけよう」
「そう。とにかく、忠告だけはしましたからね」
 ふたりは道をそれて雪原へ分け入った。雪をかぶったヒースの茂みと格闘したあと、草の斜面に差しかかると、雪が凍りついていた。ジュリエットは足を取られ、バランスを崩して尻餅をついた。とたんに、頭の上からシメオンの笑い声が響いた。
 さっき、荒野は歩きにくいのよなんて彼に忠告したばかりなのに。転んだところは痛いし、悔しいし、ジュリエットはかっとして思わず手近の雪を丸めると、シメオンめがけて投げつけた。
 ねらいはたがわず、雪の玉はシメオンの頭に命中した。黒い髪が雪だらけになるのを見て、びっくりしたのはむしろジュリエットだった。今までだってこんなにうまく命中させたことはない。このうえは、さっさと立ち上がって、逃げ出さなくてはならない。こんなところに茫然と座っていたら、かっこうの反撃の的だ。
 シメオンの動きはすばやかった。体をかがめ、さっと起き直ったかと思うと、次の瞬間にはジュリエットめがけて雪の玉が降りそそいだ。彼女もまた雪をつかむと、急いで立ち上がり、投げつけるが早いか身をひるがえした。追いかけてくる彼の足音を耳にしながら必死で走った。息が切れて苦しい。たかが追いかけっこ……だが、ジュリエットにはそれ以上のものに思えた。
 やがて、シメオンがジュリエットを捕まえ、両手で押さえつける。彼女は顔色を変え、激しくあらがった。
「放して!」
「むだなことはよすんだな」シメオンがつぶやく。
 ジュリエットを見下ろすグレーの瞳は、心の奥底まで見透かすようにきらめいている。おびえながらも彼女は、シメオンの言葉の意味に気づいた。“むだなこと”と、彼はほのめかしている。惹かれる気持を隠してもむだだ、あらがいながらも心の底ではキスしてもらいたがっているのだろう、と……。
「いやよ」自分でもそれが嘘だとわかる。ジュリエットは戸惑ったようにシメオンの唇を見つめた。自分自身の気持がわからない。でも、抱かれたいなんて思うはずがないわ。それなのに、口の中が乾き、目の前がくらくらする。“いや”と口に出そうとしたのに、唇は声にならない動きをするだけだ。そんな彼女の唇をシメオンはじっと見ている。
「いやじゃないさ」彼はささやき、手袋をはめた手が彼女の顔を両手ではさんだ。
 シメオンの唇を避けるすべはなかった。彼の唇は雪のように冷たく、ジュリエットは言葉にならないあえぎをもらした。唇がかすかに開き、シメオンのキスが深く激しく彼女をとらえた。顔を仰向けられて倒れそうになり、シメオンのたくましい肩をつかむ。青い空がまわり出し、めまいを感じて目を閉じる。彼の唇が熱くジュリエットを求め、なすすべもなくそれに応えながら、もうあらがうそぶりさえできず、すがりつき、ただ身を震わせていた。この八年間、ボーイフレンドは何人もいたのに、ただ一度のキスで身も心もくずおれてしまいそうな思いをさせた男性は、ただのひとりもいなかった。
 始めたのがそうだったように、キスをやめたのもシメオンだった。ジュリエットが身を震わせ目を閉じたまま、熱に浮かされたように唇を差し出しているのを彼はじっと見つめた。
「次には、きみはぼくに何か投げつけてやりたいと思うんだろうな。こんなことをしたらどういうことになるかを思い出して」そう言われて、彼女は大きく目を見開き、からかうような瞳に出会って顔を真っ赤に染めた。
「ご忠告、感謝するわ!」ジュリエットは怒って叫んだ。「もう二度と、こんなことしないで!」
 シメオンがあざけるような視線を投げる。「本当かい? きみは喜んでるみたいだったがね」
「よけいなお世話よ!」
 自分の気持を言いあてられてジュリエットはいらだった。それに、こんなふうにされると弱いことを、いちばん知られたくない当の相手に知られてしまった。彼女の体はシメオンに引かれている。それは自分でも否定できない事実だ。でも、それだけではどうということはない。たとえ体が危険な過ちを犯し、快楽を求めても、精神がしっかりしてさえいれば道を踏みはずすことはないのだから。


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