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百花の王と蜜蜂姫

百花の王と蜜蜂姫


発行: ヴァニラ文庫
シリーズ: ヴァニラ文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

いい子だから……私に狂っておしまい
今宵も仇の愛技に溺れてしまう――エロティックサスペンス

「もっと……私に甘い蜜を運んできておくれ、可愛い蜜蜂姫」家族を喪う原因となった美しい王・ファディルへの復讐のため、シェルヴィはビィと名前を偽り、妾妃として褥へ侍る。シェルヴィを刺客と知りながら手練手管で翻弄するファディルに、シェルヴィの体は蜂蜜のように蕩けていく。憎しみと快楽に溺れるビィと、艶やかな王の淫らな攻防戦の結末は……?


※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

抄録

「このまましばらく私がここにいるふりをしててくれ」
「……え?」
 突然王の寝室に呼び出されたのは、まだ爽やかに鳥が囀る午前中の事だ。普通の貴婦人ならまだ寝ていてもおかしくない時間だったが、ビィはとっくに起きていた。
 当然ナイトドレスなんて身に付けてもいないから、昼間用の普通のドレスのままである。至急と言われたから準備なんてまともにできる時間もない。
 不意打ちに面喰らいつつ王の部屋に来てみれば、顔を見るなり言われたのはそんな台詞だった。
「あの、どういう……」
 意味かと問う間もなく、ファディルは部屋にあったカウチに見せかけた長櫃から庶民が身に付けるような麻の服に着替えだす。
「野暮用で城下に出る。オーウェンたちにばれぬよう、ここに引きこもっているふりをしてほしい」
 ……すると、何か。女色に耽るふりをして城を抜け出すから、片棒を担げという事か。
「ここのところ多忙だったからな。おまえを貪っていてもしばらくは文句も言われまい」
「しかし陛下……」
「大丈夫だ、その旨近侍たちには伝えてある。基本的に呼ぶまでは捨て置けと言ってあるが、万が一の事もあるからな。ドアが叩かれることがあれば、ガウンでも羽織って部屋の入り口で『陛下は深くお休み中です』とでも言ってくれればいい」
 王の口調は慣れていた。今までにも似たようなことをしていたのだろうか。――きっとしていたに違いない。ビィは強い確信をもって口を開いた。
「そういう事でしたらぜひともわたくしも共にお連れ下さい」
「え?」
「声をかけるまでは捨て置くように仰っていらっしゃるのでしょう? でしたら扉には鍵をかけておけばよろしいですわ。二人とも疲れ切って熟睡していると思って下さるでしょう。それよりわたくしにも何か着る物を御貸し下さいな」
 アリバイ作りの共犯なんて冗談ではない。結局また放置される事にかわりはないではないか。そんな状況を回避すべく、ビィは目一杯可憐な笑顔を浮かべる。
 よもやそんな答えが返ってくるとは思わなかったのか、王は無言で固まっている。当然だろう。普通の貴族の子女は単身お忍びで、しかも変装して城下に出たりなどしない。せめて護衛をつけるのが常だろう。しかしビィなら自分の身は自分で守れる自信がある。
 これまでビィを翻弄するばかりだった王の、驚いた顔を見るのが痛快だった。
「……おまえ、馬は?」
「嗜み程度でしたら」
 控え目に言った。乗馬は得意である。
「ふむ、ならばそれも一興か」
 大して悩みもせず王は同意する。多少はビィを放置することに関して罪悪感を感じていたりもするのだろうか。いや、その可能性は低いとビィは踏んだ。
 なんというか、この王は捉えどころがない。
 極めて人当たりは柔らかいものの、飄々としていて、気付くと彼の良いように転がされているのだ。だから、ビィを伴っても口先三寸で何とかなると思っているのだろう。
 それでも構わない。置いていかれるよりずっとマシだ。
「女性用の服は用意していないから、その辺のものを適当に見繕ってくれ」
「はい」
 かくしてビィは男装することになった。もっともその方が馬にも乗りやすいし動きやすい。王と同じくざっくりした麻のシャツと、ズボンはファディル仕様の丈の短いものを穿いたらちょうどいい長さだった。できるだけ胸は布を巻いてつぶしたものの、それでも不自然な膨らみは見えそうだったので、誤魔化すために厚地のベストを羽織る。赤味を帯びた黒髪は、下ろしていれば目立ってしまうから、まとめて少年風に布で覆った。
 それだけの変装を手早くやってのけると、彼女より若干派手で吟遊詩人風の、けれど似たような格好の王と共に、棚の陰、タペストリーの奥に設えられた秘密通路の入り口から外に出る。
「こんな仕掛け、わたくしが知ってしまってよろしいのでしょうか」
「共に行くのなら仕方ないだろう」
「それもそうですね」
 王の素行やそれに伴う秘密を知られて、王が困る事はあってもビィには関係ない。とにかく彼と共にいる時間が増やせればそれでいいのだ。王に関する情報も然りである。どんな知識でも、彼に関する事なら目的を遂げるための武器となる。
 なぜか王と顔見知りだった、城を出入りする農夫の馬車にまぎれて跳ね橋を渡り、こっそり繋いであった馬に乗って城下へ至る。馬はやはり顔見知りらしい宿の厩に預けられた。元々そこの馬らしい。
「ずいぶん……手回しが良いのですね」
 半ば唖然としながら、嫌味交じりの声が出る。一国の王とは、例えば城下を視察するにしても、もっと物々しいものだと思っていた。
「たゆまぬ努力の賜物だ」
 いかにも軽薄に片目を瞑って、なぜか王は自慢げに答える。
 つまりはこのようにお忍びで出かける事が日常茶飯事だから、そのための人脈や手配を常に欠かしていないという事だろうか。
 あまり弾んでいるとも言い難い会話の合間にも、王は通い慣れたように町裏の細くて入り組んだ路地をすいすいと進んでいた。長身の王は歩幅も広いから、ビィは小走りになって追いかける。どうやら歩幅を合わせる気はないらしい。もっとも従者にそんな気を遣う主もいないだろうから、今はその扱いなのだろう。
 王都の、しかも下町なんて歩いた事はない。うっかり彼の広い背中を見失えば、ビィは簡単に迷子になってしまうだろう。ドレス姿でなくて良かったとつくづく思う。

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