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心にささやいて【ハーレクインSP文庫版】

心にささやいて【ハーレクインSP文庫版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクインSP文庫
価格:400pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

 2年前、サスキアは夫ドメニコのもとから逃げ出した。いくら夫を愛していても、平凡な彼女にとって、イタリアの名家の妻という座は重圧でしかなかった。イギリスに帰り、園芸家となったサスキアは、庭園の見学のため思いきってヴェネツィアへ旅立つ。ミラノで暮らすドメニコとは、でくわす恐れはないだろう。ところが、オペラ鑑賞に出かけた劇場に、なんと彼がいたのだ!席は離れているのに、ドメニコの激しい怒りをひしひしと感じる。つかまったら、ただではすまない。サスキアの体に戦慄が走った。
*本書は、ハーレクイン文庫から既に配信されている作品のハーレクインSP文庫版となります。ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

 ドメニコが彼女を見下ろした。「家までかなりの石段を上ることになる。苔が生えていて滑りやすいから、気をつけるんだよ」
 ひび割れ、壊れた石段の両脇も、茂みが伸び放題に伸びていた。‘れんぎょう’はすでに黄色い蕾をつけ、木蓮はねじ曲がった枝に白い花を咲かせている。ドメニコは彼女の後ろに寄り添うように石段を上った。
 突然、茂みからサスキアに向かって大きな鳥が飛び出してきた。その羽が顔をかすめ、彼女は悲鳴をあげてのけぞった。ドメニコが素早く腕を回して、彼女を抱き止めた。一瞬、二人のバランスが崩れたが、彼はなんとか姿勢を立て直した。
「大丈夫かい?」
 サスキアの心臓は痛いほど轟いていた。息をするのもやっとだった。彼女はドメニコの体温を強く意識しながらうなずいた。彼の息も乱れていた。
 彼女の腰に腕を回したまま、ドメニコは最後の数段を上りきり、庭を横切る広い砂利道に入った。庭園は階段式になっていて、それぞれの段に幅の広い横道が通り、それと交差するように下から上へと石段が伸びている。だが、その構造も草木が伸び放題のせいで下からはわからず、上まで上ってようやくわかる状態だった。
 やっと上までたどり着くと、サスキアは目を伏せて、ドメニコの腕から逃れようともがいた。ドメニコは無言で彼女を引き寄せ、唇にキスしようとした。
「いやよ!」サスキアは顔をそむけた。
 ドメニコは彼女の顎をつまみ、強引に視線を合わせた。
 サスキアは怖かった。ドメニコの顔を見ることが。自分の表情を見られることが。彼女は目を閉じた。ドメニコの感情は心を読まなくてもわかる。彼の全身から伝わってくる。サスキアの体が熱くなった。乱れた脈の音が耳の中で激しく鳴り響いていた。
「僕を見るんだ!」ドメニコが彼女を揺さぶった。
 サスキアは目を開け、灰色の瞳を見て息をのんだ。唇がドメニコの唇でふさがれる。彼女の頭の中は真っ白になった。
 やがて、ドメニコが顔を上げた時、サスキアは子猫のように震えていた。彼の体にすがりつき、力が抜けそうな脚を支えなければならなかった。
 ドメニコの視線を避けるように、サスキアは彼のセーターに顔を埋め、ウールの粗い感触を強く意識した。自分が触れているもの、感じているもののすべてを痛いほど意識した。
 長い沈黙が続いた。
「なぜだ?」ドメニコが不意に口を開き、サスキアの腕をつかんだ。サスキアはびくっと目を開き、うろたえて彼を見上げた。
 ドメニコの顔にはどす黒い怒りが浮かんでいる。瞳はぎらぎらと光り、彼女を見据えていた。
「なぜだ?」彼はまた繰り返し、サスキアの体を前後に揺すった。「なぜ僕から逃げた? なぜあんな真似ができたんだ? あんな書き置きで僕が納得できるわけないだろう。もうここにはいられません、私を捜さないで、だと? 僕が捜さずにいると思ったのか? わかっていただろう、僕がどんな思いをするか。あんな形で家出されて、どれほどショックを受けるか。君のことが心配で眠れず、仕事も手につかなかったんだぞ。なぜだ、サスキア? なぜあんなことをしたんだ?」
 最初、サスキアは後悔にさいなまれ、うなだれて聞いていたが、徐々に怒りが込み上げてきた。家出した日の惨めで恐ろしい記憶がよみがえった。ドメニコは自分の気持ばかり問題にしている。少しは私の気持を考えたことがあるの? もちろん、ないわよね。ただ私を責めるだけ。なんでもすべて私のせい、それがドメニコの考え方なんだわ。
「なぜ家出したかですって?」サスキアはいらだった口調で切り返した。「それは、あなたと離れざるをえなかったからよ」
 ドメニコはみぞおちを殴られたような反応を見せた。顔から血の気が引き、荒々しく息を吸い込んだ。彼はサスキアから離した手をだらりとたらし、こぶしを握りしめた。
 私をぶつつもりなんだわ。サスキアは反射的にあとずさった。灰色の瞳には生々しく激しい感情があふれていた。
「なんだって?」ドメニコはようやくつぶやいた。「何が言いたい? いったいどういう意味だ?」
「あなたと離れるしかなかったのよ。あれ以上耐えられなかったの。だって、一緒にいられるわけないでしょう? あなたに責められていると……」サスキアの言葉がとぎれた。涙があふれそうになり、喉が詰まった。全身が激しく震えていた。
 ドメニコは厳しい表情で彼女に一歩詰め寄った。
 サスキアは手を上げて制した。「やめて……私に触らないで……。否定しても無駄よ。あなたは私を責めてた。私が転んで……流産を……事故を起こしたから。あの時、あなたは怒鳴ったわよね、私の不注意だって。庭で働いたりするからだって」
 ドメニコは真っ青になった。「そうじゃない、サスキア。僕は……君に怒鳴ったわけじゃない。確かにあの時は動転していたが……」


 *この続きは製品版でお楽しみください。

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