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D−邪王星団4 〜吸血鬼ハンター12

D−邪王星団4 〜吸血鬼ハンター12

著: 菊地秀行
発行: 朝日新聞社
シリーズ: 吸血鬼ハンター
価格:525円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 菊地 秀行(きくち ひでゆき)
 1949〜
 千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。1982年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。1985年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。

解説

 初めて本格的に刃を交えたとき、ヴァルキュアはDを異空間に送り込み、その力を見極めようとした。五千年前、宇宙に放逐されたこの“絶対貴族”の想いは、いまや己れの操り人形と化したマシューとスー、そして致命傷を負わせた二人の貴族への復讐よりも、Dと、Dをこの世に送り出したものの方へ向けられているようであった。“神祖”の痕跡が刻み込まれた黒き鋼の大地で、最後の壮絶にして奇怪な戦いが始まった。

目次

第一章 魔城幽囚
第二章 歌姫の魔手
第三章 新たなる死影
第四章 三位一体説
第五章 アカシア記録の果てに
第六章 月下戦場
第七章 絶対貴族
あとがき

抄録

 ――このわしも。
 ヴァルキュアは何を言おうとしたのか。その想いを誰も理解し得ぬうちに、頭上を黒い美影身が飾った。
 死を与えるべき者の精神《こころ》など、この若者は斟酌しない。
 風を巻き、その風さえ断って打ち下ろされる刃の凄まじさ。
 夜をも白日に変える火花を上げて受け止めたのは、“絶対貴族”ただひとり。
 しかし、見よ。Dの剣とヴァルキュアの長剣――どちらもどちらを捩じ伏せられず跳ねられず、だが、舞い降りた途端、Dのしなやかな身体は盤石の重みを備えたかのように、“絶対貴族”の片膝を地につかせていた。
 右手のみで保持した一刀が、徐々に徐々に圧倒的な力でもって、ヴァルキュアの長剣を押しひしいでいく。
 だが、十文字に噛み合わさった刀身の下で、“絶対貴族”はにやりと笑った。口が耳まで裂けたかのような、邪悪な笑みであった。
「柄にもなく、このわしが想いにふけったか。――力でわしに片膝をつかせたのは、Dよ、おまえがはじめてだ」
 笑みは深くなった。
 刀身の動きが止まった。
「そして――最後だ!」
 ぐん、と跳ね上がったのは長剣のみにあらず、仁王立ちになったヴァルキュアを、Dは跳ねとばされる空中で認めた。“絶対貴族”の力とは、これほどのものなのか。
 だが――着地と同時に黒衣の姿は疾《はし》った。
 胸もとへ吸い込まれる必殺の突きを、ヴァルキュアの剣が跳ね返し、しかし、体勢も崩れぬDの第二撃――横殴りの一刀は、これも受け止められながら、“絶対貴族”を大きくよろめかせた。
 新たな突きから、飛燕《ひえん》のごとく跳んで逃げたのはヴァルキュアの方であった。黄金のガウンが慈しむようにその身体にまつわる。
 彼はひとつ肩で息をした。
「――やはり、このヴァルキュアの城へとひとり入城し得た男だけのことはある。神祖も満足であったろう。わしもまだ本気になれずにおる。Dよ――わしの目的の成就は別の場所で見るがよい。我らの決着は、その後だ」
 言うなり、彼は後退した。
 Dはこれも足音ひとつたてずに後を追う。
 ヴァルキュアは移動しつつ両眼を閉じた。
「我が妖剣“グレンキャリバー”よ。おまえにふさわしい相手の血を見ずに、いま別の世界へ送る。刃よ、その‘とば口’を造れ」
 念じるようにつぶやくと、彼は右手の剣をはっしと打ち下ろした。
「いかん――下がれ!」
 嗄れ声の叫びは水のごとく‘前方’へ流れた。
 Dの身体もまた。
 次の瞬間、ごおとどよめく風たちの唸りに巻き込まれるかのごとく、黒衣の姿は何もない空間に呑み込まれたのである。
“グレンキャリバー”の切り裂いた空間へ。
 ごおごおと呑み込まれていく風の怒号を熟眠《うまい》のための歌声のように聴きながら、ヴァルキュアはもう一度、長剣をふりかぶった。
「放っておけば、この世の空気はすべて吸引されてしまうでな。Dよ、次に会うまで生きておれ」
 彼は切った。正確に同じ空間《ばしょ》を。一撃目は切断、二撃目は封印――風はぴたりと熄《や》んだ。
 そして、片頬に凄絶な微笑を刻んだ“絶対貴族”ローレンス・ヴァルキュアをのみそこに残して、鋼の世界を巡る風は、生ける死者の勝ちどきを伝えんものと、声を限りに吹きつのるのであった。

 スーがマシューの部屋を出たのは、一〇分ほどしてからだった。
 部屋の中で何があったのか、何を見たのか。スーは悲鳴を上げた。その表情は、しかし、疲労の翳を恐怖の名残というに留めて、どこか恍惚とゆるんでいるではないか。
「わかったかい、スー? おれのいた場所がどんなところか?」
 マシューの口調は穏やかだが、眼は妖しく燃えている。期待の炎だ。燃料は危険な自信だった。
 スーはかぶりをふった。淫らな色は消えていた。
「あんなこと……いけない。貴族の力を身につけさせてやるなんて……甘いことをささやかれて……駄目よ、兄さん……いけないわ」
「精神《こころ》はそう言っていないよ、スー」
 マシューは不気味に笑った。声を荒げようともしない。穏やかなだけに、不気味さは一層、際立っていた。
「……駄目よ……マシュー……もう、あたしに、あんなもの、見せないで」
「いいや、明日も見るんだ。そして、理解しなくちゃならない。ヴァルキュア様が与えてくれるおれたちの運命を」
 彼は妹の顎に手をかけて上向かせた。スーは逆らわなかった。
 桜色の唇が震える様は可憐そのものだった。
 マシューはそれを吸った。
 長い妖しいキスであった。
 眼を閉じて荒い息さえ吐くスーへ、
「また、明日だよ、スー」
 こう言うと、彼はひとり部屋へ戻ってドアを閉じた。
 この瞬間、車内の監視カメラは、コンピュータのメモリーへ尋常の光景を映しはじめたのである。
 スーも部屋へ戻った。


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