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和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ティーンズラブ小説

解説
森で盗賊に襲われたユーディスを助けた、黒髪で長身の男。その傲慢な態度に反発を覚え、お礼を言わずじまいに。しかし時をおかずふたりは再会する。グリフォと名乗る男は謎だらけだが、食事の世話をしたり一緒に薬草摘みにいくうちに惹かれていくユーディス。新王の戴冠式の夜、思いを込めてクッキーを贈るユーディスをダンスに誘うグリフォ。ふたりは口付けを交わし……「なにをして欲しい?」「……いじわる……言わないで」。ユーディスの初めての恋。でもそれは、許されない関係だった!?
※こちらの作品にはイラストが収録されています。
尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。
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抄録
なんでこんなことに。
ユーディスは不思議でならなかった。
命の恩人には違いないが、決して親しいとか、友達とか、そんな仲ではないはずだ。なのに、どうして、一緒に肩を並ばせて歩いているのだろう。
男の人、しかも自分よりもはるかに大人の。それも森の中。
二人きり。
「で、また森の向こうに行くのか?」
「あ、いえ、そこまでは。あ、あの、こっち、です」
しどろもどろになりながら、ユーディスは道から外れて、小川に添って歩いた。
気持ちのいいせせらぎを聞きながら川を遡っていく。
「こんな薄暗い中を一人で歩こうなんて、賊が出たらどうするつもりだったんだ」
「それは大丈夫です。悪い人は、道を通る人しか気にしませんから」
賊が狙うのは主に荷物だ。しかも暗い夜道ならともかく今は日中。馬も通れない場所で賊に出くわすことはない。
「…………もしかして、自分が女だってことを忘れているのではないか?」
ドキン、ユーディスの胸に鋭い痛みが走った。今朝のご隠居さまといい、グリフォといい、なにを言い出すのだろう。いくらエレイン祭が近いからって……。
エレイン祭。またユーディスの胸が痛くなった。
こんなに胸が痛くなるなんて病気かもしれない。
ユーディスは足を速め、目的地へ急いだ。
目的地は小川を遡り、傾斜を上った岩の上にある。もうすぐだ。スカートの裾を上げ、上っていく。
「ここです」
目の前に広がる光景にグリフォはヒュウッと口笛を鳴らした。
「すごいな、ここは」
視線の先には野花が咲く花畑が広がっていた。小さな小さな草原。そんな感じだ。
「素敵でしょう? 珍しいハーブもあるんですよ」
「よく来るのか?」
「たまに。摘みたてのハーブは香りがいいのですけど、あまり暇がなくて」
岩の上にあるこの場所は、明るくて、見晴らしがよくて、心地いい風が吹く。ここに来るとわけもなく楽しくなる。さっきまでドギマギと不規則な鼓動を叩いていた心臓もこの場所に来れば元通りだ。
「あ、でも、叔母さんやご隠居さまには内緒にしてくださいね。森に出入りをしているなんて知ったら、大目玉だわ」
「…………それでも来るのか? 怒られても」
「私は王都の生まれではないから、最初のうちは慣れなくて。本当は森の中の方が落ち着くの。あっ! これも言っちゃダメですよ? 叔母さんをガッカリさせてしまうから」
「ああ」
グリフォは笑いながら、草の上にゴロンと横になった。
ローズマリー、コンフリー、ヤロウ、オレガノ、フェンネル。
草をかき分けながら探しだし、それをカゴに入れていく。探すのが楽しくて、見つかるのが嬉しくて、ユーディスは夢中になった。カゴが半分まで埋まったところで、あまりにも静かなことに気が付いた。もしかして退屈すぎて帰ってしまったのだろうか。
「……グリフォ?」
返事はない。
立ち上がって周りを見渡してみると、草が陥没している場所を見つけた。
(……寝てる?)
ゆっくりゆっくりと近づいてみる。寝息に草を揺らすグリフォは起きそうもない。もう少し近づいてみる。やはり身動きすらしない。
初めてみる男の人の寝顔だった。目を開けている時は、背が高いこともあって圧倒するような迫力があるのに、寝顔は子供のようにあどけない。
(不思議、本当に不思議な人)
変わってて、面白くて、怖くて、そしてかわいい。
触れたいと思うなんてどうかしてる。
気が付けば、ご隠居さまの家にいた時に感じた穴の開いたようなモヤモヤはきれいさっぱり消えていた。
(起こしちゃ、かわいそうだわ)
立ち上がろうとした、その時。
シュルシュルシュル。足元の草が揺れた。
「きゃあっ!」
「なにっ」
悲鳴をあげた時には、太い腕に抱きとめられていた。あの時、夜盗に襲われた、あの時と同じに。
「へっ、へっ、へっ、へっ、へっ」
声が出てこない。
「だから、なんだって!」
「ベ、ビ…………ヘビッ」
どうにか叫ぶと、ユーディスはグリフォの懐の中に逃げ込んだ。
「ヘビ?」
「そこっ」
ガサガサ動く場所を指さすとプッと笑い声が聞こえてきた。
「なんだ、アオダイショウじゃないか。あんなので驚くなんて。田舎育ちじゃなかったのか?」
「それはそれなの。嫌なの、長いの、嫌いなの」
「他愛もない。ほら、ユーディスが騒ぐから逃げていったよ」
ヘビが消えてもグリフォは腕を振りほどかなかった。子供をあやすようにゆっくりと左右に揺らして声をあげて笑っている。
「そんなに……笑うこと……」
恥ずかしくて、腹がたって、声を震わせても、グリフォは笑うことをやめなかった。ユーディスを抱きしめたまま、ずっと。
*この続きは製品版でお楽しみください。
ユーディスは不思議でならなかった。
命の恩人には違いないが、決して親しいとか、友達とか、そんな仲ではないはずだ。なのに、どうして、一緒に肩を並ばせて歩いているのだろう。
男の人、しかも自分よりもはるかに大人の。それも森の中。
二人きり。
「で、また森の向こうに行くのか?」
「あ、いえ、そこまでは。あ、あの、こっち、です」
しどろもどろになりながら、ユーディスは道から外れて、小川に添って歩いた。
気持ちのいいせせらぎを聞きながら川を遡っていく。
「こんな薄暗い中を一人で歩こうなんて、賊が出たらどうするつもりだったんだ」
「それは大丈夫です。悪い人は、道を通る人しか気にしませんから」
賊が狙うのは主に荷物だ。しかも暗い夜道ならともかく今は日中。馬も通れない場所で賊に出くわすことはない。
「…………もしかして、自分が女だってことを忘れているのではないか?」
ドキン、ユーディスの胸に鋭い痛みが走った。今朝のご隠居さまといい、グリフォといい、なにを言い出すのだろう。いくらエレイン祭が近いからって……。
エレイン祭。またユーディスの胸が痛くなった。
こんなに胸が痛くなるなんて病気かもしれない。
ユーディスは足を速め、目的地へ急いだ。
目的地は小川を遡り、傾斜を上った岩の上にある。もうすぐだ。スカートの裾を上げ、上っていく。
「ここです」
目の前に広がる光景にグリフォはヒュウッと口笛を鳴らした。
「すごいな、ここは」
視線の先には野花が咲く花畑が広がっていた。小さな小さな草原。そんな感じだ。
「素敵でしょう? 珍しいハーブもあるんですよ」
「よく来るのか?」
「たまに。摘みたてのハーブは香りがいいのですけど、あまり暇がなくて」
岩の上にあるこの場所は、明るくて、見晴らしがよくて、心地いい風が吹く。ここに来るとわけもなく楽しくなる。さっきまでドギマギと不規則な鼓動を叩いていた心臓もこの場所に来れば元通りだ。
「あ、でも、叔母さんやご隠居さまには内緒にしてくださいね。森に出入りをしているなんて知ったら、大目玉だわ」
「…………それでも来るのか? 怒られても」
「私は王都の生まれではないから、最初のうちは慣れなくて。本当は森の中の方が落ち着くの。あっ! これも言っちゃダメですよ? 叔母さんをガッカリさせてしまうから」
「ああ」
グリフォは笑いながら、草の上にゴロンと横になった。
ローズマリー、コンフリー、ヤロウ、オレガノ、フェンネル。
草をかき分けながら探しだし、それをカゴに入れていく。探すのが楽しくて、見つかるのが嬉しくて、ユーディスは夢中になった。カゴが半分まで埋まったところで、あまりにも静かなことに気が付いた。もしかして退屈すぎて帰ってしまったのだろうか。
「……グリフォ?」
返事はない。
立ち上がって周りを見渡してみると、草が陥没している場所を見つけた。
(……寝てる?)
ゆっくりゆっくりと近づいてみる。寝息に草を揺らすグリフォは起きそうもない。もう少し近づいてみる。やはり身動きすらしない。
初めてみる男の人の寝顔だった。目を開けている時は、背が高いこともあって圧倒するような迫力があるのに、寝顔は子供のようにあどけない。
(不思議、本当に不思議な人)
変わってて、面白くて、怖くて、そしてかわいい。
触れたいと思うなんてどうかしてる。
気が付けば、ご隠居さまの家にいた時に感じた穴の開いたようなモヤモヤはきれいさっぱり消えていた。
(起こしちゃ、かわいそうだわ)
立ち上がろうとした、その時。
シュルシュルシュル。足元の草が揺れた。
「きゃあっ!」
「なにっ」
悲鳴をあげた時には、太い腕に抱きとめられていた。あの時、夜盗に襲われた、あの時と同じに。
「へっ、へっ、へっ、へっ、へっ」
声が出てこない。
「だから、なんだって!」
「ベ、ビ…………ヘビッ」
どうにか叫ぶと、ユーディスはグリフォの懐の中に逃げ込んだ。
「ヘビ?」
「そこっ」
ガサガサ動く場所を指さすとプッと笑い声が聞こえてきた。
「なんだ、アオダイショウじゃないか。あんなので驚くなんて。田舎育ちじゃなかったのか?」
「それはそれなの。嫌なの、長いの、嫌いなの」
「他愛もない。ほら、ユーディスが騒ぐから逃げていったよ」
ヘビが消えてもグリフォは腕を振りほどかなかった。子供をあやすようにゆっくりと左右に揺らして声をあげて笑っている。
「そんなに……笑うこと……」
恥ずかしくて、腹がたって、声を震わせても、グリフォは笑うことをやめなかった。ユーディスを抱きしめたまま、ずっと。
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