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蛆神の島

蛆神の島


発行: キリック
シリーズ: 蛆神の島
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★☆☆☆1
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解説

 その島を訪れた者は誰一人として帰ってこない──ネット上の都市伝説でそう囁かれている「氏神島」。そこは瀬戸内海に浮かぶ小さな島々の中の一つで、平家の落人の末裔が隠れ住んでいると言われてた。旅行がてら大学の同級生の橘と島が見える船着き場までやってきた平野知嗣は、地元民から「絶対にあの島には行くな」とさんざん反対されながらも、氏神島にどうにか渡れないか思案を巡らせていた。すると、タイミングを計ったかのように、件の島から一艘の漁船が。乗っていた一人の老人は接岸し、二人のほうにやってくるなり、こう言った。「あなたがたは、氏神島に渡りたいのでしょう?」さすがに気味が悪くなった知嗣だったが、好奇心には抗えず、迎えにきた老人の手引きで島に上陸することに。そこで二人を待っていたのは、網元・清森家の立派なお屋敷と、島民たちの好意的な視線、そして絶世の美少女・時子。あたりに漂う奇妙な異臭に嫌な予感を覚えつつも、そのまま知嗣たちはお屋敷へ招かれ、過剰な歓待を受ける。世にもおぞましい秘密と因縁がこの島にあるとも知らずに……。

 平家、太歳、陰陽道、黄金蠅……オカルトがオカルトでなくなるとき、人は異界の狂気と対峙することになる! 

目次

第一部
第二部
第三部
第四部
第五部
終章

抄録

 絶句した。
 悲鳴をあげるところだったが、必死になってこらえる。悪夢としかいいようのない光景が、眼前に広がっていた。
 何人もの人々……もはや性別などわからない……が、橘と同じような姿勢で、壁に背をあてている。
 その体には、濃褐色のキノコとしか思えないものが、びっしりと生え出していた。人のかたちをとった巨大なキノコのようにすら見える。まるで怪奇映画の一幕だ。
「お……お……」
「うおお……ほ……」
 何人かが声を発したが、もはや意味のある言葉とはなっていない。まともな発声ができなくなっているのか。あるいはすでに知能が失われているか、正気ではないのか。
 体のほとんどはキノコに覆い尽くされているというのに、彼らの目だけはまだこちらから見て取れるのがかえって無残に感じられた。
 凄まじいまでの絶望が、キノコに覆われた人々の目に宿っている。
「おー……」
「ふぉ……おお……」
 あるいは助けを求めているのかもしれないが、いまの知嗣にできることは何もない。
 頭のなかが真っ白になった。
 可哀想だが、たぶんここまでキノコの菌糸などが体に食い込んだら、もう助からないのではないか、という気がした。
 それに対し、まだ橘はなんとかなりそうな気がする。否、なんとかなってもらわねば、困る。
 大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。
 自分はとてつもなく幸運なのだ。ならば、橘を救出することは可能だろう。
 橘のほうに向かおうとしたが、いつのまにか腰が抜けていた。
「おい、俺……しっかりしろ」
 自らにそう言い聞かせながら、下半身に力をこめて橘のもとへと向かった。
 まだ膝が笑っている。ちょっと気を抜けば、恐怖のあまりへたり込んでしまいそうだった。
「橘……戻ってきたぞ」
「助けてくれ……助けて……」
「わかっている。とりあえず、この、キノコみたいなのを引っこ抜くぞ」
「ああ……」
 橘の意識は、また朦朧《もうろう》としてきたらしい。
 まず、腕に生えていた小さなキノコらしきものを、引っ張ってみた。実に不快な感覚とともにキノコが引き抜けたが、とたんに橘が絶叫した。
「うわあああああああああああああああっ」
 体がおかしな具合に痙攣し、目が白目を向いている。
「おい……橘!」
「痛いっ……痛いっ……」
 橘の目から、苦痛のためか涙がぼろぼろとあふれ出た。これでは、キノコを取り除くことは難しいようだ。
 すでにこの段階で、しっかりと菌糸が人体組織と絡み合っているらしい。しかも、橘は自力では体を動かせない状態にある。
 絶望的な状況だが、知嗣は必死になって考えをめぐらせた。
 なにか手はあるはずだ。無事に橘をここから外に出す手段が。
 ただ問題なのは「この地下から橘を地上に出しても、根本的な解決にはならない」という点にある。
 時子はわからないが、当然、当主はこの地下のキノコ人間たちのことは知っているはずだ。その秘密を知ってしまった知嗣を、外の世界におとなしく帰してくれるとは思えない。
 さらにいえば、橘も同じことだ。すでに橘はキノコを植え付けられている。
 いわばこの島の秘密の「生きた証拠」ともいえるのだ。知ってはならない秘事を知ってしまったものたちを運命は、考えたくはないがだいたい想象がつく。
 しかし、こちらにはこちらの強みがある。
 それは「当主が知嗣を本気で婿にしようと欲している」点である。
 決して対等な立場ではない。が、それでもある程度、話し合いの余地はある。
 少なくとも自分が婿入りすると告げれば、橘だけはなんとかなるかもしれない。
 そこまで考え、やはり当主は最初からそれを狙っていたのではないか、と思った。
 下手をすれば「ここに知嗣がやってくることすらも当主は想定していた」かもしれないのだ。
 橘にはいろいろ数えきれないほどの恩義がある。そして知嗣が彼を切り捨てて一人で逃げるような性格ではないと、当主は見切っていたのかもしれない。
 二十歳になったとはいえ、所詮、自分は世間知らずの大学生だ。
 対して仮にも相手は「平氏の当主」を名乗り、いままでこの島の秘密を守り通してきた相手である。むこうからすれば赤子の手をひねるようなものだろう。
「平野様」
 いきなり、トンネルの井戸のほうから声が聞こえてきた。
「困りますな。勝手に、このような場所に入られては」
 どうやら一平のようだった。やはり、むこうの手のひらの上で自分は踊らされていたらしい。
 おそらく、一平はこちらの後をつけてきたのだろう。
「ここは神域です。平野様は、入ることを許されてはおりません」
「なにが……なにが神域だっ」
 恐怖が突発的な怒りに変わった。
「こんな……こんな無茶なことが許されるはずがない! これって……ええと、拉致監禁って奴だろっ」
「さあ」
 一平はなぜか哀しげに言った。
「俺は、外の世界の法律のことはよくわかりません。この島では、ご当主のご意思こそが法なのです」
 そのとおりだ。ここは、領主である清森家の当主を頂く、いわば「異界」なのである。
「とりあえず、ここから出ましょう。俺も、手荒なことはしたくありません」
 いまここで一平とやりあっても無駄なことは、よくわかっている。
「橘……待っていろ。必ず、お前だけでも島の外に出してやるからな」
 知嗣は悲痛な叫び声をあげた。

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