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グラスゴーでふたたび

グラスゴーでふたたび


発行: ハーレクイン
シリーズ: MIRA文庫
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

“あなたの花嫁になりたい”と初めて思ったのは、5歳の頃。19世紀のスコットランドを舞台に、切ない愛が再燃する。

19歳になったばかりのグリニスは舞踏会を抜け、控えの間でレノックスが来るのを待ち侘びていた。彼は兄の親友で幼い頃から憧れ続けた人。今夜大人びたドレスをまとってきたのも今日こそ想いを打ち明けるためだ。だがついに現れたレノックスの傍らには、正真正銘の大人のレディが仲睦まじく寄り添っていた。二人が将来を約束する仲と知り、打ちのめされたグリニスは逃げるようにイングランドへ。そして7年後――成熟したグリニスはついに故郷グラスゴーに戻ってきた。今や世界規模の造船会社経営者となったレノックスがいる地に。

■USAトゥデイやNYタイムズのベストセラーリストに名を連ねる新鋭作家がMIRA文庫に初登場。19世紀半ばのスコットランドを舞台に“成就しなかった初恋の相手との再会”を切なく描き上げます。ヒロインはかつてお転婆だったグリニス。兄の親友レノックスとの結婚を夢見ていましたが、彼の婚約の噂に打ちのめされ、故郷を離れることに。そこから運命の歯車が狂っていきます。7年ぶりに故郷の地を踏んだ彼女は、別人のような仮面をまとい…。少女時代が生き生きとした性格だっただけにその変化は胸にくるものがあります。発展著しいグラスゴーの社交界をみずみずしい筆致で描いている点にもご注目。ヒストリカルファン必読の一冊です!

抄録

「あなたに会いたかった」言うつもりのなかった言葉だった。それでも一度口に出すと、引き返すことはできなかった。
 グリニスは振り返り、影になったレノックスと向き合った。
「困難にぶつかると、いつも心の中であなたを思い浮かべていたわ。気づくと自問しているの。“レノックスなら、なんて助言をするかしら”って」
「子供の頃、君から助言なんて求められたかな」
 グリニスはほほ笑んだ。「求めていたわよ、あなたの知らないところでしょっちゅう。言わなかっただけ」
「どんな困難があったんだい、グリニス?」
 レノックスにこんな口調は使ってほしくなった。静かで、優しくて、まるでこの七年のグリニスの暮らしを本当に案じているような言い方。グリニス自身を案じているような言い方。
 自尊心が背筋を強ばらせ、涙の気配を消した。
「なんとかしなくちゃいけないの、レノックス。このままだと工場は閉鎖するしかなくなる。なんとかしないとダンカンが壊れてしまう」
「力になりたいとは何度も言った」レノックスが近づいた。「一度や二度じゃない」
 だめよ、近づきすぎ。グリニスは一歩後ずさった。
 以前はもっと勇気があったのに。キスをしたことだってある。何年間も忘れられないキスを。
 グリニスは自分に思いとどまる隙を与えず、衝動的にレノックスに近づいていた。彼の胸に手を当て、爪先立ちになって、唇を重ねる。レノックスの手が肘から肩へとはい上がり、背中を伝ってウエストで落ち着いた。
 喜びが瞬く間に広がり、気泡となって全身に満ちあふれた。体はもはや空気より軽かった。彼に地面につなぎ留められていなければ、ふわふわと飛んでいきそうだった。
 レノックスとのキスには何かしら自然の力を感じた。背中を支えて、ゆっくりと上下に動く彼の手が二つの事実を伝えている。彼に触れられると肌がぞくぞく震えること、喜びが欲望に置き換わること。
 ああ、あなたが愛しい。
 グリニスは彼の首に腕を巻きつけて、すがりついた。
 祖先たちとはまだそう遠く離れていなかった。ほんの数世代前なら、グリニスも格子柄のスカートをはき、布の合わせ目を|氏族《クラン》の紋の入ったブローチで留めていただろう。強くて大胆で誇り高かったその時代の女なら、これぞと思った相手には目で気持ちを伝えただろう。誰にも屈しない男でも、そんな女には屈したかもしれない。
 けれどグリニスはハイランドの女ではない。それどころか、この騒がしい産業都市にも戻ってきたばかりだ。コルセットで体を締めつけ、さらにその体を揺れるフープと折り重なる生地で守っている。しかもその生地もほとんどがタータンとは似ても似つかないシルク。まさに文明社会で生きる文明人。たとえそれにうんざりするときがあるとしても。
 レノックスもまた同じく十九世紀に生きる人間そのもの。でもこの瞬間は彼もグリニスと同じように、何にも縛られず自然のままの自分をさらけ出していた。
 レノックスの唇は固くて柔らかかった。グリニスは舌でその下唇をなぞり、反応を誘った。レノックスの腕に力がこもった。グリニスの胸を自分の胸に押し当てるようにきつく抱きしめる。口も熱気を帯び、舌を絡ませる。グリニスの瞼の奥で星がきらめいた。
 体が溶けていくようだった。言葉で言い表せないほど心地よくて、この瞬間がずっと続いてほしかった。
 グリニスは両手を彼の頬に当てた。肌は温かく、生えかけの髭が手のひらをざらりとかすめた。前に彼とキスをして以来、それが一生の宝物だった。でもそれも今のキスと比べれば、なんて色褪せて思えることか。
 彼が指を背筋に伝わせながら、キスを深めた。グリニスは首の角度を変え、口を開いて彼を味わった。舌を絡ませながら、彼の歯に下唇をついばまれながら、彼の息を吸った。
 そしてついに唇が離れるときが来た。
 グリニスは瞼を開き、自分が両手をレノックスの首に巻きつけ、さらに開いた指を髪に絡ませていることに気づいて、どきりとした。彼も同じように息を弾ませている。
 いったい何をしたの?
 言葉にしなくても、これではあからさますぎる。
 グリニスは両手を落として、後ずさった。
 この七年で多くのことが変わった。今のグリニスには感情を隠すことなどお手のものだ。緊迫した場所を冷静に離れる術も身につけた。瞬間的な衝撃から立ち直り、それを笑みに融合させる訓練も積んだ。
 倒錯した性癖を持つ男と結婚し、陰謀渦巻く街で、しくじるのを今か今かと待たれる環境で過ごしてきた。でもグリニスはしくじらなかった。権力や影響力を持つ男女を魅了し、喜ばせ、丸め込んできた。
 レノックス・キャメロンぐらい、どうってことないはず。
「来るべきじゃなかったわ」ありがたいことに、声は穏やかだった。キスをするべきじゃなかった。誘惑に屈するべきじゃなかった。
 グリニスは振り向くことなく踵を返し、その場をあとにした。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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