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花蜜ロマンス〜不機嫌な貴公子に愛されて〜

花蜜ロマンス〜不機嫌な貴公子に愛されて〜


発行: ヴァニラ文庫
シリーズ: ヴァニラ文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆2
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解説

おまえのきれいな花をよく見せてくれ
花売り娘を拾ったのは女嫌いの貴族様

育ての親に<花を売る>ため夜の街へと放りだされたエフラシア。その言葉が持つ意味を知らず、危うく襲われかける。通りすがりの伯爵・テオドールに助けられ、なぜか彼の屋敷で淑女教育を受けることに。「ここはどんな花びらよりも甘くて美しいな」女嫌いのはずの彼に熱く囁かれ、エフラシアは初めての悦びに抗えない。彼には婚約者がいるのに……。

※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

抄録

「こんな時間に、なぜ花など売りに来た」
「家が花屋なので――」
「近頃の花屋は夜も街に売りにくるのか? 知らなかったな」
「いえ、そういうわけでは――」
 矢継ぎ早に繰り出される質問に、エフラシアは考える間もなく、答えてしまう。
「夜更けに花束を売りに来たところで、買う客などいると本気で思ったのか」
 エフラシアは首をわずかに横に振った。
「わたしだって、こんな時間に客などいるわけないと思っていました。でも、夜の街は花売りが多いから売っておいでとおかみさんに言われて……」
 半信半疑でやって来たエフラシアだったが、予想していたよりも人通りが多くてずいぶん驚いたところだ。
「それで、おかみさんは、夜の街の花売りが一体、何を売っているのか教えてくれなかったのか?」
「……?」
 エフラシアはきょとんと首を傾げた。
 花売りが花を売らず、何を売るというのか。
 無垢に首を傾げるエフラシアを見て、男は「やはりな」と呟くと、盛大にため息をつく。
「この通りは、『夜の花市場』と呼ばれていることは知っているな?」
 それは今日、おかみさんから教えてもらったばかりだ。エフラシアは首を縦に振って肯定した。
「では、夜の花市場ではどういう種類の花を売るのかは知っているのか?」
「え……。昼と夜とでは、売る花の種類が違うのですか?」
 予想外の事実を知らされ、エフラシアは思わず口元を手で覆った。
 エフラシアが今宵売り歩いていたのは、昼に店で売っている花ばかりだ。昼と夜とで売る花が違うというのなら、どうりで街行く人たちから奇妙な目で見られていたわけだ。
 納得し、頷くエフラシアを見て、男の眉間に深い皺が刻まれた。
「まったく、こんな無垢な娘に、なんということをさせるんだ――」
 男が怒りを含んだ声でそう唸ったが、ちょうど馬車が通りがかったので、エフラシアには何も聞こえなかった。
「おまえは今宵、なんと言われて家を出された? まさか、その花束を全部売ってこいとでも?」
 エフラシアは頷いた。
 すると男は小さく舌を打ち、質問を変えた。
「正確に答えろ。花ではなく花束を売って来い、と。そう言われたのか?」
「はい。……いえ、正確には『花を売ってくるように』、と言われました」
『花』と『花束』に違いがあるとは思えないが、エフラシアは心のどこかで引っかかっていたのだ。家を出る時に籠いっぱいの花束を抱えているエフラシアを見て、おかみさんが目を丸くした時から。
『あんた、それも持っていくつもりなのかい?』
 花を売って来いと言われたのだから、商品である花を持っていくのは当たり前のはずなのに、なぜ驚くのだろうと、不思議に思ったのだ。
『まあ、いい。物珍しくて、かえって寄ってくる客もいるかもしれないしねぇ』
 失笑を漏らすおかみさんに見送られながら、エフラシアはわずかな違和感を抱いていた。
 ――あの時に、もっと詳しく聞いておくべきだったのだろう。
「昼と夜では、売る花が違うのですね。知りませんでした」
 花屋の娘がそのようなことも知らないと認めるのは情けなくて、エフラシアは唇を噛みしめてうつむいてしまう。
「ああ。全然違う」
 追い打ちをかけるように、男はそれを肯定する。
「夜の花市場で売るのは、そもそも、花ではない」
「えっ? では、何を売るの――?」
 エフラシアが首を傾げて呟くと、男の瞳が大きく揺れた。
「知りたいか?」
「え……?」
 息が耳朶に吹きかかるほど近くまで顔を寄せ、男はかすれた声で囁く。
「教えてやろうか」
(何を――?)
 そう問おうと口を開きかけたエフラシアだが、その唇が言葉を発することはなかった。
「――んっ……!?」
 男の顔がゆっくりと近づいてきたかと思うと、しっとりとやわらかな温もりに唇を塞がれる。
 驚いて目を見開くと、伏せられた男のまぶたが視界いっぱいに広がった。長いまつ毛が、細い月明りを受けて妖しく艶めいている。
 何が起きたのかわからず、呆然と居すくんでいるうちに、触れた唇はいったん離れた。
 反応を窺うように、男はエフラシアの瞳を覗き込む。
 男の紺碧の瞳には、目を丸くして潤ませるエフラシアの姿が映っていた。
 気がつくと、すべての音が消えていた。
 路地の向こうからかすかに聞こえていた喧噪も、何もかも。
 エフラシアの耳が拾えるのは、男の息づかいだけだった。
「――ん……」
 再び、男が唇を合わせる。
 先ほどの触れるだけのものではなく、今度はしっかりと温もりを重ねられ、その熱でエフラシアは我に返った。
 口づけされているのだとようやく気づいた瞬間、顔が赤く燃え上がる。
 エフラシアは慌てふためき、男の胸板に両手をつくと、顔をぐいっと後ろにそらそうとした。
 だが男は大きな手をエフラシアの後頭部に回し、逃げるのは許さないとばかりに力を込める。
「……んっ」
 食むように、唇に舌を這わされた。
 口づけがどのようなものなのか、初心なエフラシアでも話に聞いたことがあるが、経験したことはもちろん一度もない。
(ただ唇と唇が触れ合うだけだと思っていたけど、まさか、これほど恥ずかしくて、これほど長いものだったなんて……!)
 息ができなくて苦しいのに、胸に甘い痺れが走り、身体がじんわりと熱くなる。
 男はようやく唇を離すと、目をこぼれ落ちそうなほどに大きく見開いているエフラシアを見て、ふっと笑った。
「目を閉じてみろ」
 再び顔を近づけながら、男は小声でそう命じる。

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