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箱庭の初恋【SS付き電子限定版】

箱庭の初恋【SS付き電子限定版】


発行: ヴァニラ文庫
シリーズ: ヴァニラ文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆1
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解説

貴女を辱めていいのは、俺だけです
逃げられない、逃がさない……愛執の檻

公女ヘレナは乱心した国王に、長い間城内で幽閉されていた。美しく成長した彼女は王の妃になることを拒み、王の代わりにある寵臣と初夜を迎えることに。その相手とは、ヘレナの信頼を裏切り、弟を手にかけた憎むべき男ユーリだった――。「貴女に選択肢はない」彼に組み伏せられ、暴かれていく身体。冷たい言葉とは裏腹にその手つきは優しくて、ヘレナは戸惑いながらも反応してしまい……!?
★SS付き★

※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

抄録

「公女、何か必要なものはありますか?」
 翌日、いつもの問いかけをしたユーリに、ヘレナが言った。
「足が痛いの。靴が合わないみたい」
 ヘレナは侍女を退室させ、ユーリに苦情を言ったが、それも昨日と同様に嘘だった。
 しかし、彼は従順に小部屋に入ってきて、下僕のようにヘレナの足下にうずくまった。
「どちら側ですか」
「右足よ」
「失礼します」
 彼はそして床に這うようにして、ヘレナの足に触れ、そっと靴を脱がせた。柔らかい布製で、足にぴたりと合っていて、なんの不具合もないのだが、彼女の嘘を真に受けて、ユーリが丁寧にヘレナの素足に触れ、傷があるかどうかを調べている。
「どの部分が痛みますか? かかとですか、それともつま先でしょうか」
「気のせいだったみたい。靴を履かせてちょうだい」
 気まぐれを装って、そう命じる。彼の足が素手でヘレナの布靴を掴んで彼女の足に添わせた時、勢いよくヘレナは立ち上がった。
「……っ」
 彼女は渾身の力を込めてユーリの手を踏みつけた。
 見下ろせば、彼はぴくりと小さく動いただけで、うずくまったままヘレナが体勢を変えるのを待っているようだが、ヘレナは動くつもりはない。
「こんな苦しみではなかったのよ。エドマンドは」
 本当は凶器で刺し貫きたいほど憎いが、ヘレナには編み針も刺繍針も与えられていない。どちらも禁じられているのだ。非力すぎる自分が悲しい。
 ユーリはゆっくりと顔を上げた。
「当然でしょう。俺は痛くもかゆくもありませんから」
 そして、彼はこちらをまっすぐ見つめる。
 ──いつも目を逸らすのはわたし──。
「弟君に俺がしたことの仕返しですか?」
「そうよ」
 彼はそれについて、一度も謝罪したことはない。
「恥を知りなさい。なぜわたしを見ることができるの?」
「俺は間違ったことをしたとは思っていないからですよ。エドマンドは森で迷い、たったひとりで死んでいた。俺はそのことを陛下に告げ、丁重に葬っただけです。それにより、彼ひとりの命と引き替えに何百人の子どもが助かった」
 と、ユーリはきっぱりと言った。
「嘘よ! あなたが殺したのよ。エドマンドはあなたを信じきっていたわ。なんでも素直に言うことを聞いて、あなたの後をついて歩いていた。あなたはそのエドマンドをわたしから引き離し、森で殺した。エドマンドに対して呵責の念はないの? あなたに良心はないの? 謝りなさい」
「謝ったら許すとでも?」
「許すわけないでしょう。あなたの顔など見たくない! 二度と目の前に現れないで」
「陛下がそう命じるならば」
 そして、彼は口元に冷えた笑みを浮かべた。
 悪魔の顔だ、と思った。
 いつもこうだ。
 彼が平然としているのが悔しくてたまらない。
 仮面のような表情を叩き割ってやらなくては気がすまない。
 それなのに、ヘレナばかりが悔しさにのたうち回り、苦しんでいるのだ。憎むことで壊れていくのは、相手ではなく自分のほうなのかもしれない。
 その手を踏みつぶしてやりたい、と、ヘレナが右足に力を込めたが、そのはずみでバランスを失った。同時にユーリの空いたほうの腕が、よろめいた彼女の腰を抱え上げた。
「あっ」
 ぐるりと景色が回る。
 眩暈がする。
 気づくと、目の前にユーリの肩章がある。
 金房が目映い。不快なことに、彼は王に隷属した証を誇らしげに見せつける。
 目を上げると彼の喉があり、さらに視線を上らせると、紫色の瞳がこちらを訝しげに見下ろしている。彼の腕に抱き止められていたのだった。
「……離しなさい!」
「ここ数日、ろくに眠っていませんね。食事もほとんど手をつけていない。衰弱してしまいますよ」
「あなたがわたしを殺すのよ。王とあなたが……」
「死にたくないなら、自分の身を労ることです」
「もう……放っておいて」
 弟も守れなかったのに、自分の生きている意味がわからない。
 王家の血を守ろうにも、その相手が憎むべきバルテル王なのだとしたら、そうまでして受け継ぐ意味があるのだろうか。
 ──なぜ生きなくてはならないの? お母様、教えて。
 霞んだ視界に、ふと輝くものが見えた。
 ──あれは……。
 ガラス製の小さな容器に|銀線細工《フィリグリー》の飾りを施し、チェーンがついたペンダントだ。ユーリの胸に輝くそれは、毒薬の入ったまがまがしい贈り物。
『あなたは俺を憎むために生きるんでしょう?』
 朦朧とした意識の底で、くぐもった声が聞こえる。
 そうだ、ずっとそうやって生きてきた。
 ほとんど姿を見せない王と、いつも下僕のように寄り添うユーリを憎み続けることを糧に生きてきた。
「あなたは弟を殺し、わたしも殺すのよ」
 ユーリの顔が近づいてきて、唇がそっと塞がれる。
 柔らかいものが触れた後、冷たい液体が注ぎ込まれた。
 ──ああ、これで楽になれるのね。
『泣いていいんですよ、つらい時には』
 誰の声かももうわからない。
 ひどく体が重くなり、眠くなってきた。
 すすり泣く声が聞こえる。
 それが自分のものだとも知らずに、ヘレナは深い眠りに落ちていった。

※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

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