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弟の花嫁

弟の花嫁


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

レオニーは、鏡に映った自分の花嫁姿を見つめながら、瞳を不安に揺らしていた。マルコムとの結婚式が近づいている。大富豪で家柄のいい彼の一族とうまくやっていけるか、いまひとつ自信が持てないのだ。ノックの音に扉を開くと、ガイルが立っていた。なぜかマルコムとの仲を裂こうと、いつもレオニーに辛くあたる、苦手な彼の兄だ。いぶかる彼女に、ガイルのうつろな声が響いた。「マルコムは死んだよ」驚きと悲しみに取り乱すレオニーに、ガイルから、さらなる意外な申し出をされて……。

抄録

「君はショックを受けてるんだ」ガイルは冷たく言った。
「ほうっておいて!」レオニーはなんとか歩こうとしたが、裾の広がった長いドレスが足にからまって動けない。「これを脱がなきゃ……脱ぎに行かなきゃ!」ウエディングドレスを着ていることが耐えられなかった。その感触が我慢できなかった。つい今しがたまで鏡に映っていた自分の姿が脳裏によみがえってくる。満面に笑みを浮かべ、真っ白なサテンとレースに包まれた花嫁姿。「脱がなきゃ!」うめき声をあげて背中のジッパーに手をのばすと、ガイルが後ろから近づいた。背中に冷たい彼の指が触れるのを感じて、レオニーは震えた。ジッパーが下ろされ、ドレスが床に滑り落ちて、なめらかな、白い背中がむき出しになった。
 レースのブラジャーとパンティー姿のまま、レオニーは床のドレスをまたいだ。ガイルが見つめていることなど頭になかった。彼がそこにいることさえ忘れていたのだ。
 ドレスを足で蹴飛ばすと、レオニーは機械じかけの人形のように寝室へ歩いていった。先回りをしたガイルは、彼女のガウンを持って待っていた。彼女には、ガイルがいつ自分を追い越したのかさえもわからなかった。
「これを着なさい。風邪をひくから」
 レオニーは知らん顔をして通り過ぎようとした。「かまわないで!」
「レオニー、たのむから!」ガイルはかすれかけた声でつぶやくと、彼女のそっぽを向いた顔をじっと見つめた。
「帰ってよ! 顔も見たくないわ」レオニーは小さな声で言った。
 ガイルは口をゆがめただけで、帰ろうとはしなかった。レオニーを人形のように抱きかかえると、無理にガウンを着せた。
 彼女はもがいたものの、ガイルには勝てなかった。マルコムがよく言っていたっけ。“ガイルに勝てる人なんか誰もいないさ”ガイルはレオニーがケント家の一員になることに反対していた。そして、彼の思いどおりになった。マルコムが死んだ以上、レオニーが義理の妹になる可能性はまったくなくなったのだ。
「さぞうれしいでしょうね」レオニーは吐き出すように言った。「あなたのお望みどおりですものね……わたしたちの結婚には反対だったでしょ。マルコムがわたしと一緒になる心配は、もう永久になくなったわ。これで満足なさったんじゃない?」
「好きなだけ憎んでいいよ。そのほうが自然だ」ガイルは冷静だった。「ただ、君が病気になったからといって、マルコムが帰ってくるわけじゃないんだよ。だから、少し横になって眠るんだ」
 レオニーは返事をしなかった。それがどうだというの? 何がどうなろうと、いまさらなんの関係もない。マルコムは死んだのだ。マルコムが死んだ。いくら考えても、何度同じ言葉をくり返しても、そんなことどうしてもありそうもなかった。もちろん信じることもできない。
 ガイルは、レオニーの真っ青な顔を見つめながら、彼女のガウンの紐を結ぼうとしていた。「誰か来てくれる人はいないのかい? 誰かにそばにいてもらったほうがいい。僕がここにいられればいいのだが、無理なんだ。母のところに戻らなくちゃならないからね。母が目覚めたときは、そばにいてやりたいんだ。君のお母さんを呼ぼう……電話番号は?」
「母には会いたくないわ」
「じゃあ、友達は?」ガイルはしつこくきいた。「君のドレスを作っているという人。すぐ戻ってくるって言ってたね? その人を呼ぼうか?」
「いいえ、誰も呼ばないで」最後の力をふりしぼって、レオニーはささやいた。「ひとりになりたいの」
 ガイルが言ったことを信じるためには、受け入れるためには、どうしてもひとりになる必要がある。誰かがそばにいたり、聞き耳を立てているところではとうてい無理だ。
「お願い、帰ってくださらない? ひとりになりたいの」
「あのね……」ガイルは静かに言った。だがレオニーは限界に達していた。暗闇がぽっかり口を開いて、彼女はその中にまっさかさまに落ち込んでいった。
 気がつくと、レオニーはベッドの中にいた。布団がかけられ、カーテンが引かれて、暗い部屋には物音一つ聞こえなかった。一瞬何がなんだかわからなかったが、すぐに思い出した。今なら誰もいない――まずレオニーの口からもれたのは、言葉にならない苦渋に満ちたうめき声だった。誰かが動く気配がした。彼女は顔をそちらに向け、声を噛み殺した。窓のそばに、通りの街灯からこぼれた明かりに浮かぶ、男の黒いシルエットが見えた。男はベッドに近づいて彼女のほうにかがみ込んだ。ガイル・ケントだった。彼は帰らなかったのだ。
「お母さんに電話したからね。一時間以内に来られるそうだ」ガイルは穏やかに言った。「お母さんが来るまで、僕がここにいる。何か持ってこようか? お茶はどうだい? それともミルク?」
「いいえ」レオニーの声はかすれていた。「何も欲しくない。誰にも会いたくない。あなたにもいてほしくない……」
「わかるよ」ガイルは低い声で言った。「でも君は、ショックを受けたんだ。ひとりにしてはおけない。紅茶はどう? いれてくるよ」
 ガイルを遠ざけるためならなんでもいい。レオニーはやけになっていた。
「ええ、じゃお願いするわ」
「いい子だ」ガイルはそう言って、かすかにほほ笑んだ。「すぐ、いれてくるよ……」
 ガイルは後ろ手にドアを閉めて出ていった。レオニーはひとりベッドに横たわり、温かい布団の中にいてもなお、冷たい体を抱きすくめて震えていた。やっとひとりになったのだから、泣くこともできたはずだ。だが、彼女は泣けなかった。涙の代わりに、耐えきれないほどの苦悩が心をむしばんでいるだけだった。


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