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和書>小説・ノンフィクションボーイズラブ小説業界人

夜にくちづけ

夜にくちづけ

著: 名倉和希
発行: フロンティアワークス
レーベル: ダリア文庫e
価格:630円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
みんなの評価 ★★★★★4
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著者プロフィール

 名倉 和希(なくら わき)
 1998年ビブロスからデビュー。6月25日生まれのかに座。A型。愛知県出身、長野県安曇野あたりに在住。趣味はボーイズラブを読むこと。

解説

 映画監督の父と舞台女優の母を持つ高校生・緒川純理は、大晦日の夜、映画会社主催のカウントダウンパーティーでその愛らしい容姿ゆえにしつこいスカウトに追い掛け回されていたところを永野浩一郎に助けられる。自分の性癖で悩んでいた純理だったが、理想を具現化したような永野に一目で恋に堕ち、悩みを聞いてもらっているうちに永野と初Hをしてしまうが……。


※ イラストは含まれていません。

目次

夜にくちづけ
君にくちづけ
あとがき

抄録

「………………落ちなくてよかった……」
 純理の髪に口元を埋めて、永野は掠れた声でぽつりとこぼす。
「このきれいな顔と体にひとつでも傷がついていたら、俺は一生、自分を責めていた」
 えっと純理は息を飲んだ。
 まるで愛の告白のようなセリフに、抱きしめられたまま視線を泳がせる。
 そんなはずはないのに。出会ったばかりなのに。お互いに、なにも知らないも同然なのに……。
 そっと腕の拘束を解き、永野は純理の茫然とした顔を見つめた。壊れ物を扱うような手つきで、純理の白い頬を撫でる。
「…………この世のものじゃないみたいだ……」
 つぶやきは、純理の唇に落ちた。
 静かにくちづけられ、純理は目を瞬く。
 ファーストキス。正真正銘、初めてのキスを、名前しか知らない会ったばかりの男に奪われてしまった。
 すぐに離れていった永野の唇を目で追う。
 色っぽいと思った、厚めの唇。そこに触れてみたいという衝動のままに、純理は指を伸ばした。下唇を指先でなぞってみる。つづいて上唇。
 永野は微笑を浮かべて、されるままになっている。
「嫌じゃなかったか、キス」
「……うん」
 返事を聞くやいなや、今度は噛み付くようなくちづけを仕掛けてきた。
 後頭部を片手で押さえられ、もう片手で腰を支えられる。逃げられないようにされ、予告もなく侵入してきた舌に歯列を舐められた。柔軟に動く永野の舌に抵抗するすべもなく、おろおろしていた舌を捕らえられて絡みつかれる。舌と舌が絡みつく感触に、背筋が震えた。
 永野は純理の口腔内をたっぷりとかきまわしたあと、今度は逆に純理の舌を自分の口腔に誘い込んだ。舌先を甘噛みされて腰が痺れる。
 気持ちいい……。キスがこんなに気持ちいいものだなんて知らなかった。
 くちくちと粘着質な音がいっそう体を熱くする。純理は初めての濃厚なくちづけに夢中になって、もっともっととせがむように永野のスーツにしがみついていた。
 飽きることなく舌を絡めていたのに、永野の唇が重なったままふっと笑みを漏らす。
「あ……ンッ」
 唇が離れちゃった――。
 純理はぼうっと熱を孕んだ目で、永野のいたずらっぽい笑顔を見つめる。
 キスのつづきをしてほしくて……ねだるような視線になっていることに純理本人は気づいていなかった。
「もっとしたい?」
 ストレートに聞かれて純理は半分ほど我に返った。吸われて濡れたままの自分の唇を前歯で軽く噛む。この場合の「もっと」という要求がどこへ向かうのか、実際に経験がなくとも純理にだって察することができる。
 ――したい。もっと。
 永野はこんなキスができる男なのだ。
 いったいどんな世界へ連れて行ってくれるのだろう。純理を男の子だとわかっていてのキスと誘惑だ。永野は同性相手にそういう行為が可能な男なのだと解釈していいのだろう。
 これは幸運と呼んでもいいにちがいない。
 理想が具現化したような容姿の男が、自分と同じような性嗜好の持ち主だったなんて、めったにあることじゃないことくらい、簡単に予想がつく。
 どうしよう? どうすればいい?
 純理は自分がこんなに流されやすい人間だとは知らなかった。激しいキスひとつで、すっかり判断力を失っている。このまま流されてもいいと……流されてしまいたいと望んでいる、いやらしい自分が体の中のどこかにいる。
 はやく返事をしろと、せっかちなもう一人の自分が衝動的に背中を押しているようだ。
「上に行く?」
 今夜宿泊予定の部屋のことだろう。
「ここより断然暖かいと思うけど」
 寒いから場所を移ろうと永野は言っているのだ。そんなのただの口実にすぎない。わかっている。寒いから部屋へ行く。けれど部屋へ行ったら――。
 もしここで純理が断れば、永野とはこれっきりになるだろう。きっと二度と会えない。いつかどこかですれ違っても、それだけだ。
 嫌だ。これっきりなんて。この人と離れたくない、まだ一緒にいたい。
 純理は理屈抜きの切ない想いを噛みしめる。
「逃げるならいまだぞ、うさぎちゃん」
 からかうような口調ながら、永野のまなざしには本気の色がちらついていた。一目で惹かれた、怖いような大人の色気が、容赦なく襲いかかってくる。
 こんな目で見つめられたら、なけなしの理性がぐずぐずに崩れてしまう。
「夜景、きれい?」
 口が勝手に喋っていた。了承と取られてもしかたがないセリフだ。
「当然ここよりずっと眺めはいいさ」
 永野の腕がいっそう力をこめて純理を抱きすくめてきたのは、逃げ道を塞ぐ意味がこめられていたのかもしれない。
「あ、僕……」
「行こう。俺も寒い。二人で暖まろうか」
「…………うん……」
 非常口のドアを開ける前に、純理はもう一度永野に唇を奪われた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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