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婚約のゆくえ

婚約のゆくえ

著: アン・アシュリー 翻訳: 吉田和代
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:735円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 アン・アシュリー(Anne Ashley)
 イギリス中部レスターシャーで生まれ育つ。幼い息子たちを寝かしつけるときに役立った物語を作る才能が、歴史ロマンス小説の分野でも開花した。趣味はガーデニングで、自宅の庭を開放することも。現在は夫と二人の息子、二匹の猫とともにイギリス西南部に在住。

解説

 温泉保養地バースを訪れたアビーはあるパーティーで、祖父の名付け子のバートと再会した。数年前、アビーは彼にプロポーズされたが、断った過去がある。バートが祖父を喜ばせるためだけに求婚したとわかっていたからだ。お祖父さまはバートがここに滞在しているのを知って、私に温泉を勧めたにちがいない。まだ諦めてなかったんだわ! その手には乗らないとばかり、アビーはつとめて冷ややかにバートに接した。ところが、彼に同行していた妹がアビーになつき、どうしても一緒にピクニックに行きたいと言いだして……。
 ★英国貴族たちの地方での過ごしかたはたいへん優雅なものでした。紳士は野外へ狩猟や魚釣りに出かけ、淑女はおおいに寝坊して遅い朝食をとり、庭園をぶらぶら散歩して過ごします。彼らにとって、馬車で遠出するピクニックは、ロマンチックな出会いを提供する貴重な場でもありました。★

抄録

 バートの瞳がきらりと光った。その目を見れば、ためらいもせずにそんな屈辱的なお仕置きをするとしか思えなかった。アビーは、あわてて彼から離れたりしないように必死で自分を抑え、できるかぎり軽蔑の表情を作った。
「あなたがものにしようとして選ぶ女性なら、そういうふざけた野蛮な振る舞いを魅力的と思うでしょうね。でも、わたしにはちっともすてきとは思えないわ」
「そうか?」バートはかすれた声で言った。「もしかして、きみには男むき出しの振る舞いがいちばん効き目があるんじゃないのか、ミス・アビゲイル・グレアム」
 彼の黒みがかった茶色の瞳が危険に光った。愚かにもアビーはその警告を無視しようとした。つぎの瞬間、彼女の両腕は背中に回され、長い指に手首をまとめてつかまれていた。もう一方の形のいい手が彼女のあごをつかんで上げさせる。バートの白い歯がこぼれ、目は前よりずっとやさしくなって、アビーの口もとに注がれていた。
 抵抗してもむだだとアビーはすぐ悟った。逃げようとして暴れるなんてみっともないまねはしたくない。バートの顔が近づいてきた。なにをしようとしているかは明らかだ。彼がしようと決めたことに対して、アビーは自分を奮い立たせた。
 つかの間、彼女はショックに身をこわばらせた。容赦ない激しいキスを想像していたのに、そうではなかった。バートの唇の感触はやさしかった。たくみに誘導されてアビーの唇は開き、彼の唇としっかり合った。嫌悪感どころか、これまで経験したことのない快感、喜びが全身に広がった。男性と唇を合わせただけでこれほどの喜びを味わえるとは、思いもしなかった。つかまれた手首を放してほしいとアビーは思った。逃げたいからではない。それどころか正反対だ。両腕をバートの体に回して、もっとその唇を味わいたかった。
 彼にはアビーの考えがすべて読めるようだ。彼女のあごを放し、手を首筋から華奢《きゃしゃ》な肩に這《は》わせていく。ごく軽いその感触に、アビーはまたしてもこれまで経験したことのない感覚に襲われた。快感の波に考える力が奪われる。バートの燃えるような唇が指で探ったあとをたどった。喜びに満ちた数秒が過ぎた。そのとき、アビーはバートがのどの奥でうめくのを聞いた。彼女にわかるのは彼だけ、そして彼が急速にふくれ上がる欲望を満たしたいと願っていることだけだった。
 そのとき、あの屈辱的な思い出がぱっとよみがえった。バートが女性の裸の胸を愛撫し、さらにスカートの下に手を入れていたあの場面が。いまも六年前と同じようにはっきりと、ふたりが喜びに低くうめくのが聞こえる。肌もあらわな彼の相手の女性が、彼のブリーチズのなかに手をすべり込ませたときだ。
 屈辱が喜びに取って代わり、嫌悪感が欲望を押しつぶした。一瞬のうちにこんなに簡単に気持ちが変わることがあるなんて、アビーには信じられなかっただろう。屈辱的な思いに現実に引き戻された瞬間に、自分自身で経験したのでなかったら。
 アビーは手首をつかんでいるバートの手をあっさり振りほどいて、一歩下がった。信じられない思いが消えると、あとに押し寄せてきたのは怒りだった。自分がなにをしているのかわからないまま、片方の腕が上がって大きく弧を描いた。そして大きな音をたてて彼の頬を打った。バートの茶色の瞳に怒りが燃え上がった。だが怒りはすぐに消え、当惑と悲しみでいっぱいになった。


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