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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・クラシックス

囚われのプリンセス

囚われのプリンセス


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ロビン・ドナルド(Robyn Donald)
 ニュージーランド北部の牧場主の家に、一男五女の長女として生まれた。十五歳で師範学校に学び、十九歳で結婚、同時に小学校の教師となる。子育てを終えて一時休んでいた教職に戻り、かたわら執筆を始めた。蘭の花が咲き、キウィやオレンジの実る美しい北部の村に住む。

解説

 ステファニーは真っ暗な地下室に閉じ込められていた。手錠と足かせをされたうえ、棺のような狭い箱に入れられている。耳栓のせいで、音もほとんど聞こえない。そのぶん、ほかの感覚は鋭敏になっていた。さっきから胸騒ぎがする。誰かが近づいてくる気配がするのだ。きっと、私を誘拐したふたり組のうちのひとりだわ。恐怖がよみがえり、ステファニーは息を殺した。やがて、音もなく箱のふたが開いた。「動かないで、ステファニー」目隠しを外してくれたのは、見たこともない男性だった。彼女はかすれた声できいた。「あなたはだれ?」

抄録

 不吉な予感が込み上げた。この人は危険だ――私を誘拐した犯人たちよりもずっと。
 しかし、彼の声は落ち着き払っていた。「そのまま動かないで、ステファニー」
 それじゃ、この人はただの通りすがりではないのね。
 さるぐつわが外される間、ステファニーはじっとしていた。とても慣れた手つきだ。彼の力強さが気力を奮い立たせてくれる。
 でも、気を許してはだめよ。この人も誘拐犯の仲間かもしれないのだから。彼女はかすれた声できいた。「あなたはだれ?」
「君を助けに来たんだよ。気分はどうだい?」
 かすかに警戒心が緩んだ。「大丈夫よ。体じゅうがしびれているだけ」
「感覚が戻ったら、ひどく痛むだろうがね」
 男性は手錠と足かせを手で探り、舌打ちをした。しかし、いたわるような手つきでしばらくいじっているうちに、金属の錠が外れた。
 それでも、ステファニーは永遠に棺から出られないような気がした。脚がしびれて立ち上がれない。男性が腰に腕を回して支えてくれたので、彼女はうろたえてしまった。薄汚れた裸のままだし、きっとひどいにおいがするはずだ。彼女はよろめきながら体を起こし、震える手で耳栓を抜こうとした。
「僕がしよう」彼は言った。
 突然、耳の中に響いていた自分の心臓の鼓動がやみ、静けさが戻ってきた。
 だが、ほっとしているひまはなかった。こわばった体に激痛が走り、今にも気絶しそうだ。ステファニーは歯を食いしばってうめき声をこらえ、男性の広い肩にすがりついた。
「私、どれぐらいここに閉じ込められていたの?」彼女は痛みを紛らすように、うつろな声できいた。
「三日間だ」
 深みのある声だが、どこかよそよそしく、独特の響きがある。イギリス人かしら。それにしては、かすかな外国なまりが感じられるけれど……。
 彼女は必死に足を踏ん張って立ち上がった。汗が眉を伝い、てのひらがじっとりと湿っている。わずかに痛みが遠のき、彼女はようやく声をしぼり出した。「逃げようとしたけど、とても無理だったの」
「もう心配ないよ、プリンセス」男性の腕がステファニーの肩をしっかり包んだ。彼は震える体を支えていたが、やがて無愛想に言った。「歩けるかい? ほら、これを取ってあげよう」彼は目隠しに触れた。
「だめよ」ステファニーは思わず頭を振った。目を開けたら、彼の視線に耐えられそうにない。
「だめじゃない」男性はそっけなく言った。「まだ危機は去っていないんだ。君を誘拐した連中も今日は戻ってこないだろうが、ぐずぐずしていたら見つかってしまう。それに、暗がりで目を慣らしておかなくては」
 ステファニーは弱々しく抵抗したが、男性はかまわず目隠しを外した。彼女は目を上げようとしなかった。「お水を持ってる?」ひからびた口の中を乾いた舌でなめる。「喉がからからなの」
「飲みすぎないように。気分が悪くなるから」
 水筒が唇に押し当てられた。冷たい感触が舌を浸していく。ステファニーがむさぼるように水を飲んでいると、男性が水筒を取り上げたので、彼女は思わずかぶりを振った。
「だめだ」彼は短く言った。「あとでまたあげるから」ステファニーが不満げな声をもらす。「これ以上飲んだら、五十メートルも行かないうちに気分が悪くなるよ。さあ、僕を信用して」
 優しい声の響きに励まされ、彼女はかすかに目を上げた。懐中電灯がぼんやりと湿った岩壁を照らし、金色の明かりの中に男性の姿が浮かんでいる。浅黒い肌、たくましい体、精悍な顔つきが見て取れた。
 ステファニーは胸を震わせた。まるで彼が来てくれることを予感していたような、不思議な気分になる。彼は私を地獄から救ってくれた。生きている限り、決してこの野性的な顔を忘れないだろう。
「さあ、これを着てごらん」
 彼は服を用意していた。ジーンズと地味な色のシャツだ。助かったわ。ステファニーはあわてて袖《そで》を通そうとしたが、手が震えてうまくいかない。彼女は泣きそうな声を出した。「無理みたい」
 男性は静かに言った。「着せてあげるから、じっとしていて」
 ほっそりした体がすばやく服で覆われる。彼は黒いスニーカーまではかせてくれた。今まで寝かされていた湿った毛布に比べれば、布の感触は心地よかったが、自由の身になって体を洗うまでは、不潔な感じはぬぐえそうにない。
「さあ、ここを出よう」
 せき立てるような口調ではなかった。だが、ステファニーは、この地下室に長居すればそれだけ危険も増すということに突然気づいた。
 男性のあとから扉へ向かおうとしたが、どうしても足が動かない。「歩けないわ」
「無理でも歩くんだ」
 彼が力強く手を引いてくれたので、ステファニーはなんとか足を踏み出した。一歩進むごとに、ナイフで刺されるような痛みが体をつらぬく。
 彼女は唇をかみ、うめき声をのみ込んだ。しかし男性が懐中電灯のスイッチを切り、あたりが暗闇に閉ざされたとき、思わず小さな悲鳴をもらした。
「黙っていられないのなら、またさるぐつわをはめてもらうよ」本気で言っているような、厳しい口調だ。「足音をたてないように。絶対に声を出してはいけない。僕に何かあったら、木に登ってじっとしているんだ。普通の人間は上のほうを見過ごしやすいから」
 次の瞬間、滑るように動きはじめた男性のあとを、彼女はよろめきながら歩いていた。扉は音もなく開き、薄明かりが差し込んでくる。最初は目がくらみ、涙が出たが、やがて石段と鉄の扉がぼんやりと見えてきた。その先には樅の林があり、太い幹と生い茂る葉が太陽をさえぎっている。
 ふたりが外に出ると、男性は木の扉の鍵をしめ、ゆっくりと石段を上った。彼は岩壁に背中をつけ、入口のほうへ顔を向けているので、ステファニーには削《そ》いだような頬の線と黒っぽい髪しか見えない。男性はまだ彼女の手を握っていた。なんて温かく、頼もしい手だろう。でも、どこか冷酷な感じがする。
 最上段まで来ると、彼はじれったくなるほど時間をかけ、あたりの様子をうかがった。ようやく鉄の扉の鍵を開けて外に出ると、守るようにステファニーに寄り添った。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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