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解説
隆幸は贖罪の為、親友だった信彦に言われるがまま淫らな行為を強要される日々を……しかしその贖罪の本当の真実とは……
目次
愛を囁くのは君
愛を囁いて。
愛を囁いて。
抄録
玉屋は大通りから一本入った路地にある。よそ見をしていたら、ふっと通り過ぎてしまいそうな、そんな小さな店だ。だが知る人ぞ知るといった感じで、引き戸の入口を開けると、そこは会社帰りのサラリーマンで賑わっている。おかみさんがご主人を亡くされてから出した店だそうだが、その味の良さと値段の手頃さ、そしておかみさんの美人さで、連夜客が絶えない。かくいう孝幸と高木もこの三要素でここに通う常連の一人だった。
「まったくさあ、最近、隆幸冷てぇんじゃないの」
そんなに飲んだ筈ではないのに高木はクダを巻いてくる。
「冷たいって……仕方無いだろ。いい先輩ばかりだけど、秘書課なんて所に配属されたんだから。新人同然で俺だって毎日大変なんだぜ。おい、高木! 重〜い!」
そろそろ高木に辟易していた隆幸はその肩にかかった腕を煩そうに払った。
「お前の親友だったけ? あの社長。親友ならさあ、そんな畑違いな所にわざわざ転属させるか? 俺だったらお前に一番適した部署に入れてやるぜ」
隆幸の胸がズキリと痛む。高木に悪気はないのだろうが、そのセリフはなかなか胸にくる。
信彦にはそんな気持ちは更々ない。
隆幸を秘書課に転属させたのも彼の復讐をいつでも甘んじて受け入れられるために、だ。隆幸の仕事のことなど全く構っていない。
それでも少しは自分のことを気に掛けてくれるのではないか。
そう心のどこかで期待する自分がいる。親友を酷い形で裏切っておきながら、もしかしてこの罪が消える日が来るのではないかと、期待する自分がどこかにいる。だがその期待は今まで見事なまでに裏切られていた。
「信……社長はそんなに甘い奴じゃないよ」
隆幸はそのまま目の前の日本酒を一気に仰いだ。喉が焼けるように熱い。そのままゆっくりと胃にその熱さが落ちていく。胃にチリリと痛みが走った。
「お前、何か心配ごとでもあるのか?」
それまでクダを巻いていた高木が真摯な目で隆幸を見つめてくる。
「お前、最近辛そうだから……」
「やだなぁ。だからそれは慣れない仕事のせいだって。営業も大変だったけど秘書も細かいことに気を遣って大変なんだ」
酔った高木に心配されるなんて、よっぽど切羽詰まった顔をしていたのだろうか。隆幸は空元気を振りまいた。
「言いたくないならいいけど……辛くなったら絶対言えよ。俺、お前の味方だからな」
「ありがと……」
口では感謝を示したが心では高木に謝罪した。
俺はお前にそんなに心配されるいい人間じゃないんだ。平気で人を裏切って生きていた男なんだ……。
真理子との生活は楽しい思い出がたくさんある。だがそれを楽しいと思えば思う程、自分が醜い人間であることを思い知らされるのも事実だ。親友を裏切りながら楽しんでいた自分。その事実は消しようがない。
「お前さあ、無防備すぎ……」
唇に生暖かい物が触れる。それが彼の唇だと気付くのに少しばかり時間がかかった。
「高木!」
驚いて隣に座る高木を振り返る。衝立てで周りと隔てられているのと奥まった席だったお蔭で、このシーンを目の当たりにした他人がいないことに安堵した。
「お……俺……」
高木が口を開きかけた途端、聞き覚えのある声に遮られた。
「俺の秘書がこんな場所で男と逢引とは、驚いたものだな」
隆幸の体が硬直する。その声はここに居る筈のない彼の声だ。
「社長!」
隆幸より先に高木が声を上げた。隆幸に至っては信彦の顔さえまともには見られなかった。
「社長、こんな所でどうされたんですか? お一人ですか?」
高木は今のキスを見られたことには全く気にする素振りもせずに、堂々としている。そして信彦の背後に役員がいないことに気付くと、目の前の席を片付けはじめた。
「いや、いい。ありがとう。えーっと、君は確か隆幸の同期で仲良くしてもらっているうちの一人だったよね」
信彦は『一人』という言葉を強調して声を掛ける。何やら会話が続く気配だった。だが、隆幸は顔を上げることができないでいた。信彦の突き刺す様な視線が見ずとも隆幸をなじっているのが分かるからだ。
高木は高木で信彦に隆幸の大勢いる同期のうちの一人みたいな言い方をされて少し頭にきている様子だった。物言いがいやに挑戦的になっていた。
「いえ、いつも隆幸にはお世話になっております。特に仲の良い同期なので」
高木も『特に』を強調して言い返す。その態度に信彦は軽く片眉を上げて応えた。その形の整った口元からは次の言葉が発せられる気配はない。その沈黙に隆幸もようやく信彦の方を見ることができた。
視線が絡み合う。
*この続きは製品版でお楽しみください。
「まったくさあ、最近、隆幸冷てぇんじゃないの」
そんなに飲んだ筈ではないのに高木はクダを巻いてくる。
「冷たいって……仕方無いだろ。いい先輩ばかりだけど、秘書課なんて所に配属されたんだから。新人同然で俺だって毎日大変なんだぜ。おい、高木! 重〜い!」
そろそろ高木に辟易していた隆幸はその肩にかかった腕を煩そうに払った。
「お前の親友だったけ? あの社長。親友ならさあ、そんな畑違いな所にわざわざ転属させるか? 俺だったらお前に一番適した部署に入れてやるぜ」
隆幸の胸がズキリと痛む。高木に悪気はないのだろうが、そのセリフはなかなか胸にくる。
信彦にはそんな気持ちは更々ない。
隆幸を秘書課に転属させたのも彼の復讐をいつでも甘んじて受け入れられるために、だ。隆幸の仕事のことなど全く構っていない。
それでも少しは自分のことを気に掛けてくれるのではないか。
そう心のどこかで期待する自分がいる。親友を酷い形で裏切っておきながら、もしかしてこの罪が消える日が来るのではないかと、期待する自分がどこかにいる。だがその期待は今まで見事なまでに裏切られていた。
「信……社長はそんなに甘い奴じゃないよ」
隆幸はそのまま目の前の日本酒を一気に仰いだ。喉が焼けるように熱い。そのままゆっくりと胃にその熱さが落ちていく。胃にチリリと痛みが走った。
「お前、何か心配ごとでもあるのか?」
それまでクダを巻いていた高木が真摯な目で隆幸を見つめてくる。
「お前、最近辛そうだから……」
「やだなぁ。だからそれは慣れない仕事のせいだって。営業も大変だったけど秘書も細かいことに気を遣って大変なんだ」
酔った高木に心配されるなんて、よっぽど切羽詰まった顔をしていたのだろうか。隆幸は空元気を振りまいた。
「言いたくないならいいけど……辛くなったら絶対言えよ。俺、お前の味方だからな」
「ありがと……」
口では感謝を示したが心では高木に謝罪した。
俺はお前にそんなに心配されるいい人間じゃないんだ。平気で人を裏切って生きていた男なんだ……。
真理子との生活は楽しい思い出がたくさんある。だがそれを楽しいと思えば思う程、自分が醜い人間であることを思い知らされるのも事実だ。親友を裏切りながら楽しんでいた自分。その事実は消しようがない。
「お前さあ、無防備すぎ……」
唇に生暖かい物が触れる。それが彼の唇だと気付くのに少しばかり時間がかかった。
「高木!」
驚いて隣に座る高木を振り返る。衝立てで周りと隔てられているのと奥まった席だったお蔭で、このシーンを目の当たりにした他人がいないことに安堵した。
「お……俺……」
高木が口を開きかけた途端、聞き覚えのある声に遮られた。
「俺の秘書がこんな場所で男と逢引とは、驚いたものだな」
隆幸の体が硬直する。その声はここに居る筈のない彼の声だ。
「社長!」
隆幸より先に高木が声を上げた。隆幸に至っては信彦の顔さえまともには見られなかった。
「社長、こんな所でどうされたんですか? お一人ですか?」
高木は今のキスを見られたことには全く気にする素振りもせずに、堂々としている。そして信彦の背後に役員がいないことに気付くと、目の前の席を片付けはじめた。
「いや、いい。ありがとう。えーっと、君は確か隆幸の同期で仲良くしてもらっているうちの一人だったよね」
信彦は『一人』という言葉を強調して声を掛ける。何やら会話が続く気配だった。だが、隆幸は顔を上げることができないでいた。信彦の突き刺す様な視線が見ずとも隆幸をなじっているのが分かるからだ。
高木は高木で信彦に隆幸の大勢いる同期のうちの一人みたいな言い方をされて少し頭にきている様子だった。物言いがいやに挑戦的になっていた。
「いえ、いつも隆幸にはお世話になっております。特に仲の良い同期なので」
高木も『特に』を強調して言い返す。その態度に信彦は軽く片眉を上げて応えた。その形の整った口元からは次の言葉が発せられる気配はない。その沈黙に隆幸もようやく信彦の方を見ることができた。
視線が絡み合う。
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