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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル

イタリア貴族と飛べない小鳥

イタリア貴族と飛べない小鳥


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 マーガリート・ケイ(Marguerite Kaye)
 スコットランドに生まれ育つ。グラスゴー大学で法律を学んだが、卒業後は異分野に進み、仕事の傍ら通信制大学で歴史の造詣を深めた。9歳にして詩作コンテストで優勝した才能は、のちに大好きなヒストリカル小説の執筆に発揮され、ミルズ&ブーンからデビュー作が出版された。

解説

「きみは最高にきれいだ」彼は本気でそう言っているの?

社交界にデビューして数年になる伯爵令嬢のクレッシーは、いつまでたっても嫁ぎ先が決まらず、肩身の狭い日々を送っている。5人姉妹の中でいちばん不器量なわたし。一生花嫁にはなれないのかしら? そんなある日、娘を政略結婚の駒としか考えていない父親から、とどめを刺すような命令が飛んできた。“今年はもう社交界に顔を出さず、弟たちの家庭教師をしろ”しかたなくやってきた田舎の屋敷で顔を合わせたのは、信じられないほど美しい男性、ジョヴァンニ・ディ・マッテオ。クレッシーは熱い視線を送ってくる彼に戸惑いながらも魅せられる。彼が身分を偽って英国に来たイタリアの伯爵家の御曹司だとは思わずに。

■瞬く間にヒストリカル・スペシャルの人気作家となったM・ケイ。屋根裏部屋で繰り広げられる官能の世界――作家得意の耽美ロマンスをご堪能ください。ヒロインは、『アラビアのプリンスと私』で脇を固めていたアームストロング家の三女クレッシーです。

抄録

「美はあらゆるものの中にある。見つけ方を知らない人間が多いだけだ」
 近くに立たれて、クレッシーは落ち着かなかった。真剣に考え込む彼がすぐそこにいる。移動してもらおうと立ち上がると、腕をつかまれた。日に焼けた長い指。絵の具はついていないと、頭の隅でぼんやりと意識した。クレッシーの背丈は、頭が彼の広い肩にぎりぎり届くくらいだ。この近さで立っていると、しなやかな外見の下のたくましい筋肉が、はっきりと感じられた。彼女の呼吸は乱れた。頬が熱いのは、困惑しているせいだ。礼儀がまるでなっていない。「何をなさるの? 手を放して」
 彼は動じず、それどころか、クレッシーの顎をぐいと上向かせて、射るような目でのぞき込んだ。逃げるのはたやすいけれど、そうする気は起きない。
「まったくだ」柔らかな声で言う。「鼻筋がまっすぐではない。ゆえに対称性が失われている」
 クレッシーは彼をにらんだ。「知っているわ」
「それから、この目だ。あいだが離れすぎていて、口とのバランスが悪い。パチョーリの求めるような調和がとれていない」
 その言葉をなぞるように、長い指が動いた。彼の瞳は端のほうが金色だ。まつげは黒くて量が多い。肌に触れられていると、クレッシーはなんだか妙な気分になってきた。神経が過敏になり、高ぶっている。彼はわたしを誘惑しているの? ありえない。侮辱されたと思って仕返しをしているだけだ。「そうよ。耳だって、鼻と一直線に並んではいない。顎から額の比率もおかしいでしょう」現実とは裏腹の無頓着を装う。「この口だって……」
「この口だって?」
 シニョール・ディ・マッテオの指が下唇をなぞった。その指を口に入れたいという、なんともばかばかしい衝動を覚えた。ざらついた低い声が、イタリア語で何かを言った。彼の手が顎を包んだ。彼の顔が下りてくる。キスをするつもりなのだ。
 クレッシーは胸が苦しくなってきた。このままでは、本当にキスをされてしまう。逃げるつもりでふくらはぎに力を入れたけれど、体は動かなかった。彼の手が顎をすべり、髪をもてあそぶ。それを見つめながら、早く逃げなければとあせっている。いっぽうで、均整のとれた完璧な彼の顔に見とれてしまっている自分もいる。やらせておけばいい、とクレッシーは思った。キスをしたければどうぞ。できるものならしてみなさい!
 唇が重なる寸前で、彼はいっとき動きを止めた。そのあいだにクレッシーは甘い予感を抱き、頭の中で想像した。今屈したらどうなるだろう? 彼の衝動を解き放ったらどうなるだろう? その時間はまた、クレッシーが正気に立ち返る時間でもあった。
 クレッシーはぐいと身をよじった。「よくも、こんなことを!」自分の耳にも、説得力のない言葉に聞こえた。荒い呼吸を整えながら、頬のほてり――もちろん屈辱から来るほてりだけれど――そこに彼の目が行かないことを祈る。ずうずうしい男! 見るからに魅力たっぷりで、彼自身それを充分に自覚している。しかもイタリア人だ。イタリアの男性が熱い衝動を抑えられないことは、よく知られている。信憑性のない陳腐な認識だと思っていたけれど、そうではなかったことがはっきりした。「さっきの話に戻らせて。わたしの口は、美人と言うには大きすぎるわ」冷静な声が出たのでほっとした。
「レディ・クレシダ、美しさというのは、釣り合いの中にだけあるものじゃない。ぼくから言わせれば、きみの口はとても美しいよ」
 ジョヴァンニ・ディ・マッテオは少しも自分を恥じていない。
「キスをするなんてひどいわ」クレッシーは言った。
「キスはしていない。きみのほうこそ、ぼくの仕事にけちをつけてきた。見もしないうちにだ」
「無知な父といっしょにしないで。わたしはしっかり観察したの。それに、けちなんてつけていないわ! こう指摘しただけよ。あなたは……あなたの絵は……芸術はみんな……」
「突きつめれば、一連の原理と法則に集約される。ちゃんと聞いていたんだ」口をゆがめたジョヴァンニは強い不安にとらわれていた。
 型にはまらないこの女性は、驚くべきことに、彼自身の不満の根源にせまってきた。その昔、面白いものを作り出したいという単純な動機だけで絵を描いていた時代には、カンバスと絵筆とパレット、血と肌と骨がはっきりわかるほどひとつにつながっていて、絵を描くのは心であって頭ではなかった。そんな彼の姿勢を、専門家と呼ばれる人たちは、ただ笑った。考えが甘い。感傷的だ。修行が足りない。技巧が稚拙だ。そんな言葉がジョヴァンニの心に深く突き刺さった。ジョヴァンニは技術を磨くことを覚え、自分の絵からいっさいの感情を排除した。魂がなくなったように見えた絵も、世間的には大きな評判になった。専門家が絶賛し、貴族や有力者たちから注文が入るようになった。以来、自分は彼らの期待に応える道を歩んでいる。
 ジョヴァンニはお辞儀をした。「話ができて楽しかったよ、レディ・クレシダ。名残惜しいが、顧客の姿を絵にとどめる退屈な仕事が待っている。ここで失礼させてもらうよ」
 ジョヴァンニは彼女の手をとり、唇に近づけた。指先にキスをしたその瞬間、ぴりぴりとした感覚が全身に走った。彼女の驚いた表情からして、それを感じたのはジョヴァンニだけではなかったようだ。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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