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D−邪王星団2 〜吸血鬼ハンター12

D−邪王星団2 〜吸血鬼ハンター12

著: 菊地秀行
発行: 朝日新聞社
シリーズ: 吸血鬼ハンター
価格:525円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 菊地 秀行(きくち ひでゆき)
 1949〜
 千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。1982年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。1985年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。

解説

 ガリオンの谷間でDを待ち受けていたのは、五千年の眠りから醒めた反陽子コンピュータ“シグマ”だった。Dはシグマが生み出す幻覚攻撃に耐えて人質の兄妹を救出するが、ブロージュ伯爵を失い、ミランダ公爵夫人も行方不明のままに終わる。兄妹を守って『砦』に向かう孤高のDに、シグマが生み出す新たなる刺客と、生き残ったヴァルキュアの七人が渾然一体となって襲いかかった。

目次

第一章 ヤノシュの歌姫
第二章 ガリオンの谷間
第三章 ラージンの武器番
第四章 敵と味方と
第五章 神祖の技術
第六章 ラモアの砦
第七章 サイバー・アサシン
あとがき

抄録

 巨大な氷柱《つらら》にも似た外見には傷ひとつない。高さ一〇〇メートル、キュリオが立つ基礎部分の直径は三〇〇メートルにも及ぶ巨大なコンピュータ。かつて“シグマ”の名で呼ばれたそれは、貴族がついに造り出した“神”として、ここ、ガリオンの谷間に君臨していたのであった。
 いまは防御機構も失われ、廃棄されてから数千年の埃が溜まって灰色を呈しているが、その偉容と機械ならぬ迫力は、いささかも減じていない。見上げるうちに貴族といえど鳥肌が立つといわれた迫力は、機械とはいえ、支配者だけが持つものだ。
 そんな神聖とさえ呼べるメカニズムの前で、キュリオは何をしているのか?
 彼はつぶやいているのではなかった。
 耳を澄ませばわかる。
 彼はささやいているのであった。
「眼を醒ましなされ。それが、あなたの使命でございます。この谷間にかけられた五千年の眠りの呪縛から、いま甦りなされ。それが、あなたの使命でございます」
 エネルギーも尽きたのか、もはや動かぬメカニズムへ、キュリオの言葉は蜒蜿とつづく。諭すように、力強く、辛抱強く。
 ああ、説教師の由来はこれか。夜明けからすでに七時間以上、彼は壮大な廃墟の一隅で、大コンピュータに復活を説いているのだ。飽きもせず、繰り返し繰り返し、眼醒めの必要性と正当さを。死んだ無機物に聞く耳が、理解力が備わっているかなど問題ではないという風に。汗にまみれた疲労の色濃い顔には、諦めも絶望もなかった。
「敵が来ます。あなたと我々とを破壊するために。この私ですらはじめて遭遇する恐ろしい敵です。あなたを救い、私たちをお救い下さるためにも、お眼醒め下さいませ」
 ちょうど千回めの祈りを唱え終えようとしたとき、重々しい響きがドームを震わせた。
 愕然とキュリオは身を離し、“シグマ”の頂きへ眼をやった。
「おお、ついに――これで谷間が甦る」
 その顔を光が白く染め、床にその影を長く落とした。
“シグマ”の全身がかがやきはじめたのだ。
 何処かで何かが動く気配。
 反陽子炉だ。
 防御機構だ。
 宇宙線分析回路だ。
 それから――それから――
 数分後、キュリオは身を翻した。斃すべき敵のデータは、知る限りを吹き込んであった。人質兄妹の処置も済んだ。後は“シグマ”と、その支配を受ける谷間にまかせればよい。だが、その結果は?
 スピイネは脱出し、自分も全力で逃亡に移っている。なぜなら――
 いつの間にか彼は金属の道を走っていた。頭上には雲ひとつない晴天が広がっている。
 左右に建ち並ぶ建造物はすべて、誕生のときと寸分変わらぬ姿を留めていた。それは、これらが貴族の生活とは無縁の証しだった。
 工場その他の生産施設に対し、貴族たちはその科学の粋を集めて、永久化を施した。工場の骨組みは絶対金属であり、錆びも腐りもしないそれらが支えるおびただしい量の資材や部品には、ことごとく永劫《エターナル》コーティングが施され、その効果を最大限に発揮すべく腐食せざるを得ない部品には、それぞれ修理プラントが設けられた。
 これに対して、貴族たちの夜を彩る庭園や家々、別荘、馬車等は平凡な自然の創造物――石や木や黄金から造られ、永劫の生命を持つ一族たちの、奇妙な性向と強迫観念めいた憧憬とを如実に示していた。滅びぬものは、滅びを望むのだろうか。
 走るキュリオを、四方から押し寄せる光の奔流が白く染めた。
 陽光さえ色褪せる光は、谷間の復活の証しだった。
 靴底から地震のごとき唸りが伝わり、空気中のイオンが稲妻のように肌を刺す。――ひょっとして、自分はとんでもないことをしてしまったのではないか。
 恐怖にも似た思いが胸をかすめた。
 ガリオンの谷間――ここで何が行われたのかは、ヴァルキュア様も教えては下さらなんだ。あの方の考えは我らには到底理解できぬ。この星を破壊することとて、気まぐれでやりかねぬ御方だ。
 あの方はただこう言われた。Dを斃すためにガリオンの谷を使え。“シグマ”に抹殺を命じろ、と。
 突如、キュリオは足を止めた。
 光る道の前方に、二つの影が現われたのである。
 前からずっとそこに立っていたのか。いや、その先にある谷間の入口からやって来たのには違いないが、キュリオの眼には、世にも美しいその姿が、長い長い間、そこに立ちつづけていたように思われてならなかった。


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