和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>現代ファンタジー
著者プロフィール
日日日(あきら)
第1回MF文庫Jライトノベル新人賞 編集長特別賞 受賞。首都圏在住の18歳男子で現役の専門学校生。専攻は介護福祉。2004年から2005年にかけて五つの社の新人賞をあれこれ受賞。
第1回MF文庫Jライトノベル新人賞 編集長特別賞 受賞。首都圏在住の18歳男子で現役の専門学校生。専攻は介護福祉。2004年から2005年にかけて五つの社の新人賞をあれこれ受賞。
解説
貧しいながらもケナゲに生きる高校生・宇佐川鈴音《うさがわりんね》には愛する人がいた。知力、体力、財力、ルックスすべてに完璧な教師 ―― その名は賢木愚 龍《さかきぐりゅう》。ある日あるとき鈴音が見た「林檎の夢」をきっかけに、二人は有象無象の輩にその純愛を邪魔されることとなる。それは「蟲」という「個」を持たぬ謎の存在だったり、スプーンで武装(?)した「眼球抉子《がんきゅうえぐりこ》」なる名の猛き少女だったり――。魑魅魍魎《ちみもうりょう》を相手に二人は生き残れるのか? 未曾有の学園ファンタジー開幕!
目次
第一話 うさりん閣下の本日の御言葉
第ニ話 十一月十五日事件
第三話 千年前に死んだ女の子
第四話 孤独 蟲毒
最終話 「見ないで」
グリコのおまけ
あとがき
第ニ話 十一月十五日事件
第三話 千年前に死んだ女の子
第四話 孤独 蟲毒
最終話 「見ないで」
グリコのおまけ
あとがき
抄録
世界が狂っても摂理が壊れても日常はしぶとく現状を維持していて、今日が終われば明日は来るし明日が来ればそれはもう朝。朝といったらHRで一年B組担当教師の賢木愚龍も、出席簿をつけ伝達事項を生徒に述べるなどの責務をこなさなければならない。宇佐川鈴音も昨日――つまりは彼女が少女に眼球を抉られた夜、念のため病院へつれていったのだがどこにも異常はありませんと医者は宣って、今日も元気にいつものように登校していた。ところで賢木愚龍が気になるのは出席簿の内容で、そこにズラッと並ぶ四十余りの名前に昨日まではなかったはずの名前が追加されていて、その名前も全く見たことも聞いたこともない名前ではなくつい最近に耳にした名前で。
その名前は眼球抉子といった。
「……んん?」
嫌な予感。
一応、目の錯覚という奇跡を信じて目薬をさし出席簿をまた眺める。眼球抉子。うん、見間違いようのないふざけた名前だ。出席番号は一一番。昨日まではそのポジションを確かに違う名前の人物が占めていたはずで、しかしその人物の名前は一二番の位置にいつのまにやらスライドされている。どういうことだと賢木は思う。なんかめちゃくちゃ嫌な予感がするのだが。そうして一人硬直しているといきなりクラスの前扉が開いた。
「――――」
特徴的なオオカミヘア。制服であるセーラー服。白い上靴。銃口の瞳。昨日とほとんど同じ外見をしているその女の子は、高校生に紛れても違和感がないような格好で当然のように現れて、すたすたと教壇に進んだ。
教壇には硬直している賢木愚龍が立っている。
生徒たちが何事だ何者だと奇異の視線を少女に向ける。
賢木は少女にかける言葉を探していたがそんなものは見つからず、そうしているうちにも彼女は勝手にチョークを手にして黒板に乱暴な文字を書いた。
転校生。眼球抉子。
そんな話は聞いていない。生徒たちもどよめいている。眼球抉子は淡々としている。
騒ぐ生徒たちに彼女は、刺すような口調でおよそ転校生らしからぬことを言った。
「転校生。眼球抉子。ただ呼ぶときはグリコと呼べ。呼びたくなければ呼ぶな。むしろ話しかけるな。何もちょっかい出さずに放置してもらえれば別に危害は加えないから、そのつもりでグリコにはなるべく話しかけたりちょっかい出したりするな。グリコを不愉快にさせた人間は無差別で眼球えぐっちゃうぞ。おまえら目玉が大切だったらグリコの機嫌を損ねぬように。お喋りは死ね。野次馬も死ね。おせっかい焼きも死んでしまえ。以上」
それだけ一気に言い放ち、満足したように腕を組んで賢木を見上げるグリコ。
エグリコだからグリコなのですか。可愛いネーミングセンスしてるじゃないですか。
賢木は表情を引きつらせながら、どういうつもりだと目線で問いつめた。
グリコはニコリともせずに、賢木にだけは聞こえるような声で囁いた。
「そう構えるな。もう殺さない」
不純物のない純真な声。
「というか殺せない。林檎はすでに根を張っていた。あらゆる物理的攻撃はあの女に効果がない。寿命もないから絶対に死なない。死なないからには林檎は奪えん。ならば殺す必要はない。ただ――『蟲』が多いから」
眼球抉子は世界を振り仰いだ。
「嫌な予感がする。だからこの地に残った。おまえに迷惑はかけない」
そして彼女は都合よく空席になっていた鈴音の隣の席に座る。
どんな魔法を使ったものか、彼女はこの学校に自分の居場所を作りあげていた。
睨みつけている賢木の視線をまるっきり黙殺して、グリコは隣に座る宇佐川鈴音にくるりと向き直った。鈴音はちょっと背筋を緊張させる。当然だ。賢木に説明されて、鈴音は自分が目の前の少女に一度殺されたという事実を知っているのだ。それもスプーンを眼球に突き刺され脳味噌を掻き回されるというえげつない方法で。
何も言葉を紡げぬ鈴音に、グリコはあどけない声でつぶやいた。
「……すまなかった」
「え?」
「他に方法がなかったとはいえ、グリコはおまえを殺そうとした」
それだけ口にして、グリコはまさに教師を馬鹿にした態度をとった。いきなり机に突っ伏して寝息をたて始めたのである。クラスの全員がこの奇妙な転校生の行動に仰天し度肝を抜かれていた。そして平凡なクラスをしばし本当に珍しい騒がしさが支配したのである。
だけど騒ぐにはまだ早い。
クラスのみんなはそのことに気づいていなかった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
その名前は眼球抉子といった。
「……んん?」
嫌な予感。
一応、目の錯覚という奇跡を信じて目薬をさし出席簿をまた眺める。眼球抉子。うん、見間違いようのないふざけた名前だ。出席番号は一一番。昨日まではそのポジションを確かに違う名前の人物が占めていたはずで、しかしその人物の名前は一二番の位置にいつのまにやらスライドされている。どういうことだと賢木は思う。なんかめちゃくちゃ嫌な予感がするのだが。そうして一人硬直しているといきなりクラスの前扉が開いた。
「――――」
特徴的なオオカミヘア。制服であるセーラー服。白い上靴。銃口の瞳。昨日とほとんど同じ外見をしているその女の子は、高校生に紛れても違和感がないような格好で当然のように現れて、すたすたと教壇に進んだ。
教壇には硬直している賢木愚龍が立っている。
生徒たちが何事だ何者だと奇異の視線を少女に向ける。
賢木は少女にかける言葉を探していたがそんなものは見つからず、そうしているうちにも彼女は勝手にチョークを手にして黒板に乱暴な文字を書いた。
転校生。眼球抉子。
そんな話は聞いていない。生徒たちもどよめいている。眼球抉子は淡々としている。
騒ぐ生徒たちに彼女は、刺すような口調でおよそ転校生らしからぬことを言った。
「転校生。眼球抉子。ただ呼ぶときはグリコと呼べ。呼びたくなければ呼ぶな。むしろ話しかけるな。何もちょっかい出さずに放置してもらえれば別に危害は加えないから、そのつもりでグリコにはなるべく話しかけたりちょっかい出したりするな。グリコを不愉快にさせた人間は無差別で眼球えぐっちゃうぞ。おまえら目玉が大切だったらグリコの機嫌を損ねぬように。お喋りは死ね。野次馬も死ね。おせっかい焼きも死んでしまえ。以上」
それだけ一気に言い放ち、満足したように腕を組んで賢木を見上げるグリコ。
エグリコだからグリコなのですか。可愛いネーミングセンスしてるじゃないですか。
賢木は表情を引きつらせながら、どういうつもりだと目線で問いつめた。
グリコはニコリともせずに、賢木にだけは聞こえるような声で囁いた。
「そう構えるな。もう殺さない」
不純物のない純真な声。
「というか殺せない。林檎はすでに根を張っていた。あらゆる物理的攻撃はあの女に効果がない。寿命もないから絶対に死なない。死なないからには林檎は奪えん。ならば殺す必要はない。ただ――『蟲』が多いから」
眼球抉子は世界を振り仰いだ。
「嫌な予感がする。だからこの地に残った。おまえに迷惑はかけない」
そして彼女は都合よく空席になっていた鈴音の隣の席に座る。
どんな魔法を使ったものか、彼女はこの学校に自分の居場所を作りあげていた。
睨みつけている賢木の視線をまるっきり黙殺して、グリコは隣に座る宇佐川鈴音にくるりと向き直った。鈴音はちょっと背筋を緊張させる。当然だ。賢木に説明されて、鈴音は自分が目の前の少女に一度殺されたという事実を知っているのだ。それもスプーンを眼球に突き刺され脳味噌を掻き回されるというえげつない方法で。
何も言葉を紡げぬ鈴音に、グリコはあどけない声でつぶやいた。
「……すまなかった」
「え?」
「他に方法がなかったとはいえ、グリコはおまえを殺そうとした」
それだけ口にして、グリコはまさに教師を馬鹿にした態度をとった。いきなり机に突っ伏して寝息をたて始めたのである。クラスの全員がこの奇妙な転校生の行動に仰天し度肝を抜かれていた。そして平凡なクラスをしばし本当に珍しい騒がしさが支配したのである。
だけど騒ぐにはまだ早い。
クラスのみんなはそのことに気づいていなかった。
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