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狼は星に吼える

狼は星に吼える


発行: キリック
シリーズ: 狼は星に吼える
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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解説

 都心のターミナル駅から電車で2時間弱のC地方。まわりを山々に囲まれたそこは、C盆地としても知られており、観音様の霊場で有名な三十四のお寺や、C神社、M神社、さらにはH神社と由緒ある神社仏閣が無数にあることから、関東の小旅行スポットにもなっている。物語は、そんなC地方の進学校に通う女子高生・大神皓夜《おおがみこうや》のクラスに、季節外れの転校生がやってくるところから始まる──。
 新しいクラスメイトの名前は浅瀬流《あさせりゅう》。彼は異性ならずとも振り返るような、非の打ちどころのない美男子だった。しかも学力優秀、スポーツ万能ということで、あっという間に女子たちを虜にしてしまう。皓夜に至っては、目が合うだけで体が火照り、彼に欲情しているのだと自覚していた。だが、その過剰な反応にはわけがあった。M神社の神使である狼の血族の末裔が大神家であり、皓夜の衝動は狼のヒート(発情期)に関係があったのだ。その使命は、C神社由来の化け物「オモイカネ」と「ウツロ」を生来敏感な鼻で嗅ぎ分け、狩ること。信じがたい事実を打ち明けられる中、皓夜は親しい男友達の明石から「両親が急に感情を持たないゾンビみたいになった」という話を聞く。心配して級友と彼の家の様子を見に行く皓夜。しかしその途中、自身の魂が拒絶するような強烈な悪臭に遭遇する。瞬時に「敵だ」と判断した彼女は、我を忘れて一人の中年女性に飛びかかろうした。それこそが宿敵「ウツロ」だとも知らずに……。

 古代の伝承にまつわる化け物とそれを狩る狼の血族、それを影から監視し処理している公安警察、その舞台裏で跳梁するおぞましい人外のモノたち。民俗学、UFO、地球外生命体……奇才・梅津裕一が放つ次世代カオスホラー!

目次

 第一部
 第二部
 第三部
 第四部
 第五部
 第六部

抄録

 最悪だ。
 ハンターが、いない。
 そして、あきらかに両親は、いま異常な状態にある。
 とりあえず保健所に電話してみた。
 まだハンターが処分されていない可能性があると思ったのだ。
 だが「お役所仕事」という言葉の意味を、初めて真は理解した。
 C地方の保健所は、平日の十七時十五分までしか電話での受け付けをしていない。
 真が電話をかけたときには、すでに十七時三十分を回っていた。十五分くらい遅れても平気だと思ったが、甘かった。
 すでに本日の業務が終了したというメッセージが流れてきたときは、怒りで頭の血が逆流したような気がしたほどだ。
 もっとも、公的機関が時間通り業務を終えるのは、よくよく考えれば当たり前のことである。
 ネットで調べてみたところ、殺処分が実際に行われるのにはだいたい三日ほどの猶予があるという。つまり明日、電話すればハンターは助かることになる。
 問題は両親が、たぶんハンターを再び引き取るつもりはない、ということだ。
 明石真はあくまで十七歳の高校生、つまりは未成年にすぎない。世間からみれば、まだ子供だ。
 未成年である以上、こういう場合、親権を持つ親の判断が優先されるだろう。
 だとすればどうするか。
 誰かにハンターを一時的に預かってもらうという手もあるが、そうなると登録などもまたいろいろと面倒だ。
 頭痛がしてきた。食欲もまったくない。考えるのは、ただハンターのことばかりだ。
 ハンターが家にやってきたのは、真が十歳のときだった。
 両親からの誕生日プレゼントだった。前から、犬を飼いたいと熱望していたのだ。
 以来、本当にハンターは家族の一員だった。
 真はハンターと一緒に成長していったようなものだ。
 性別はメスだったが、なんとなく自分の弟のような感じがしていた。
 一人っ子の真にとって新鮮な、素晴らしい驚きにあふれた日々だった。
 それから八年近くの月日が流れた。
 中型犬にとっての八年は、決して短い時間ではない。人間でいえば、ハンターはもう五十近いのではないだろうか。最近は体力も少し落ちてきたのを感じていたが、それでもまだしばらく生きるものだとばかり思っていた。
「くそっ……」
 あまりにも身近すぎて、自分がどれだけハンターを大切にしていたか気づかなかった。
 ここのところ受験勉強も忙しく、散歩をついサボってしまうこともあった。こんなことになるなら、といくら後悔しても後の祭りだった。
「大丈夫だ……まだ、処分されると決まったわけじゃない……」
 ふと、皓夜のことを思った。
 いったい、あいつはどうしてしまったのだろう。
 先ほどの皓夜の様子は、やはり普通ではなかった。浅瀬がいなかったら、どうなっていたかわからない。
 やっぱりあの二人はお似合いだよな、と思った。
 悔しいが、なにをやっても浅瀬に勝てる気がしない。そしてなぜか、それをすんなりと認めている自分がいる。
「そんなこと、考えている場合じゃねえだろうっ」
 また独り言がもれた。
 やはり情緒不安になっている。普段ならこれほど取り乱したりはしない。
 改めて、自らの置かれている状況の異様さについて考えた。
 街から犬が消えていき、人々はなにかに操られたようになっている。両親までもが、まったくの別人に変貌を遂げていた。
 気味が悪い、というレベルをはるかに超えている。
 「オモイカネ」とは、なんなのだろう。
 未知のウィルスなのか。あるいは、本当に宇宙生物なのか。
 いきなりこんなふざけた事件に巻き込まれるなど、二週間前は想像もしていなかった。
 日常というのは、案外、簡単に崩壊してしまうものなのだ。きちんとした大地を歩いていると思ったら、いきなり流砂にのみ込まれた。そんな感じだった。
 だが、その流砂があまりにも突拍子もないものだったから、どうにも現実感がない。
 いままで連綿と続いてきた日常が、気がつくと異界になっていた。たちの悪い夢でも見ているのではないかと疑いたかったが、それにしてはリアルすぎる。
「真、ご飯よ」
 なにかが煮える匂いがしたが、食欲がなかった。
 現実問題として、母の考えがまったくわからない。父に関しても同じことだが。
 台所から漂ってくる臭気が、妙に生臭いことに気づいた。
 血の匂いも混じっているように思える。
 母の行動は、最近、おかしい。いやな予感がした。
 本能が警告を発しはじめている。どっと全身の血管にアドレナリンがあふれ出していくのがわかった。
 自室を出ると、真はゆっくりと台所に向かった。
 ぎし、ぎし、と木の床の軋む音が鳴る。
 いつもの廊下だというのに、まったく見知らぬ家に入り込んでいるような、奇妙な錯覚にとらわれた。
 ひどい異臭がする。なにか肉が煮えているのは確かなのだが、かなりの臭みがある。
 あるいは、傷んだ肉でも買ってきたのだろうか。
 いや、ひょっとしたら毒でも盛ろうとしているのかもしれない。
 改めてぞっとした。
 もう、母は真の知っている母ではない。母の姿をした「別のなにか」だ。
 例の「人形つかい」の話ではないが、それこそ宇宙生物にでも乗っ取られているのではないか。
 それが本当なら、母の姿をしたモノからすれば、自分は「邪魔者」ということになる。
 そいつが邪魔者を排除しよう、と考えていたとしたら?
 料理に毒を盛って殺そうとする、というのもないとはいえない。
 警察がきて大事になるはずだが「もし警察もすでに奴らに乗っ取られていた」としたら、どうなる。
 緊張のあまり、喉がからからになってきた。
 自分は大馬鹿者だ。
 もちろんハンターも心配だが、それ以上に、自らの命のことも考えるべきだった。
 今晩は、誰か友達の家に泊めてもらうか。
 本当のことを言っても信じてもらえるとは思えないが、なにか適当な理由をつくれば一晩くらい泊めてくれそうな友達の心当たりもある。
 引き返そう。
 そう思っているのに、足が勝手に台所に向かう。
 なぜだ。まさか自分も乗っ取られたというのか。
 違う。これはたぶん、怖いもの見たさというやつだ。
 無意識のうちに「なにが煮られているか」すでに自分は察しているのではないだろうか。だから逆に、その「最悪の事態ではないことを確認するため」に、台所に行こうとしているのだ。
 頭で考えるよりも先に、体が動いていた。
 いつしか台所に足を踏み入れた。
「遅かったじゃない」
 母が平板な口調で言った。
 大きな土鍋で肉がぐつぐつと煮えている。
「今日はすき焼きよ」
 甘辛い匂いが吐き気のするような生ぐさい臭気と絡み合い、鼻孔に侵入してきた。
 食欲どころか、吐き気を誘うような、甘さと腐臭の交じり合った悪臭。
 たしかに、土鍋のなかでは肉が煮えていた。
 一見、しらたきや豆腐、白菜、しいたけといったごく普通の具材を使ったすき焼きにみえる。
 だが、鍋の表面では信じられないほどの大量のアクが泡のようになっていた。赤褐色をした、いままで見たことがないものだ。
「おいしいわよ、この肉」
 母がそういうと、小鉢に卵を入れて、肉を土鍋から取った。
 箸を使って、口元へと運んでいく。
 にちゃにちゃという、ガムでも噛んでいるような、粘ついた咀嚼《そしゃく》音が聞こえてきた。
「とってもおいしい……犬の肉って」
 母が言った。
 とたんに、全身の毛が逆だった。
 嘘に決まっている。これはなにかの冗談だ。
 犬を食べる文化は、韓国や中国にある。日本でも、昔は食べていたという話を聞いたこともある。
 だから、犬の肉を食べること自体はおかしくもなんでもないのだ、と別の自分が心のなかで告げていた。
 問題は、その犬の正体だ。
 そして真は見た。
 ステンレスキッチンの上に、どんと載せられた、ハンターの首を。
 目は白く濁っている。とてもあの元気だったハンターとは思えない。
 これは恐ろしく手のこんだジョークなのだ、と真は確信した。
 なぜなら、現実にこんなおぞましいことが起こるなどありえないからだ。
「おふくろ、よくそんな犬の頭の模型、見つけてきたな。すげーよく出来ているよ」
 あれは模型だ。毛並みの具合など、信じられないほど緻密に作り込まれている。ひょっとしたら、本物の犬の毛を植毛したのだろうか。
「なにを言っているの? あれはハンターの頭よ」
「はいはい、そういうことにしておくよ」
 真は笑った。どこか調子の狂った笑いだった。
 自分はひょっとすると、頭がおかしくなりかけているのかもしれない。
「本当においしいお肉……犬って、滋養強壮とかにもいいんですって」
 母はまたくちゃくちゃと汚らしい音をたてて肉を噛んだ。よほど、固いのだろう。
 犬を食べる国は野蛮だというのは間違いだ、と真は思う。
 たとえば日本人は鯨を食べる。それを、欧米人は野蛮人のすることだという。
 逆だ。他国の食文化を否定し、自分たちの文化だけが正しいと押し付けるほうが野蛮人なのだ。
 たとえば明治維新まで、日本人は牛を食べなかった。いまでは、和牛は世界一、美味だとされている。
 日本人は他国の食文化を否定しないということだ。
 だから犬を食べることを拒絶するのは、間違っている。
 本当はわかっていた。
 自分の脳内で、あまり巧妙とはいえない論理のすり替えが行われていることを。
 犬を食べるかどうか。そういった問題ではないのだ。
 重要なのは「いま土鍋で煮られているのが、家族同様に育ってきた愛犬ハンターの肉である」ということなのだ。
 それを意識した瞬間、真は絶叫した。

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