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人形たちのグロッタ

人形たちのグロッタ


発行: キリック
シリーズ: 人形たちのグロッタ
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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解説

 お嬢様の形代緋色は文字通り「人形のような」美少女だった。幼き頃より母親から「お人形さん」として扱われたことで、いつしか自分でもそう振る舞うようになり、高一となった今では周囲からほとんど敬遠される存在となっていた。そんな緋色のクラスにある日、驚くべき転校生がやってくる。名前は「フランソワ・瑠璃・ベルメール」。フランス人とのハーフらしいその少女は、緋色以上に「人形のような」完璧な美をそなえていた。しかも彼女には隣のクラスに編入された双子の兄がおり、すでに多くの女生徒たちを虜にしているとのことだった。普段から人形の美に憧れ、人形のふりをしてきた緋色。もしかしたら彼らは自分の同類なのかもしれない。そう思っていた矢先、近づいてきた瑠璃が驚愕の言葉を口にする。「あなたは本当は私たちと同じ人形でしょう?」。しかも、彼女の父親は球体人形作家であり、自分たち双子はその手によって生み出されたのだという。瑠璃に気に入られその家に招待された緋色は、そこで世にもおぞましい秘密を知ることになるのだが……。

 美しい人形に憧れた少女が足を踏み入れた狂気の世界とは……? 鬼才・梅津裕一が生と死、美と狂気の境界線を鮮烈に書く!

目次

 第一部
 第二部
 第三部
 第四部
 第五部
 第六部

抄録

 さすがに緋色は緊張していた。
 なにしろ、本物の人形作家の工房を見るのははじめてである。
「二人とも運がいいわよ。この工房を、お父様が人に見せるなんてことはまずないんだから」
 瑠璃が言った。
「まあ、工房に入るということは、私のいささか変わった人形の製法を知る、ということでもある。君たち二人とも、絶対に秘密は守ってもらえるだろうね」
 ベルメールは顔は笑っていたが、目は真剣なままだった。
「その約束を守ってくれるなら、いくらでも見ていってほしい。ただし、もし約束を破るならば……」
 にやっと、おかしな具合にベルメールの顔の筋肉が動かされた。
「君たちを、この工房で人形にしてあげるよ……」
「昔、人間を蝋人形にしてやる、みたいな歌、あったけどね」
 翡翠も愉しげだ。
「この場合は『お前を球体関節人形にしてやろうか』ってところだな」
 それは決して悪いことではないかもしれない、とどこかで考えている自分がいる。
 いつまでも美しい少女のまま、人形のままで時を過ごすのも悪くはないのではないか、とつい考えてしまうのだ。病的な思考だとはわかっているが。
「でも、緋色さんにそんなの、脅しとして通用するの?」
 瑠璃が苦笑した。
「だって緋色さんはとっくに……ねえ」
 彼女がなにを言いたいのかは理解できる。瑠璃はやはりこちらを「人形だとみなしている」のだ。
 薫子は少し怖くなったのか、怯えている。
「ははは。ちょっと脅かしすぎたかな。なに、要するに、この工房の秘密を、外にもらしてもらうと困るってことなんだよ。私の作る人形は、普通の球体関節人形とは作り方が違うからね。一種の、企業秘密みたいなもんだ」
「は、はい。約束します」
 やがて薫子が小さな声で答えた。
「絶対に、秘密はもらしません」
「その言葉が聞きたかったんだ」
 ベルメールを先頭にして、一同は歩き出した。
 屋敷の隅に、重厚な扉があった。金属製である。ベルメールは懐から取り出した鍵で、扉を開けた。
 ふと緋色は疑問に思った。
 こんな金属製の扉まで工房の入り口に用意しておくというのは、いささか異常ではないだろうか。製法を知られたくない、という気持ちはわかるが、少し大げさすぎる気もする。
 さらに気になったのは、それほどまでにして守りたい秘密を、自分たちのような高校生にあっさり見せる、という点だった。
 どうにもベルメールという男は、得体の知れないところがある。さすがにあの双子の父、といったところか。
 重い金属音をたてて、扉が開いた。
「階段になっているから、気をつけて」
 ベルメールに続いて、緋色も奥を覗き込んだが、たしかに地下へと階段が続いていた。
 上には、裸電球がぶら下がっている。なんとなく寒々しく、陰鬱な空間だ。見ているだけでざわりと鳥肌が立つ場所だった。
 どうやら工房は地下にあるらしい。
 ベルメールが、階段を下りていく。自分たちが冥府へ下っていくような、不吉な感じがした。
 やがてベルメールは、行き止まりに設けられた新たな金属製の扉の鍵を開けた。つまりここにくるまで、金属扉で二重に防護されていることになる。やはりなにかがおかしい。
 再び扉が開けられた。
 ベルメールが壁際をさわっている。どうやら、照明のスイッチを探しているようだ。
 次の瞬間、いきなり工房に光があふれ、緋色は絶句した。
 薫子も呆然としている。
 人形作家の工房なのだから、ある程度の予想はしていたが、ここまで迫力のあるところだとは思わなかった。
 工房の至るところに、バラバラにされた人体を思わせる人形のパーツがある。無数の腕や太股、足首から下や作りかけらしい顔、さらには胴といったものが転がっているのだ。
 果たして全部で何体分のパーツかはわからない。すべてを組み合わせたら十体くらい出来るのではないだろうか。
 そうした人の部品が雑然と並べられているさまは、やはり猟奇殺人犯のバラバラ死体コレクションめいたおぞましさがある。
 作業用の机の上に載せられたあまりにリアルな胴体などは、そのまま頭と手足を切断された本物の人間の死体、と言われても信じてしまいそうなほど真に迫っていた。
 人形も大量に集めると「怖い」と感じられることがある。
 しかし、ここにある「人形以前のモノ」もなかなかに不気味で、どこか陰惨さも感じさせた。
「ちょ、ちょっと……す、すごいですね」
 薫子は震えていた。あきらかに怯えている。
「まあ、慣れないとビビるよなあ」
 翡翠は平然としたものだった。
「最初はちょっと、刺激が強いかもしれないわね」
 瑠璃もやはり落ち着いたものだ。二人とも、この光景を見慣れているのだろう。おそらくは、幼いころから。
 いくつもの手。いくつもの脚。いくつもの胴体。
 そしていくつもの頭。
 まだ未完成の人形たち。いまだ生まれていないパーツの群れ。
 目眩がしてきた。
「おっと、緋色さん、大丈夫かな」
 ベルメールに体を支えられたが、ぞっとした。どういう理由かはわからないが、彼の手はひどく冷たかったのだ。
「ええ……もう大丈夫です」
「親父、さりげなく緋色さんに触ってんじゃねえよ。ったく、セクハラだ」
「そんなことはない。ははははは」
 翡翠とベルメールのやりとりですら、滑稽というよりは忌まわしく感じられる。
 大量の死体の前で殺人鬼たちが笑っているような、妙な違和感がする。
 落ち着け。これはただの人形だ。別に人間の死体というわけではない。
 ふいに、薫子が悲鳴をあげた。
「ひいいいいっ! あ、あれって……ほ、骨! 骨ですよねっ!」
 薫子が指を指したほうを見て、緋色も息をのんだ。
 どうみても人骨としか思えないものがいくつも並んでいる。
 大腿骨や肋骨、骨盤。脊椎。さらには見事な頭蓋骨もある。
「うん。あれは人間の骨だよ。私がさらってきて殺した女の子たちの」
 ベルメールの言葉に、呆然とした。
「そ、そんな……う、嘘ですよね! 嘘って言ってください!」
 薫子はパニックを起こしかけている。それは緋色にとっても同じことだ。
 いったい、このベルメールという人間はなんなのだ。まさか本当に人を……。

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