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真剣師 小池重明

真剣師 小池重明

著: 団鬼六
発行: イースト・プレス
価格:525円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 団 鬼六(だん おにろく)
 1931年4月、滋賀県彦根市に生まれる。関西学院大学法学部卒業。在学中より劇作を始めていたが、26歳のとき文藝春秋オール新人杯に入選し、作家活動に入る。
 30歳のころから特異な官能小説も手がけ、『伊藤晴雨物語』『花と蛇』などを発表。硬派軟派両道をいきながらSM作家として第一人者となる。
 1989年に断筆宣言。その後、将棋ジャーナル社主となって将棋界とかかわる。花形棋士などと親交を深め、本書の主人公、アマ棋界の異端の強豪・小池重明と出会う。小池重明の死に際して、彼の生涯を書き留めることを決意。断筆後、じつに5年ぶりの書き下ろしとなる。

解説

  その夏のはじめ、天賦の才と破滅の運命に抱擁された伝説の男が死んだ。団氏の真摯な目は男の哀しみを見事にとらえている。 (伊集院 静)


 賭け将棋にめっぽう強く、新宿の“殺し屋”“プロキラー”とも呼ばれた。連続二期アマ名人となり、特例でプロ棋界入りの話も出たが、寸借詐欺事件を起こし、アマ・プロ棋界から追放された。女性関係にだらしなく、人妻との駆け落ち歴も三回。葬儀屋、運転手、土方稼業など職を転々とし、放浪癖と逃避癖は生涯抜けることがなかった。子供のころは貧民窟とバクチ場のなかで育った……
 真剣師小池重明とはこんな男だった。
 羽生七冠王をして「不可思議な魅力を感じた」「どう評価していいのかわからない」と言わしめた不世出の天才賭け将棋師、小池重明の放蕩無頼の一生を生前から彼と親交が深かった団鬼六が見事に描き出し、発表されるやいなや各方面から絶賛された傑作。“本の雑誌”がその年のベスト10に選出し、ある芸能人は“私の人生を変えた一冊”と語る。
 テレビ朝日の「驚きももの木20世紀」で取り上げられ、1997年4月に創刊された幻冬舎アウトロー文庫の第一回作品になるなど話題沸騰、映画化も決定したベストセラー、いよいよパピレスに登場!

目次

淋しい葬儀
馬と乗り手
遺言状
懺悔録
過去の不祥事
天分の芽生え
最初の真剣将棋
応援団
破門と退学
旅立ち
軌道修正
修業時代
帰郷
葬儀屋時代
駆け落ち行
新宿の殺し屋
大阪・通天閣の死闘
プロ狩り
アマ名人となる
再び全国制覇
栄光から破滅へ
土方ブルース
悪人・小池重明
果たし合い
将棋の化物
魔 剣
鳴 咽
最後の逃避行
最後の公式戦
真剣師・小池重明の死

付録 小池重明の遺書
あとがき

抄録

 女に別れ話をもち出されて昨夜、狂酔したため、まだ、頭がガンガン痛む。何度も繰り返してきたこの絶望感。そのたびに小池は痴呆状態に陥るのだが、今日はジャーナル誌にとっては久方振りのゴールデン企画、花形高段棋士森鶏二八段(棋聖挑戦者)に対するアマ名人小池重明との三番勝負である。小池は自分をここまで追い込んだ絶望感に対する恨みでも返すような気持ちで将棋会館へ向かった。
 途中で腹が減ったので飯を喰おうとしたが飯代がなかった。煙草を買うにも煙草代がなかった。ましてやその服装たるや、素足にサンダルばきである。
 ただ、今回は一番手直り、角落ちで勝てば次に香落ち、香落ちに勝てば次に平手、一局勝ち進むごとに一万円、二万円、四万円とジャーナルから出る賞金は倍増しになっていく。逆に負ければ飛車落ち、飛香落ちとなって五千円、そしてゼロになるという、いわば真剣師好みの賞金制になっていた。
 勝てば金が入って飯も喰える――こういう状況下におかれると飢えた狼は本性が剥(む)き出(だ)しになる。

 ――空腹を我慢して将棋会館に入ると、当日の立ち会い人であったジャーナルの編集長、湯川博士さんが素足ではまずいと思ったのか、素早く靴下を買ってきてくれました。おんぶにダッコだと甘えて煙草も買ってほしいとねだりました――

 一局目、角落ち。逆転で小池の勝ち。
 二局目、香落ち。小池の楽勝。
 三局目、平手。大逆転で小池の勝ち。
 すぐ後に棋聖となる天下の八段がアマ名人との指し込み三番勝負に連敗を喫すとは誰しも予測しなかったことだ。
 特に三局目の森対小池の平手戦は大逆転の名局として今でも語り伝えられている対局だが、アマ棋界はもちろん、プロ棋界にもこれは大きな衝撃を与えた。
 小池はプロ八段の棋聖挑戦者に平手で勝った嬉しさよりも、来るときは煙草銭もないオケラだったのが、三連勝の賞金七万円を手に入れたことのほうが嬉しかった。その七万円を懐にした小池はいそいそと自分を捨てた女を探しに夜の新宿へ戻っていった。

 ――将棋は勝ち続けるのですが、生活は借金地獄のままでした。各地に呼ばれて稽古料などは多少入りましたが、焼け石に水なのです。女ともうまくいかなくなって傷心のまま久方ぶりにアパートへ戻ると、待ち構えていたようにサラ金の取り立てが一日に何回も顔を出すのです。留守をしていたため、玄関にはサラ金の督促状が山のように積まれていました。電気代も滞っていてスイッチをひねっても電気もつかないし、電話も通じなくなっていました。家賃も数カ月分が溜まっていて家主から立退(たちの)き請求もきている状況でした。

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